第9話 土下座で許してもらえるほど甘くない
高い位置に太陽がある時間帯。
帝都のとあるレストランの個室を貸し切り、後日開催されるという『オリオン』について打合せを行っていた。
太陽光に暖められた壁から熱が放射し、室内は少し蒸暑くなってきている。
虫達の鳴き声が聞こえ、外からの視線を遮断するために降ろしているカーテンが、静かに風に揺れていた。
昼間であるが天井に吊られた魔道の灯が個室全体を照らし、8人掛けの丸テーブルに美人賢者達3人と、聖戦士が間隔を空け座っている。
帝国に16名しかいないA級冒険者をかけ、B級4位までの冒険者がおのおのでパーティーを組み、A級迷宮の攻略を競うオリオンが3日に開催される予定だ。
先日、獲物を横取りされ、信仰心が下がった原因をつくった張本人である忍者へ復讐を図るため、私は美人賢者のパーティーに参加していた。
そんな時である。
戦術等について会話を重ねていると、忍者からの使者としてやってきたロリ巨乳神官が姿を現した。
聖戦士には仮面を付けさせてJという名前で冒険者登録をさせているが、『俺の存在に気付く者がいるとしたら、それは
その言葉が現実となり、背中を向けていたはずの聖戦士の存在に気が付かれてしまったのだ。
「もしかして、あなたは
―――――――――次の瞬間、電光石火の勢いで聖戦士がロリ巨乳神官へ土下座をした。
石張りの床へ頭突きをすると、凄まじい音が部屋内にこだまし、その勢いに部屋の中央にある丸テーブルが揺れる。
スキル『石化状態』を獲得していなかったら、頭骸骨が陥没しているくらいの勢いだ。
聖戦士がロリ巨乳神官へ叫んだ。
「メルン。お前を傷つけてしまい、申し訳なかった。」
190cmある体が小さく丸まり、床に頭をへばりつけている。
万が一のことを考え、こういう状況に陥ったことを想定していた。
そう。私は聖戦士へ、ロリ巨乳神官に正体を気付かれてしまった場合、全力で土下座するように指示していたのだ。
うん、良い映像だ。
だが、私の満足度はまだ20%くらいだ。
その程度の土下座で、私の気持ちは満たされない。
そもそも土下座を指示した目的は、聖戦士のために助言をしたわけではない。
私が土下座をする姿が見たかっただけなのだ。
といいますか、土下座をしたくらいで、全てを水に流してくれって、女を舐めすぎだろ。
ロリ巨乳神官も冷めた目で聖戦士を見ている。
ここは一気にたたみ掛けさせてもらいます。
思いもよらぬ急展開に、美人賢者達は戸惑っている。
緊張した空気が張り詰める中、聖戦士を見下ろしながら低く冷たい声で言葉を叩きつけた。
「
「俺はこれから、全ての行動を改める!」
「やれやれです。簡単に土下座をする男は、必ずまた浮気するのが定番です。もっと額を床にめり込ますくらいの命を賭けた土下座を見せて下さいよ!」
「メルン。俺にチャンスをくれないだろうか。」
アホか。勝手に言ってろ。
聖戦士にチャンスなど与えるはずがない。
無限大にそんな機会は与えてやらないぜ!
私はやりますよ。
まだまだ続けますよ。
渾身の土下座と呼ぶにはまだ全然足りていない。
「全ての行動を改めるって何ですか。発言が軽くないですか。それって、口では何とでも言えるっていうやつですよね。ここを切り抜けさえすれば良いと思っているのでしょ。私には分かるのです。」
ロリ巨乳神官の瞳が見開き、口を真一文字にさせ、体を硬直させている。
強く拳をつくった手がブルブルと震えてうた。
悔しくて泣きたくなっている感じなのかしら。
ロリ巨乳神官が視線を合わせてきたので、静かに頷いた。
よし。罵倒してやれ!
私からのアイコンタクトを感じ取り、意を決したようにグッと頷いてきた。
「ジェット様。生きていてくれて、本当に良かったです。」
うむ。確かに生きていて良かった。
だが、それは想定していた言葉とは180度違う!いや、540度違う!
嫌な予感がする。
動揺する私をよそに、聖戦士が再び『ゴン』と床へ額を叩きつけてきた。
「メルン。すまなかった!」
「私は三華月様に言われました。ジェット様と向き合って話しをしなければならないと。私は後悔していました。」(5話)
そんな事を言いましたっけ。
全く記憶がない。
おそらく、適当に言った言葉なのだろう。
聖戦士から必死に訴える言葉が続いている。
「メルン。俺を信じてくれ。」
「本当に私は、ジェット様を信じていいのですか?」
信じるわけねぇだろ!
聖戦士は忍者を倒して、ハーレム王に戻り、私に処刑される未来が決まっているのだ。
というか、想定外の展開になっている。
どうしたものかと策を練り始めていると、様子を見守っていた美人賢者達3人が、空気を読めない言葉を掛けてきた。
「メルンさん。ジェットさんを信じてあげましょう。」
「そうだな。プライドを捨てて、ここまで出来る奴はいねぇぜ。」
「僕、感動しました。」
お前等、空気を読めよな!
というか、部外者は口を出すんじゃない!
オリオンに出て、一緒に忍者を倒すと約束したじゃないか。
ロリ巨乳神官が聖戦士の手を取っている。
そして、見つめ合い、甘い空気が流れていく。
なんてこった!
私は完全敗北した事を悟ってしまった。
◇
太陽の熱い日差しが帝都を照らし、既に気温は30度を超えていた。
乾いた風が吹き、耳障りな虫の鳴き声が聞こえてくる。
帝都の中心を横断するメインストーリートを走る馬車がゲートをくぐっていくと、教国へ延びている道を走り去り、そして入れ替わりに馬車が2台続いて入ってきていた。
ここは帝都から教国へいく出入口のゲートだ。
私の前には、聖戦士とロリ巨乳神官が手を繋いでいた。
青春しているのだな。
2人が、メルンの故郷である教国に行くというので見送りにきていた。
元はと言えば、
なぜそうなる。
私にとって最悪の展開だ。
美人賢者、勇者、強斥候は2人を祝福しているが、『オリオン』の方はどうすんだよと言いたい。
もう、どうでもいいですよね。
まず、幸せそうな表情を浮かべているロリ巨乳神官を真っ直ぐ見つめた。
「
聖女の印とは、文字通り聖女の証を示す紋章だ。
信仰心が高い者に授けられ、より高い神からの祝福を受けることが出来るとされている。
ロリ巨乳神官はまだ力不足であるが、聖女になる資質があること分かっていた。
まぁ無駄に揺れる乳が気になるところではあるが。
聖女の話しを聞いたロリ巨乳神官は戸惑っていた。
「私が聖女ですか。有難いと思うのですが、私はまだ聖女に成るには信仰心が足りておりません。」
「近い未来。信仰心が聖女に届く姿が見えています。問題ありません。ご存知のとおり私の言葉こそが神の意思です。」
「三華月様の仰せのままに従います。これからは聖女として精進させて頂きます。」
ロリ巨乳神官が深く頭を下げてきた。
聖戦士とロリ巨乳神官の関係をぶち壊して楽しむつもりであったが、どこで行動の選択ミスをしてしまったのかしら。
興味本位で土下座をさせたのがまずかったのだろうか。
もう終わってしまったことを考えても仕方がないか。
会話を聞いていた勇者達が驚きの声をあげている。
何をそんなに驚いているのかしら。
勇者と強斥候が、意味不明な質問をしてきた。
「おいおいおい。三華月。聖女にするって、お前、そんな大事なことを教会に断りなく、勝手に決めていいのかよ。」
「三華月様って。僕達同様、教会も暴力で支配しているんすか?」
「お前等。俺達の恩人、いや聖女様に対して、失礼過ぎるだろ!」
「皆さん。心配にはおよびません。三華月様は最も神格に高い聖女様です。言葉のとおり、私達神に仕える者は、三華月様こそが正しいと知っております。」
ロリ巨乳神官の言葉にどよめきがおきた。
明らかに勇者と強斥候が動揺している。
一般の者には理解しがたいことなのだろうが、神に仕える者からすると、当たり前のこと。
私こそが神の意志なのだ。
さて、S級相当の実力がある聖戦士の方であるが…。
「
「聖騎士!」
聖戦士と手を繋いでいたロリ巨乳神官が歓喜した。
聖騎士とは、教国を支える最も尊敬されるJOBの1つである。
今の聖戦士の実力なら申し分ない。
将来、ロリ巨乳聖女に尻に敷かれて、下僕のようになる聖騎士の姿が見えている。
再びうんこ達が私について、訳のわからない事を言ってきた。
「聖騎士といったら、教国でいうS級冒険者じゃないか。」
「三華月様って、最高司祭なみの権限があるんすか?」
最高司祭といっても、所詮、司祭の中で最高の立場にいる者なだけ。
私こそが、聖人職の頂点に立っている。
そのことを、うんこ達が知ることも、理解するする必要もないだろう。
その2人は、ロリ巨乳聖女が私のフォローとなる説明をしてきた。
「三華月様は、最高司祭様より神格が遥かに高く、尊い存在なのですよ。」
「お前。教国にいた方が、待遇がいいんじゃないの?」
「こんなところで遊んでいていいんすか?」
「私には世界を平和に導き、そして信仰心を稼ぐ使命がありますから。」
メルンの手に聖女の紋章を、ジェットの胸に聖騎士の紋章を刻んだ。
教国行きの馬車が、メルン達の乗車を待っている。
出発の時間になった。
最後の別れに、メルンが頭を深く下げてきた。
「三華月様。このご恩は忘れません。用立てて頂きましたお金は必ずお返しします。」
「返す必要はありません。私の信仰心には、お金は不要ですから。」
「感謝します。」
「はい、確かに、あなた達の感謝を受け取りました。」
そうそう。念のために釘をさしておこうかしら。
ロリ巨乳聖女の横で気配を消していた聖騎士をギロリと睨むと、体を硬直させ視線をそらしてきた。
ロリ神官がいない時、聖騎士へ浮気をしたらアルテミス神から天罰が下ると注意していた際、変な質問をしてきたのだ。
俺が浮気をした場合、具体的にどんな罰が下るのかと聞かれたため、『石化状態』しても無効になるくらいの物理攻撃を与え、ボコボコにしてあげますと、返事をしておいた。
「
「わ、分かっている。いや。分かっています。まじで勘弁して下さい。変なことを言わないで下さいよ。」
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