第8話 私の鬼可愛最強がそんな話しだと?

最深層でコカトリスを討伐したダンジョン内からは、魔物の気配は消え、淀みない風が吹いていた。

新たなダンジョンマスターの出現については明日、明後日にも出てくることがあるが正確な期間は不明である。


戦力外であった勇者と強斥候は、討伐されたコカトリスから取り出された魔石がS級相当、もしくはそれ以上の大きさであったことを見て、大はしゃぎしていた。

目的の一つである美人賢者の冒険者順位を4位以内へ押し上げることは達成し、これで後日開催されるオリオンに出る権利を得ることが出来ただろう。

もう一つの目的、聖戦士の救出については、美人賢者アメリアは岩地に仰向けになり石化されていた聖戦士ジェットの治療をしてくれている。

そして『浄化』を発動させて10分が経過した頃、石化で止まっていた聖戦士の心臓が活動を再開した。

美人賢者からアイコンタクトを受け、まずは聖戦士の名前を呼びかけてみた。



聖戦士ジェット、私の声が聞こえていますか。」



地面へ仰向けになっている体を揺らし、名前を呼んでみたが反応がない。

心臓が動いても、意識を戻さないことはある。

はしゃいでいた勇者と強斥候も、聖戦士の様子を心配そうに覗き込み、緊張した空気は流れ始めていた。

ここは少しショックを与えた方がいいかしら。

少し弱めな感じで、聖戦士の頭へ拳を入れてみた。



『ボコ。』

「おい。今、変な音がしたぞ。」

「頭蓋骨を砕いたんじゃないっすか。」



頭蓋骨を砕くって、死なない程度くらいの加減くらいは出来ますよ。

私を常識が欠如した猛獣とでも思っているのかしら。

それよりも、聖戦士の頭を殴ってみてだが、妙に硬い感じがした。

その時、聖戦士がピクリと動き、うめき声を出し始めた。

これは先ほど与えたダメージによるものだろうか。

苦痛に顔を歪めている聖戦士へ、大声で呼びかけてみた。



聖戦士ジェット、私は三華月です。分かりますか。」

「ああ、お前は聖女だったな。」



私の声にようやく聖戦士の目がひらくと、焦点が定まっていない視線が私の方へ動き、たどたどしい口調で反応してきた。

会話が出来て、私の事も認識出来ているようだ。

目は虚ろであるが、じきに意識もはっきりしてくるだろう。

となると次は記憶の確認だな。



聖戦士あなたは最下層でコカトリスに出会い、『石化』してしまった事を覚えていますか。」

「そうだ、俺は馬鹿でかいコカトリスに出会ってしまい、なすすべもなく『石化光線』を受けたんだ。」

「そのコカトリスは討伐済みです。そして石化状態だった聖戦士あなたを、美人賢者アメリアが、解除しました。」

「そうか。それはすまなかったな。」



記憶の方も正常なようだ。

これなら忍者を討伐する駒として使えそうだ。

引き続き身体に異常がないか確認していくと、何か違和感がある。

この違和感の正体は何かしら。

姿は変わりないが、聖戦士の体重がとても重くなっているように感じる。

仰向けになっている聖戦士を挟み、向かいにいる美人賢者も違和感がある事に気がついている様子だ。



聖戦士ジェット、体に異常を感じますか。」

「感じる。俺の『石化』はまだ解けていない気がする。」



『石化状態』が解けていない気がするだと。

美人賢者と目を合わすと『そんなはずはない』とのゼスチャーをしてきた。

『石化』は完全に解除されていると私にも分かる。

やはり何かがおかしい。

———————聖戦士はS級スキル『石化状態』を獲得していた。

スキル『石化状態』は、初めて聞くスキルだ。

どうやら、石化した特性を発動しながら通常の行動が可能なようだ。



聖戦士ジェット、剣を振ってみて下さい。」

「分かった。」



既に立ち上がっていた聖戦士は、鞘から剣を抜き振ってみせた。

動作に違和感は見られない。

本人も何ら問題ないようだ。

いろいろ試してみて分かったことは、聖戦士の体の強度が異常に上がっており、更に異常状態を一切受け付けない体質になっていた。

『石化状態』のまま動く事が出来るこのスキルは相当に優れている。



聖戦士あなたは最強です。」

「俺が最強だと?」


「スキル『石化状態』を獲得した聖戦士あなたは、忍者こうたに勝つ事が出来るかもしれません。」

「俺が忍者こうたを倒せるのか?」



虚ろだった聖戦士の瞳に輝きが戻ってきた。

なんといっても『異常状態無効』の効果が素晴らしい。

更に物理ダメージもほぼ受けない。

聖戦士はS級冒険者と同等の力を持っていると言えるだろう。

さて、聖戦士にはやる気を出してもらわなければならない。



「私もサポートしますので、聖戦士あなたが忍者に負ける事は無いと思いますよ。」



一つのシナリオをたててみた。

1.【オリオン】で、聖戦士が忍者を倒す。

2.聖戦士がファミリーのボスに復帰し、ハーレム王に戻る。

3.ハーレム王に元に戻った聖騎士に、討伐の神託が降りる。

4.私が聖戦士を討伐する。

5.そして私の信仰心が上がる。


このプランで行きましょう。

私の信仰心を下げやがった忍者に復讐ができるしな。

これって逆恨みではあるが、何ら問題なしだ。

これが私の平常運転なのだから。

よし、聖戦士、忍者に逆襲をしますよ。




帝都では、行方不明となっていた聖戦士が冒険者登録から外され、合わせて『オリオン』の開催が宣言されていた。

開催は3日後。

上位4位までのB級冒険者がそれぞれパーティーを組み、ギルドが指定した『A級ダンジョン』を攻略したパーティーが『オリオン』の勝者となり、A級冒険者に昇格するのだ。


私は、鉄仮面で顔を隠しフードを頭の上からすっぽりかぶった聖戦士と一緒に、冒険者の登録を行うためにギルド麒麟に来ていた。

3日後に開催される『オリオン』に美人賢者アメリアパーティーの一員として参加するために、冒険者登録を行いに来たのだ。

さすが帝都最強ギルドである。

受付カウンターには若い女の子が10名座っており、館内には100名以上の冒険者がウロウロしていた。

新人冒険者を見かけて喧嘩を売るような非常識な者はいない。

聖戦士がかぶっている鉄仮面の姿が怪し過ぎて、思いっきりギルド館内で目立っている。



「冒険者登録の申請ですね。」

「私は三華月で、JOBは聖女です。」

「はい、ではF級冒険者に登録させて頂きます。」

「私が初級(F級)冒険者からスタートしなければならないのですか。」



人類史上最強である私でも、規則に従って初級冒険者から始めないといけないのか。

それとも受付のお姉さんは聖女である私の事を知らないのだろうか。

念のために、私のことを知っているのかを確かめてみることにした。



「あのぉ、受付のお嬢さん。私は聖女の三華月です。ご存知ありませんか。」

「もちろん知っています。鬼可愛い三華月様の事を知らない女子はこの帝都にはいませんよ。」


「鬼可愛は最強と聞きましたけど。」

「はい、三華月様は鬼可愛いくて、超最強です。なんせ、帝国の最強戦力ですから。」



帝国の最強戦力なのは知っているが、やはり鬼可愛いは超最強だったのか。

ふみふみ、受付嬢は物事が超分かっているではないか。

これはお茶でも奢らなければならない気持ちになってしまったな。

そのギルドのお姉さんと、機嫌良く話しをしていると聖戦士が口を挟んできた。



「おい受付、そんな話しよりも俺の冒険者登録を早くお願いしたいのだが。」



―――――――私の鬼可愛最強がそんな話しだと!



「失礼しました。お名前はJ《ジェイ》さん、JOBは戦士ですね。登録させて頂きます。」

「急いでくれると有難い。」



反射的に聖戦士へ鉄拳制裁をいれようとした行為を思いとどまった自身に対して称賛しながらギルドホールの壁へ視線を移すと、冒険者のランキングが掲載されていた。

美人賢者はB級2位に入っている。

ちなみにB級1位は、忍者の光太だ。

これで私はオリオンに参加し、忍者へ復讐できる資格ができたというわけだな。

次の作業は忍者の『影使い』に『SKILL VIRUS』を撃ち込むだけであるが、忍者に対してスキル『隠密』を使用して接近するのは危険なため、遠くから狙撃しなければならないだろう。




とあるレストラン。

個室を使用し、聖戦士を加えた美人賢者達で3日後に開催される『オリオン』について話しをしていた。

中央には8人掛けの丸テーブルがあり、壁際には予備の椅子が並べられ、窓からは太陽の光が入ってきている。



「『オリオン』の勝利条件は、A級ダンジョンを攻略したものが勝者と発表がありました。」

「結局のところ、三華月がいれば楽勝だろ。」

「僕達の勝利は確実っすね。」



緩く緊張感の無い空気が流れている。

私単独で攻略するなら何ら問題ないのだが、勇者をはじめ実力が足りていない者が足手まといというのが実際だ。

私の思いを察知したように聖戦士と美人賢者が、勇者と強斥候を戒める発言を開始してきた。



「聖女はそうかもしれないが、A級ダンジョンは俺やお前達に取って楽勝ではないぞ。」

「そうです。聖戦士ジェット様の言う通りです。もっと緊張感を持ちましょう。」


「ダンジョンマスターがS級であるかもしれない事も忘れるなよ。」

「いや。いや。鬼聖女がいれば、S級の魔物でも問題ないだろ。」

「実際に、超大型のコカトリスを瞬殺した鬼聖女様っすからね。」

「「ガハハハッ」」



うんこ2人には注意を促しても無駄だな。

実際のところはS級のダンジョンマスターについては未知のスキルに対応出来るがポイントである。

私でも『月の加護』が受けられないダンジョン内において、ステータスダウンの効果がある『アビスカーズ』や、究極SKILLを繰り出されてしまったら、対応できるか不安なのだ。

だがスキル『石化状態』を獲得した聖戦士もいる事だし、不安要素は少なからず減少しているだろう。



「S級相当のダンジョンマスターについては私と聖戦士ジェットで戦います。」

「よし。頼んだぜ。」

「安心して下さい。最初から、そのつもりっす。」

「ちょっと待ってくれ。俺をあてにしているのか!」



うむ。うんこ2人は安定の反応だが、聖戦士あなたも驚いてどうする。

聖戦士の『石化効果』は、私にとって無敵の盾役なのだよ。

美人賢者については、常識ある反応をしている。



「三華月様、聖戦士ジェット様、頼ってばかりで申し訳ありません。」

美人賢者アメリア聖戦士ジェットのサポートをお願いします。強斥候ふぶきつきは警戒してくれていればいいです。」

「お、おい、勇者おれの事を忘れているぞ。」



勇者か。

B級ダンジョン攻略の際、前衛が務まらなかった者に出来る事とは、結構難題かもしれない。

荷物持ちも出来ないし。

すぐに逃げようとするし。



勇者あなたは、適当にしてもらえていればいいです。」

「それは臨機応変に動くジョーカーみたいな役割ということだな。」



なんて、前向きな奴なんだ。

その時、レストランの個室の扉を誰かがノックしてきた。

聖戦士は、外部にその存在が知られてはまずいため、ドアから背を向けさせた。

そして扉を開くと、先日酒場で勇者がダンジョンから帰ってきていないことを聞いて、ボロ泣きしていたロリ巨乳神官メルンの姿がある。

ロリ巨乳神官が、忍者が美人賢者と話し合いをしたいとの話しを伝えにきたのだ。



忍者こうたが、美人賢者アメリア様と一度話し合いたいとの申し出があり、お伝えにまいりました。」

「承知しました、そちらの屋敷まで伺いに上がることにしましょう。」



美人賢者は即答したが、その判断に勇者は反対し、強斥候は賛成した。

もちろん私は賛成である。

面白い事になりそうだからだ。

更に忍者のスキル『影使い』へ『SKILL_VIRUS』を撃ち込めるチャンスでもある。

―――――――その時、ロリ巨乳神官に、背中を向けさせていた聖戦士の正体について、勘付かれてしまった。



「もしかして、あなたはジェット様なのではありませんか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る