第7話 vsコカトリス
古代人が築いたと言われている帝都の地下には迷宮が広がり、地下1階層には10万㎢規模の迷宮が広がっていた。(参考。北海道の大きさが約8万㎢です)
石が敷き詰められた30m程度ある天井から光が落ち、迷宮を昼間のように明るく照らしている。
地表を支えるための柱が等間隔に建っているが、見通しの良い地形をしており、全体が森となっていた。
ここから地下2階層に降りていくのである。
現在私は先日発見されたA級迷宮の地下2階層に単独で降りてきていた。
砂漠が広がるエリアであり、地下1階層同様に昼間のように明るい。
C級相当の魔物が砂地に隠れており、探索系スキルがいないとS級冒険者でも攻略が難しい地形特性だ。
砂地内から『隠密』効果を発動させながら忍び寄ってくる魔物が特に危険であるが、スキル『未来視』を獲得している私にとっては、難しい相手ではない。
目的は地下4階層に残してきた聖戦士の救出。
攻撃を仕掛けてきた魔物を未来視が予知し、召喚した運命の弓で魔物を掃討したころに美人賢者達がようやく追い付いてきた。
「
「三華月。久しぶりだな。これから
「ついでにA級迷宮の攻略も行う予定っす。」
モブ勇者のくせに相変わらず態度がでかい。
体格にいい背中に大剣を背負い、装備はそれなりのものが揃えられているが、いかんせん全てが馬鹿っぽい。
世界を救う運命をもっているはずであるが、ここまで見る限りではその気配は微塵もない。
その相棒である強斥候は黒装束に2本の短剣を装備している小柄な男だ。
こちらも勇者と同様にお馬鹿であるが、今は2人の相手をしている時間はない。
隊列について指示しながら、地下3階層への階段を降り始めた。
「隊列は私が先頭を行きます。中央には
「おい、ちょっと待て。その隊列に
「雑魚相当である
「雑魚とはどう言うことだ。俺は世界を護る勇者なんだぞ!」
「はいはい。頑張って世界を護ってください。急ぎますので下へ降りますよ。」
◇
ダンジョン地下4層。
真っ白な岩石で構成されている天井から発せられる光が、ダンジョン内を明るく照らしている。
トンネル状に延びている迷宮は、直径が20m程度ある半円形状をしており、5〜6名ほどで構成されるパーティーが戦闘を行うぶんについては、狭いという感覚はないくらいの広さだ。
淀みない空気が流れ、異臭の類もなく、快適な環境が保たれている。
聖戦士を置き去りにして8時間が経過し、その場所に戻ってきていた。
やはり聖戦士の姿は無い。
強斥候に視線を移し、聖戦士の追跡が可能であるかを尋ねてみた。
「
「はい。問題ないっす。
さすがだな。
暗殺系のスキルを数多く獲得している私でもその足跡を見極めることは出来ない。
お馬鹿ではあるが斥候としての能力は充分なものを揃えていると言えるだろう。
同じうんこでも
残されていた足跡は最下層である地下5階層へ続いていた。
A級迷宮の最下層にはA級以上の迷宮主が出てくる。
そう。場合によってはS級相当の魔物が出てくることがあるのだ。
もし迷宮主がS級だったとしたら、美人賢者達は戦力外であり、そのことは3人ともよく理解し、緊張して軽口を発しなくなっていた。
地下5階層が4階層と同じ形状の地形となっていた。
3人が緊張している。
重苦しい空気に耐えきれなくなった勇者が先頭を歩く強斥候に声をかけてきた。
「
「いや。今しがた
強斥候が送る視線の先。
―――――――—床に『石化』している人間が転がっていた。
その者は、間違いなく聖戦士本人だ。
3人が石化している聖戦士の姿を見て体を硬直させている。
その理由は、石化させた正体について想定したからだろう。
美人賢者が緊張した面持ちでその確認をしてきた。
「三華月様。この石化は、『コカトリス』の仕業なのでしょうか?」
3人の視線が集中する中、静かにうなずいて返事をした。
その魔物の名はコカトリス。
S級相当の魔物で、その中でも最も恐れられている個体だ。
ノーモーションで光速の速さの『石化光線』を撃ってくる。
まさに回避不可能な攻撃を繰り出しくるのだ。
加えて4つの心臓をもっており、討伐するにしても厄介な存在である。
コカトリス攻略にはA級スキル『セイグリットウォール』が必須条件であり、そのスキルが無いと、S級相当の冒険者でも相手にならない。
勇者は「やばい。やばい。」と呪文のように呟き、強斥候は極度の緊張感に耐えられなり嗚咽をあげていた。
唯一冷静である美人賢者が震えた声で『セイグリットウォール』の獲得の有無について質問をしてきた。
「三華月様。もしかして、『セイグリットウォール』をお持ちされているのでしょうか。」
「残念ながら、獲得しておりません。」
私の言葉に、勇者と強斥候の体が上の階の方へ向き、逃走をしようとしている姿がある。
強斥候はともかく、勇敢なのが勇者なのだろ。
勇者の中にも駄目な奴がいるのだな。
そもそもであるが、今日中にこのA級迷宮を攻略しなければ美人賢者はB級4位以内に入ることが出来なくなり、A級冒険者を選定する『オリオン』に参加できなくなる。
既に体の向きが来た道の方へ回転している勇者へ確認をした。
「勇者。あなたはここに来た目的を忘れてしまったのですか。」
「A級迷宮を攻略するためだ。だがよう。真面目にコカトリス攻略って無理すぎるだろ。」
「S級の中でも最上位にヤバイ奴っす。」
「三華月様。さすがにここは撤退するべきではないでしょうか。」
「コカトリスが出てきましたら、私が相手をしますので安心して下さい。」
「あれを相手にするのかよ。」
「ヤバイっす。」
「三華月様。お任せして大丈夫なのでしょうか。」
「お任せ下さい。
「申し訳ありません。石化解除の『浄化』には10分程度の時間が必要です。」
A級迷宮の最下層には出てくる魔物はB級以上が確定しているし、B級相当の3人ではここにいるだけで精神的にきついものと思われる。
緊張状態の中で10分間も浄化を継続してもらうのはさすがに酷だ。
賢者職は万能ではあるが、回復系の専門ではないしやむを得ないといったところか。
仕方ない。
石化解除は上の階層でしてもらいましょう。
「
「重くて運べるわけねぇだろ。俺は世界を護る勇者で、荷物持ちではないんだぞ。」
ギロリと勇者を睨むと素早く美人賢者の背後に身を隠している。
荷物持ちの方が全然役に立つのではなかろうか。
消去法になりますが、ここは先にコカトリスを殺処分し安全を確保することにしましょう。
「それでは、
緊張感が高まっていく中、私の提案に勇者・強斥候が慌てて両手を前手に突き出して、『待て。待て。』のポーズをしてきた。
討伐は不可能だと初めから思っているようだ。
勇者と強斥候の顔から玉の汗が地面へ滴り落ちている。
「考え直してくれ。コカトリスは真剣にやばいって。」
「予備動作無しで回避不可能な『石化光線』を撃つ奴なんです。S級冒険者パーティーでも全滅してしまう魔物なんすよ。」
「石化光線ですか。その射程外からコカトリスを撃ち抜きます。安心していて下さい。」
「そ、そうか。そうだよな。遠距離攻撃を仕掛けられれば、石化光線の恐怖はないというわけか。」
「なるほどっす。もしかして三華月様にとって、コカトリスは楽勝なんすか。」
「はい。楽勝です。」
私からの言葉を聞き、3人の表情が少しずつ落ち着いていく。
その時、迷宮の奥から魔物の大群が進行してくる足音が聞こえてきた。
迷宮主が配下を引き連れて向かってきているのだろう。
統率された魔物の大群は、攻撃系、防御系、斥候系、回復系といったようにおのおのの魔物が役割をもっている。
それ故に対処が難しい。
初見であるが、S級相当の個体が1体。A級が5体、B級が残り100体以上といった構成かしら。
更にコカトリスがいるとなると、S級相当の冒険者10名でも対応できない。
伸びるダンジョンの向こうに大群が見えてきた。
ひと際、大きい個体がいる。
勇者達も気が付いたようだ。
「おいおいおい。あのコカトリス。ちょっと大き過ぎないか。」
「ちょっとどころじゃないっす。超ド級に大きいコカトリスっす。」
「コカトリスのレア種かよ。だとしたら、S級の最上位のレア種になるじゃないか。今なら間に合う。逃げようぜ!」
「駄目っす。上へ昇る階段が塞がれているっす。」
コカトリスから逃げるという選択肢は無い。
あなた達にはオリオンに出場してもらい、忍者を倒してもらわなければならない。
それに私にとって『コカトリス』は難敵でもないしな。
何よりあのS級でも最上位の個体だ。討伐したら信仰心が少なからず上がるだろう。
そう。奴等を見逃す理由がないのだ。
「
「お、おう。」
「
「了解っす。」
コカトリスの通常のサイズは50cm程度だが、視界に入る個体は体長3m以上ある。
何を食ったらそんなに成長できるのでしょうか。
ここからの距離は約100m。
そのコカトリスは配下の魔物達を下がらせて単独でこちらへ歩き始めてきた。
何の真似かしら。
狙い撃って下さいといった感じに見える。
いいでしょう。それでは遠慮なく撃ち抜いて差し上げましょう。
――――――――スナイパーモードの弓を召喚し、更に運命の矢にスキル『必殺』をシンクロさせてリロードを開始する。
狩人ならば一撃で敵を仕留めるのが定石なのだが、やはり無防備に単独で歩いてくる姿に違和感がある。
試しに足を撃ち抜いてみることにしましょう。
足を広げて背筋を伸ばし、息を大きく吐いた。
弓をゆっくり引き絞りながらスキル『ロックオン』をコカトリスの足に発動させ、狙いをつけていく。
発射される弓矢の速度は音速5。
回避は不可能だ。
引き絞っていく弓が臨界点に達した。
それでは狙い撃たせてもらいます。
――――――――SHOOT
コカトリスの片足を超音速の矢が貫通し完全破壊したのと同時に、私の片足が光速で発射されてきた『石化光線』に被弾した。
これは驚いた。
私が狙い撃った同じ箇所に『石化光線』を食らってしまうとは。
なるほど。
詳細は不明だが、コカトリスは『カウンター』系のスキルを獲得しているようだ。
4つ持っている心臓を1つ破壊されたとしても、その『カウンター』で敵は絶滅してしまうってわけか。
100m先では、片足を完全破壊されて悲鳴を上げるコカトリスのまわりに『回復』系のスキルを使用する個体が集まり始め、粉砕したコカトリスの足の『再生』を開始している。
「再生するなんて、ずるくないですか。」
そういう私も『石化光線』の直撃を受けてしまった箇所は、スキル『自己再生』の効果により石化から再生済みだったりする。
そう。コカトリスが私にとって相性がいい魔物という理由は、遠距離攻撃ができるからではない。
スキル『自己再生』を獲得している私は、石化に対する恐怖が無いからだ。
そうはいうものの、『カウンタースキル』については驚いた。
この個体は普通のコカトリスよりも格上な存在なのだろう。
コカトリスと回復系の魔物達を守る複数の防御系個体が、私達からの遠距離攻撃に備えてシールドを張り始めている。
統率力がとれた優れた軍隊だ。
まぁ私にとって、そんなシールドなど紙切れみたいなものだけどな。
まずはその防御系の個体を殲滅させて頂きましょう。
運命の矢を連続でリロードします。
――――――――SHOOT
撃ち放った矢が、張り巡らせていたシールドを貫通し、連続で防御系の個体を撃ち抜いていく。
一方的な殺戮だ。
回復系の魔物達を守るシールドを全て引き剥がしたところで、運命の弓をコンパクトな形状の連射モードで召喚をした。
そろそろフィニッシュの時間です。
間合いを詰めて連射してしとめるために『跳躍』をし、RABBIT_SHOOTにて回復系の魔物達を次々に撃ち抜いていき、掃討を完了した。
片足を粉砕されて治療が間に合わず、足元で転がっているコカトリスと視線が重なると、目が見開き、口をパクパクさせ、大粒の汗をかいている。
≪何故、お前の足が石化していないんだ!≫
「あらあら。それがあなたの最後の言葉ですか。」
私の言葉にコカトリスが『石化光線』を発射しようとしたが、私の動作のほうが速い。
――――――――RABBIT_SHOOT
連射された運命の矢がコカトリスの全身を貫いた。
コカトリスのカウンタースキルは発揮されてない。
先ほどの一撃は『遠距離対応』のスキルだったのかしら。
私以外の者だと、討伐出来ない個体だったかもしれないな。
コカトリスを倒し、信仰心が上昇した。
美人賢者、勇者、強斥候の3人は、まさか単独で超巨大コカトリスに圧勝すると思っていなかったようだ。
「三華月様。お疲れ様です。お怪我はありませんか。」
「お前、なんで『石化』しないの? 無敵じゃん。俺、これから、お前への対応を改める事にするわ。」
「三華月様。さすがっす。鬼可愛いは、最強っす!」
今更ながら、私への対応を改めるとは、
とはいうものの、私が鬼可愛いく最強なのは否定出来ない。
気がつくと、強斥候が早速といった感じでコカトリスの解体作業を始めていた。
迷宮主から出てくる魔石は消えることなく、迷宮の外へ持ち出すことが出来るのだが、早くしないと本体そのものが消滅してしまうからだ。
そして純度の高い『魔石』が出てきた。
「これがS級の魔石なのかよ。でか過ぎじゃねぇか。」
「このサイズ。間違いなくS級以上っすよ。」
「そうか、そうか。これでアメリアがB級4以内になるのは確定だな。」
「二人共。少し静かにしていて下さい。これから『浄化』にて、ジェット様の『石化解除』をさせてもらいます。」
美人賢者が、石化状態の聖戦士に『浄化』を発動させ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます