もう推しには、私しかいない。
土蛇 尚
私の
もう私以外誰もいない。それでも私は推す。
タグ検索してもずーと私の投稿だけ。いいねは全然つかない。それでも私は推す。
アニメが終わって5年。誰も観ないからだろう、推しのアニメはいつの間にかサブスクの配信から消えていた。高評価を入れてたのに。やっぱり円盤は大事、そう思った。
公式のアカウントはボットのようにBlu-rayボックスの宣伝しかしないけど、私は推しの誕生日には、バースデーイラストと生誕タグでお祝いするんだ。いくらTLを見ても誰もやってないし、同じ界隈だったフォロワーは「あけましておめでとうございます」からずっと更新がない。それでも私は推す。
グッツのマグカップはだいぶ前に割ってしまって、保存用は大事にしまってある。二つ買ってて良かった。
この前、リサイクル店にいったら同じ物が売っていてすぐに保護した。他のものに埋もれてポツンとあった推しの顔のプリントされたマグカップ。でも使う気にはなれなくて、保存用の方を出そうかとも思ったけど結局しなかった。
もとは投稿サイトの小説だった。新連載欄から見つけて、どんどん人気が出ていって、ついにはアニメ化までされた。
あの頃は楽しかった。TLではいつも誰かが語っていた。
物語はこんな感じだ。
動画配信者として広告で収入を得ていた推し、その家にある日突然小さい赤ちゃんがやってくる。
投稿と子育てに追われながら、頑張る推しの姿にハラハラしたし、赤ちゃんは可愛かった。推しを知るまで配信者って楽そうだし良いなぁと思ってたけど全然違った。推しはいつも一生懸命で、そんな姿を見ていると私も頑張れた。
ある日、推しがトレンドに入っていた。こんな事何年もなかったのに!。しかも発端は私のファンアートみたいだ。
誰も追ってない古いコンテンツのファンアートを、ひたすら一人だけ書いてる人がいるぞってツイートがバズってた。
もしかしてと思って原作者さんのアカウントを見に行く。鼓動が早くなる。スマホを握る手に力が入る。
……RTばかりが並んでて、投稿は止まっていた。
でもこのアニメ私も見てた、赤ちゃん可愛かった、そんなコメントがあって嬉しくなった。
そんな騒ぎも数日で過ぎてしまった。口は悪いけど、しばらく行ってなかったお店がいざ潰れるとなって駆けつける客みたいだ。時々でいいから通ってくれたら良かったのに、そう思った。
もう推しには私しかいないのだと思う。もう何度目かわからないけど、原作を読み返してアニメを周回する。13話しかないアニメ、しかも途中で原作者が倒れてしまって最後の三話は、オリジナルエピソードになっている。
でも私は、動いてる推しも、本の推しも好き。
その原作もずっと更新はない。
他に誰もいなくなったって、私は推し活を続ける。だってもう推しには私しかいないから。
ある日スマホに通知がきた。
『最新話投稿、連載再開します。ずっと見てくれた〇〇さんありがとう』
終わり
もう推しには、私しかいない。 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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