第3話 初孫 一樹
皇期15年
充と安曇さんの間に子供が産まれた。
私、姑の澄麗、齢75にして初孫に恵まれた。
男の子だった。
やっぱり、女の子は難しいのかな?などと、つまらないことが頭をよぎる。
この星では、圧倒的に女の子は生まれ難い。
これまで、10人の子供を国に提供してきた安曇さんも、女の子を産んだ経験は無いと言っていた。
皇国による強制性行為法は、施行されて早15年。
年々女の子は減って、今では、男性の体内に子宮を定着させる遺伝子治療が当たり前になった。
ただし、治療出来るのは基本的にはCランク者のみ。ABランクは今迄同様に自然性行為可能だし、DEランク者は、子を持つ機能が無い上に、そもそも産むことを認められていない。
月々支給の『スメコ』でも育てることは出来る。
だが、躾や教育が出来ないのだ。
残念ながら、彼等にその能力は備わっていない。
ただし、ABランク者が妻として迎え、一緒に子供に対する責任を果たす、と皇国に誓った場合のみ、Dランク者も子を持てた。
だが、不自然な遺伝子組み換えのため、産むときにはどうしても帝王切開が必要だった。
極稀に命を落とす者もいた。
我が家の天使は一樹と名付けられた。
この子は赤子のくせに、俺は美人だと主張しているかのごとく、本当に整った顔立ちをして産まれてきた。
蝶よ花よ、とは育てられなかった。
そりゃそうだわ。
両親揃って教育者。
二人共帝大関係者。
躾も教育もそれゃもう厳しかった。
因みに、まだ赤ちゃんだよ。
婆婆としては、もうちょいユトリ教育をーっ!と、望んでしまう所だが、そこは姑が口出ししちゃいけない所だ。仕方が無い、諦めよう。
充の時と同じように、一樹にも色々な話を聞かせた。家から皇国バスを利用して10分程の所にある、安価な貸し本屋『澄恋堂』。
月に2回は通って、知識を仕入れてはブラッシュアップに勤しんで…。
古い知識で教えたら、何か問題起きた時に怒られるのって私だものね。
AIで読み放題って?
ん、紙に触りたいのよ。
カフェでお茶したいし。
大好きなレアチーズケーキも食べたいし。
その辺は察して!
「ばあば、おはなちちて!」
ん〜可愛い。
でも、ごめんね。今日は畑に行かなくちゃ。
婆婆の作ってるお野菜は『カフェ澄恋堂』と、一部『レストラン永遠』に卸してるんだよ。でね、今日は来季の作付けの打合せなの。って、まだ理解できないよねー。
ん〜、どうしよ〜、いいや、連れてっちゃお!
今日は私の都合に合わせて、充が在宅勤務中。
「充ーっ、一樹を畑に連れてってもいい?」
「会うのは東さんでしょ。問題無いんじゃない。」
畑までの道中で、散歩がてらお話するかー。
甘い甘〜い、お婆ちゃんですね。
畑での作付け協議中
「あらっ?一樹?」
居ない!何処ー!!
「キャッキャッ!」
んっ?
畑に寝そべる一樹発見。
うわっ、ミミズと戯れてるよ!全身畑の土で真っ黒けっけ。髪の中まで土だらけ。
「アハハ、充君に怒られるぞスーちゃん♡」
的確なご指摘ありがとうマー君。
話し込み過ぎたね…。
この状況は不味い。
息子夫婦に絞られる。
「マー君、また明日、出直してもいい?時間取れる?」
「クククッ!」
「楽しんでるでしょ!もう!!」
「スーちゃん、明日ね♡後で連絡する♡♡クククッ。」
プクッ!
年甲斐もなく膨れっ面になる私。
この幼馴染みは、どんな表情も受入OK。
許容範囲が広くて助かるわ。
「ごめんね。また明日ね。一樹〜、あ〜あ、泥だらけだね〜。」
「母さん、お帰りって、うわっ一樹!」
うっ、見付かるの早っ。
「パパ〜。」
トテトテトテ
「たのちかったの。ニョロニョロいっぱいでね。はたけでおはなちちたの。」
「そっかーっ。良かったな一樹。畑好きか?」
「バアバのはたけしゅき。」
意外な展開…。
充に、一樹とお風呂に入ってもらって、手を洗って、着替えてっと、そうこうするうちに安曇さんが帰ってくる。
「お義母さん、玄関に泥が…。」
一樹の服を見て
「原因はコレでしたか。随分楽しかったみたいですね〜。フフフ。」
予想外な反応…。
皆で夕飯を食べてから家族会議開催。
「お義母さん。」
ひえっ、ヤッパリ怒られる?
「一樹をもっと畑に連れ出して下さいませんか?」
えっ?
「母さん、風呂の中で一樹興奮しちゃってさ。尋常じゃなく楽しかったみたいなんだよ。」
「安曇さん?充?泥だらけはいいの?」
「俺達の子だし、楽しそうな事を発見したら夢中になると思うんだよね。だからしょうがない。興味の対象が、もしかしたら、一樹のそれは畑なのかもしれないから。」
「あ、安曇さんも、それでいいの?」
「こんな小さい内に自分の道を見付けるなんて。将来大物になると思いません?楽しみだわ〜。ね、充さん。」
この二人、似た者夫婦だったのか。
マー君から連絡が来た。
「どうだった?」
「それが、怒られなかった。」
「へーっ、意外。」
「でしょう。もうビックリ!」
「で、明日、今日と同じ時間で都合ついたから。」
「ごめんね〜、中途半端にしちゃって〜。」
「俺は、いつでも、気長に待ってるよ♡」
色んな意味を込めた一言。
「ありがとう。また明日ね。」
「じゃ、オヤスミ。」
『カフェ澄恋堂』貸し本屋の『澄恋堂』。
どちらの存在も息子夫婦には知らせていない。
野菜は『レストラン永遠』にのみ、卸してることになっている。
知られたくない秘密の場所。
もう少しだけ、秘密にさせてね。
翌日、昨日と同じ時間帯。
相談しながら一樹を観察。
ミミズに「キャッキャッ!」
葉っぱに「キャッキャッ!」
お陽様に「キャッキャッ!」
何にでも「キャッキャッ!」
うん、よくわからない!!
「全然飽きてないね。」
「そーだねー。」
「あの位小さい時って、もっと飽きっぽくない?」
「そう思う?」
「うん。」
「ちょっと分からないから、ちょくちょく連れてきてみるわ。」
「男の子って、スイッチ入ると猪突猛進型多いから。案外ハマるかもよ、畑。」
「マー君の資産運用みたいな?」
「今それ持ち出すかー!」
二人だけの会話。
二人にしか分からない内容。
一樹、秘密にしててね。
「大ママちゃん。」
いつの頃からか、一樹はバアバを卒業して、大ママ呼びとなった。
「この堆肥なんだけどさ、phバランス悪いみたいだよ。」
「一樹、あんた、自分が小学生だって分かってるかい?」
「気になるものは気になる。仕方ないでしょ、追及しなきゃ良いものは採れないんだから。」
「で、一樹、飛び級だって?」
「あんな簡単な問題に何年も掛けてられないよ。」
「外で言うんじゃないよ。」
「言わないよ。変な敵作ってどーするのさ。」
うわー生意気。
顔は天使のままなのに!
「大ママちゃん。東さんに相談したい事が有るんだけど。」
「ん?」
「僕の相談、聞いてくれるかな?」
「それって、パパやママじゃだめなの?」
「ジャンルが違うっていうか…。」
「お願いしてみようか?」
「ありがとう。」
ニコッ。
あら、ヤッパリ可愛いわ。
「マー君、一樹何だって?」
「内容は秘密だよ。男通しの約束だから。でも、変なことじゃないよ。でさ、スーちゃん、イッ君は、多分とてつもない大物だぞ。」
「マー君、もういいよ。我が家ちょっと逸脱系だと思わない?」
「あー、確かにね。スーちゃんに似たんでしょ!」
「酷い!」
一樹はバンバン飛び級を重ね、あっという間に農学博士になった。
それと同時に、この星の全種類の農作物を取り扱う企業を経営していた。
マー君に頼んでいたのは、全ての皇国の農地買収だった。
はっ!魂消たわ。
「言っただろ、大物になるって。」
「出来すぎ。」
「スーちゃんとこはさ、多分だけど集中力凄いんだよ。スーちゃんの子供時代思い出してみ、どんだけ本読んだよ。」
「今でも読んでるけど…。」
「…。そ、そ~言えばさ、イッ君モテるって知ってる?」
「あ〜、あの顔だもんね。フフフ。」
「上背あるしな。」
「でも、突然何?」
「幼馴染みの中に好きな子がいるみたいだよ。」
「初耳だわ。」
私の楽しみは尽きない。
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