第6話執事ジェイムズ・セバス②

ガイアは剣だけが攻撃手段ではない。魔法の適正もあるのだ。火、水、雷、地、風の五属性のうち彼は地と風に適正があった。特に地属性は魔力の消費を少なく発動することができる。彼の冒険者生活を支えたのは魔法のもある。

そして、ジェイムズとの戦闘でも魔法は彼を助けるのだ。




───────────────



「『ストーンエッジ』!!」



詠唱は魔法のイメージを固定しやすくするためにとても有効だ。熟練の魔導師なら詠唱がなくても上級魔法まで撃てるらしいが、一端の冒険者であったガイアにはそんな芸当はできない。




「ほう……中級魔法まで扱えるのですか?素晴らしいです。ますます生け捕りにしたくなります。」



華麗なステップで地面から突き出してくる岩を避けながら呟くジェイムズ。



「お褒めに預かり恐悦至極」




ガイアは作戦の第一段階を成功させていた。

そして、第二段階へ移行する。

ガイアはをして直剣を構えジェイムズに接近した。




「おや?魔力切れですか?まあ、あれだけ無駄撃ちしていたらそうなりますね」




予想通りの発言にガイアは内心ほくそ笑んだ。



「うるせぇよ、俺は魔法を使わなくてもお前を殺せる」




嘘八百である。魔法がないとこの作戦は絶対に成功しない。ただし、ではジェイムズを殺さないのであながち間違いではない。




「おやおや、強気ですね?先ほど私に致命傷を与えられてなお、その言葉を言えるとは

何か勝算でも?」




「……さぁな」




適当に流して直剣をジェイムズめがけて振る。ジェイムズは訝るような視線をガイアに向けるが彼はそれを無視する。



そして、作戦の第二段階を無事終えた。

作戦の第三段階だが、これはジェイムズがその通りに行動しないと失敗する。こればかりはジェイムズを信用するしかない。




「おい、ジェイムズ。実は俺、魔力切れしてないんだ。あと一発だけ上級魔法を撃てる魔力を残してる。」




勿論これもブラフである。上級魔法なんて撃つ気はないし、そもそもガイアは上級魔法を撃てない。



「おや?そのようなことを私に教えてもよろしいのですか?」



「問題ないから教えているんだ。」



堂々と教えることにより警戒心はさらに強くなり、上級魔法の詠唱に過敏に反応するようになる。そうなれば、ガイアの勝ちだ。



「なら、私はあなたの上級魔法の詠唱を阻止すれば勝ちですね。」




─────勝った




作戦通りジェイムズの注意を上級魔法に向けることに成功した。

後は俺のタイミングで仕留めるだけだ。



ガイアはジェイムズに向かって攻撃を開始した。



「距離を取らないのですか?てっきり私は魔法を撃つために遠くに逃げるものとばかり思っていました。」




「俺だってそうしたいさ。でも、お前はそれをさせないように近づいてくるんだろ?だったら始めからこっちが近づいてぶっ飛ばして隙をつくるほうが百倍マシだろ。」



「……確かにそうですね。そちらのほうが勝機はありそうです。」




互いに疲労して傷も増えてきている。集中力を先に切らしたほうが負ける。互いに一歩も引かない殺し合い。



「………ッ!!」



先に集中を切らしたのは───ジェイムズだった。

その隙をガイアは見逃さずジェイムズの右腕を切断した。さらに追い討ちをかけるように鳩尾に力一杯の後ろ蹴りを打ち込んだ。



「ガハッ!!!────」




そのまま吹き飛んで瓦礫の山に突っ込んだ。

そして、ガイアは上級魔法の詠唱をしようと直剣を地面に突き刺し地面に手をついた。



「──ツッ!!させません!!」



瓦礫の山から額に血を滴らせたジェイムズが

ガイアに迫る。




「これを待ってたぜ──『ストーム』!!」




「なっ!がはっ!!───」




ガイアは上級魔法ではなく風の中級魔法を唱えた。

そして、竜巻に巻き込まれて骨を軋ませながら空中に放り出されたジェイムズ。




「なあジェイムズ。戦い馴れしているお前なら知ってるよな?空中が一番無防備だってことを。そして俺はお前に隠していることが二つあった。一つはさっき使った風魔法。そしてもう一つは─────」



「ユニークスキル『インパクト』!!」




ガイアは落下してきたジェイムズの胸に渾身の右ストレートを叩き込んだ。


「────ツッ!!!!!!!」



ジェイムズの全身を特大の衝撃波が襲う。全身の骨という骨が悲鳴を上げて砕け散る。

そのままジェイムズは錐揉み状態で吹き飛んでいった。そして、壁に激突してピクリとも動かなくなった。



「………か、勝ったの?」



最初に静寂を破ったのは、ずっと外から見守っていたアイシャだった。



「どうやら、な……」



ガイアがその場に脱力して腰をおろすとアイシャが慌てて近づいてくる。



「ガイアくん、すごいよ!あんなに強い人を倒しちゃうなんて!」



アイシャは興奮気味にガイアへ称賛の言葉を送る。

しかし、当のガイアは納得がいかないような顔をして苦笑いを浮かべている。




「相手が、生け捕りを目的にしていたから勝てただけだよ。あのハンデありでもこのザマなんだから、本気でやりあったら負けていたのは俺だよ。」




そう言って右腕をアイシャに見せる。アイシャはぎょっとして目を見開く。

なんと右腕の肘からしたの骨が折れて肌が青紫色に変色していたのだ。



ガイアがこの作戦に躊躇した理由である。

ガイアの持つユニークスキル『インパクト』は、最大の威力で放つと使用者に衝撃が返ってくるのだ。

冒険者時代のガイアはこのユニークスキルを威力を抑えて使用していたので特に問題はなかったが、今回のような最大威力で衝撃を放たないといけない相手だと後の戦闘に響くのであまり使いたくなかったのだ。




「よし、そろそろ移動するか」



全身ボロボロで疲労が溜まっている体に鞭打って無理やり動かす。全身からSOS信号が発信されるが無視して動き出す。




─────────────




「ようやく小屋に着いた。小屋に着くのにこんな疲れるとは思わなかったな。」



小屋に置いてあるボロボロのベットに腰をおろしてため息を溢すガイア。

その隣にアイシャも腰をおろしてガイアに労いの言葉をかける。



「本当にお疲れ様。ガイアくんがいなかったら今頃どうなっていたかわからないよ」



腕のなかで眠るアリアの頬をぷにぷにとつつきながらアイシャはアリアに優しく声をかける。



「あんなに激しい動きや物音だったのに起きないなんて、我が娘ながら恐ろしいよ。誰に似たのかな?」



それを聞いたガイアは「アイシャじゃないか?」とすかさずつっこむ。



「こんなに神経図太くないよ。絶対ガイアくん似でしょ。ほら、さっきの戦闘の時も自分がピンチのクセに相手を煽ってたじゃん。あれを見てどれだけヒヤヒヤしたことか……少しは反省してよね」



「え?そんなことあったか?アイシャとアリアを守るために一生懸命過ぎて覚えてないな」



「……ガイアくん、私たちのためって言えば何でも許されると思ってるでしょ!」



「許してくれないの?」



「許すけど!」



そう言って二人は見つめ合いながらクスッと笑い合った。

もうそろそろ夜も明ける。

ガイアは、アイシャに先に寝るように言う。

交代で見張りをして休憩をとるのだ。

アイシャはコクッと頷いてアリアと一緒にベットで横になった。そうしてすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。相当疲れていたのだろう。ガイアはアイシャの頭を優しく撫でて額にそっとキスをした。


「いつもありがとう。アイシャ」



─────────────


交代で休憩をとりお互いある程度体力が回復したので、今後の方針について話し合うことにした。



「とりあえずシオンさんの家で伝えた三つの約束は絶対に守ること。これは徹底していこう。」



「そうだね、マキア王が追ってこないとはいえ、ここの治安はあまりよくないからね。警戒するに越したことはないよ」



「ただ、マキア王自身は追ってこないが兵士たちを送ってくるかもしれないから気を付けないとな。」




ジェイムズが言っていたことが本当であればマキア王は兵を貧民街に送り込んでくる可能性が十分にある。

マキア王のアイシャに対する執着心は貧民街をも越えるほど強い。強欲の王の名は伊達じゃない。



「ママぁ……うぅ……どこにいるのぉ?」




アリアが目覚めたようだ。寝起きのアリアはアイシャがいないことに不安で目に大粒の涙を浮かべながらベッドの上でキョロキョロ辺りを見回す。



「アリア、ママはここにいるよ。今行くからちょっとだけ待っててね。」



アイシャはガイアに目配せしてごめんと両手を合わせる。ガイアは頷いて自分との話しはいいからとアリアの所に行くように促す。

アイシャはすぐにアリアの寝ているベッドに足を進めた。

そして、アリアを丁寧に抱き上げて母親似の綺麗な銀髪を優しく撫でる。


「ママ!…うぅ、どこに行ってたの?アリアをひとりにしないで」



「ごめんねアリア。パパとお話していたの。次からアリアを独りにしないから。許してくれる?」



「うん!ママだいすき!」



「ママもアリアのこと大好きだよ。」



アリアは完全にお母さんっ子なのだ。何をするときも母親がいないと不安になる。

アイシャとしては嬉しくも複雑であり。もし、自分がいなくなったらこの子はどうなるのだろうと気が気じゃない。今のうちから親離れの訓練をしておく必要があると思うのだ。



「アリア、ママと一つ約束しよ?」



「なぁに?」



「お勉強をするの。アリアが一人で何かをしたいなって思ったときにお勉強をしておけば絶対に役に立つよ。」



親離れのをするためにまずは、一人でも何かできるという自身を付けさせなくてはならない。アリアは困るとすぐにアイシャやガイアを頼る。人を頼ることはアリアの素直でいいところなのだが、それは裏を返せば自分で考えることを放棄しているのだ。アイシャは、アリアに頼まれてもいつも手伝っているわけではない。「もう少し考えてみよう」や「一緒に考えてみよう」と自立を促すようにしてきた。


しかし、ガイアは違う。初めての我が子、しかも娘なのだ。可愛がらない訳がない。ガイアの溺愛っぷりは近所でも有名であり。娘に近づく男の子を遠ざけようと躍起になっている。その度にアイシャに止められて「あの子の将来を奪ってどうするの?」と注意されるがガイアは納得できていない。




「え~、アリアはママとパパがいるからお勉強しなくてもへいきだよ」



「だーめ。ママとパパはアリアより先に死んじゃうんだから。ずっと頼ることはできません」



「ぶ~、アリアお勉強キライ。むずかしいもん」



こういうところは、やっぱりガイアに似ている。ガイアも学生の頃に「は?勉強?…俺勉強キライ。難しいし」と言ってアイシャを困らせたものだ。

しかし、この場合の対処法もアイシャはバッチリ熟知している。




「じゃあ、アリアがお勉強頑張ったらご褒美をあげよう」




「え!?ごほうび!?ほしい!!」




やはりガイアの子だ。反応まで似ている。ガイアはここまであからさまに反応はしなかったが、ご褒美の言葉にやる気を滾らせていたのを覚えている。



「アリアがお勉強頑張ったら、ね?」



「うん!アリアお勉強がんばる!!」




アイシャは「いい子ね」と頭を撫でる。

そして、待たせているガイアの元へ足を進めた。

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