第2話 見知らぬ我が子との再開
馬車の中で帝国に着いてからの行動について話し合っていた。
「帝国に着くのは夜中なんだし特にやることねえな。宿に行って飯食って風呂入って寝るだけじゃね?」
「あ、そのことなんだけどリアムくん。宿の予約って取れてたりする?」
帝国の宿は予約を取らないとなかなか泊まれないことで有名である。なので、予約は必須なのだ。
サリアの言うとおり今までのリアムのポンコツっぷりからすると宿の予約を取れていなくて最悪帝国内で野宿する羽目に……なんてことになりかねないのだ。不安の目(リアムが起こす)を先に摘んで置かないと夜も安心して眠れない。
「え?宿って予約しないと入れないの?」
案の定である。
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辺りはすっかり暗くなり光は馬車にかけられたランタンだけだ。帝国領に入ったのであと数時間でマキア帝国に到着する。道中、盗賊やモンスターに遭遇しなかったのは不幸中の幸いと言えなくもない。リアムの件で完全に頭を悩ませた3人は戦闘どころではなかったのだ。
「本当にどうしましょうか。帝国の宿は予約を取らないとなかなか泊まれないことで有名ですので、ダメ元で言っても高確率で満室になっているでしょう。」
ミリアは宿に泊まることをほぼ諦めている様子だった。
「ミリアちゃん……まだ、諦めないで!奇跡が起こるかもしれないよ」
サリアが落ち込んでいるミリアを励ますように背中をさするが焼け石に水状態で効果が薄い。ここで、落ち込んでいるミリアに追い討ちをかけるかのようにリアムが口を開いた。
「最悪路地裏で寝る羽目になるのかぁ、ちょっとだけいやだな」
「リ、リアムちょっと静かに、な?」
ミリアの目からハイライトが消えているのを見たクーリアが瞬時に優しい口調でリアムを黙らせる。
「とりあえず宿を何軒か回って泊まれる部屋がないか探してみよう。なかったらそのときに対策を考えようか?」
クーリアがその場をおさめるために対策案とは言い難い対策案を提示して話を切る。
当のリアムが「まっ、仕方ねぇか」と呑気なことを言ってミリアがキレそうなったがサリアがすかさず止めに入ってミリアを慰めた。
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「はぁ……やっぱり奇跡なんて起こらなかったですね……」
ミリアが夜空を見上げてポツリと呟いた。帝国内の宿屋を回って空いている部屋がないか探して回ったが予想通りすべての宿が満室だった。
サリアは苦笑いを浮かべてサリアに言葉をかける。
「ごめんねミリアちゃん……期待させるようなことを僕が言ったから」
「サリアのせいではないでしょう?最初から最後までリアムが悪いのはいつものことじゃないですか」
「おい、まだ最後まで行ってないだろ」
リアムからツッコミが入ったがミリアはそれに反応する気力がないのかため息をして無視を決め込んだ。
帝国に着いてからミリアのため息の数が尋常じゃなく増えている。特にリアムと話す時は一言喋るごとにため息がでるのだ。
「さて、これからどうするかなぁ。ずっと起きてるって訳にもいかないしな」
最年長であるクーリアが独り言のように呟いた。
そのとき路地裏から小さな影が飛び出してきて───サリアの足に抱きついた。
「ママ!!」
「「「「ママ!?」」」」
4人の声が夜の帝国に木霊したのだった。
───────────
「え?ちょっとサリア、あなた子どもがいたのですか?」
「い、いるわけないでしょ!ミリアちゃん!
僕まだ17歳だよ!」
「だ、だよな?俺たちに黙って子どもなんて作るはずないよな?」
「クー兄も疑ってるの!?やめてよ!僕はそんな節操なしじゃないよ!」
「サリア。お前いつ子ども生んだんだ?お腹が大きい時期なんて俺が見た限りなかったぞ。」
「リアムくんはそもそも僕の性別から間違ってるから!!僕は男だから!生むんじゃなくて生ませる方だから!……ってなに言わせんのさ!」
慌てすぎて変なことまで口走ってしまったサリアは耳まで赤く染め上げて肩で息をしている。そんなことはお構いなしに足元の幼女はサリアに向かって声をかける。
「ママ?どこにいってたの?アリアね、ママのこといっぱいさがしたの。パパに聞いてもママは遠いところに行ってもう会えないって言ってたから会うためにここまでさがしにきてたの。えらいでしょ?」
自分のことをアリアという幼女は母親を探しにここまで来た自分をほめて欲しいと泣きそうになりながらサリアを見上げている。
「ぼ、僕にはこの子の頑張りを否定することなんてできない……」
ここで、サリアがアリアに向かって「僕は君のママじゃないよ」と言ったらアリアの頑張りは無駄だったと言ってしまうようなものだろう。
そうすればこの子は瞳に溜めた涙を溢し泣き出してしまうかもしれない。そんなことは心優しいサリアには絶対にできない。ここは嘘でもママを演じなくてはならない。そして本物のママに会えたのなら誠心誠意謝罪しよう。そう決めたのだった。
「ママを探しに来てくれたの!?ありがとうアリア。とっても偉い子ね。でも、こんな夜遅くに独りで出歩いちゃダメだよ。悪い人に連れていかれるかもしれないんだから。次からは絶対ママかパパと一緒に出かけること、いい?」
サリアはそう言って優しくアリアの頭を撫でた。
アリアはお餅のように柔らかい頬を少し赤く染めて「うん」と頷き嬉しそうに目を細めてサリアの優しい手を感じている。
「サリア、今のは女の私でさえぐっと来るものがありました。あなたはすごいですね。」
一連のやり取りを見ていたミリアが近くに寄ってきてサリアの肩にポンッと手を置き称賛を送る。
「ミリアちゃん?その言葉は同性に使うものだと僕は思うのですが?」
ミリアと会話をしながらもアリアの頭を撫でることをやめないあたり流石と言える。
「ほーら、やっぱり子ども生んでたんじゃん!」
「リアムくん?……僕だって怒ることもあるんですよ?」
話の通じないリアムに段々と怒りを募らせていくサリア。
「サリア、子どものあやしかたなんていつ覚えたんだい?失礼かもしれないが、一瞬本物の母親かと思ったよ」
「え?孤児院にいたらこのくらいの年齢の子どもなんてたくさんいたじゃん。いっぱい相手してたら勝手に覚えるよ。……え、もしかしてクー兄、子どものあやしかたわからないの?」
クーリアは痛いところを突かれたかのように一瞬ビクッとした。
「え?ホントにわからないの?」
「あ、ああ、恥ずかしいことにな……」
サリアにとって今日一驚いたことだった。皆のお兄さんのクーリアが実は幼児のあやしかたがわからないなんて。
サリアとクーリアは孤児院育ちである。
クーリアはサリアより2つ歳が上で孤児院にも早くいるお兄さんだった。よくサリアの面倒を見ていてサリアはクーリアのことを兄として慕っている。
そんな兄として慕っているクーリアに苦手なものがあったことにサリアは驚くと同時に安心した。サリアから見たクーリアはなんでもできる完璧な兄で自分とは生きてる世界が違うのかと時々思うことがあったのだ。しかし、そんなことはなくクーリアにも苦手なことがあると知れて安心したのだ。
「な、なぜ笑うんだ?」
完璧な人間などいるはずないのにクーリアに勝手にイメージを押しつけて壁を作っていたのは自分だったのだと自分の馬鹿な行動に笑いが込み上げてきた。
「クー兄にも苦手なことがあるんだなって、安心して笑っちゃった。」
クーリアはどういうことかわからず首をかしげたがサリアが笑顔ならいいかと割りきった。
それよりも今はサリアの足に抱きついている幼女を家まで送り届けないといけない。こんな夜中に幼子が一人で歩いているのはどう考えてもおかしい。絶対に親が心配しているはずだ。
「アリア、ママお家に帰りたいなぁ。アリアはお家までママを案内できるかな?」
サリアは、母親が幼い娘にお願いをするようにして自宅まで案内させようとする。
「うん!アリア、ママをお家まで案内できる!」
「アリアは賢いね」
「うん!ママが遠くに行く前にアリアと約束したからいっぱいお勉強したの!」
この会話だけでもアリアが母親のことを大好きなのがとても伝わってくる。こんなにアリアに愛されている母親が少し羨ましいくらいに。
「ねえママ?」
突然アリアが気分が落ち込んだようにサリアに話しかけた。さっきまでの元気さはなく、どこか心配するかのような様子だ。
「どうしたの?アリア」
サリアはアリアが安心できるように優しい声でアリアに接する。
「パパね、アリアに隠してるけど病気にかかってるの。それでいつも苦しそうにしてる。アリアね、パパがアリアのために寝ないで働いてるの知ってるの。パパの病気ママなら治せる?」
サリアは内心苦い顔をする。しかし、表には出さず優しい笑顔でアリアに返した。
「そうだね、弱い病気ならママでも治せるけど、強い病気だと帝国のお医者さんじゃないと治せないかな」
サリアは『エターナルバンド』の回復術士で数少ない光属性魔法の使い手なのだ。外傷を治すのは得意なサリアだが病気の類いはまだ修行不足で軽症しか治せないのだ。サリアは父親が軽い病気であることを祈りアリアの家を目指し足を進めるのだった。
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