マキア帝国遍
第1話 帝国に向けて出発
帝国に行くには、最低でも半日はかかる。
そのため出発は早朝が好ましくリアムたち四人は日が登り始めた頃にギルドを訪ねていた。
ギルドが馬車を手配してくれているからだ。
この特権は星五つ持ちのパーティーにしか与えられない。つまりこの特権を持っているリアムたち『エターナルバンド』は数少ない星五つ持ちの冒険者パーティーなのだ。ちなみにこの街には星五つ持ちのパーティーは『エターナルバンド』の他に『ノーブルソード』というパーティーがいる。
そんな星五つ持ちとは思えないほど大きい欠伸をしながらリアムは背伸びをして体を反っている。それを見ていたミリアに横腹を小突かれてすぐに姿勢を正す。
「支部長の前で失礼でしょう?目上の人の前でそのような行動は慎みなさい」
ごめんと小さく謝ったリアムは欠伸を噛み殺しながら背筋をピンとして立っている。
「気にせんでもよい。こちらから頼んで依頼を受けてもらったようなものだからな。」
それを見ていたギルド支部長のハースマンは威厳たっぷりな顎髭を撫でながらミリアたちに言った。
「そう言うわけにはいきません、ハースマンさん。リアムには目上の人に対する接し方を今のうちに教えていかなけばればいつか絶対に失敗します。」
笑顔できっぱりとハースマンに返したミリアはこればかりは譲れないと強い意志を見せた。
「リアムくんは愛されているのだな」
この言葉にリアムとミリアは同時に顔をリンゴのように真っ赤に染め上げて全力で否定した。
「ちょっ、ハースマンさん!何言ってんですか!?あ、愛されてるとか、そんなのないですって!な?ミリアそうだろ!?」
「そ、そうでございますよ!ハースマンさん!おかしなことをおっしゃらないでくださいませ!ビックリしましたですわ!」
おかしな言葉遣いになっているのに気づかないほどミリアは手をブンブン振って全力で否定している。その様子をサリアとクーリアは微笑みながら見守っていた。
「そ、そんなことより!そろそろ出発しようぜ?そうじゃないと予定がずれるだろ?」
もっともらしい理由をつけてリアムは話を逸らした。確かにそろそろ出発しないと帝国に着くのが遅くなってしまう。
リアムの発言にクーリアは頷きながら続いた。
「リアムの言う通りそろそろ出発した方が良さそうだな。ハースマンさん、馭者の方はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「ああ、そろそろ到着する頃だと思うがね……ほら、噂をすれば」
ハースマンは辺りを見渡し歩いている男女を発見すると二人に向かって手を上げた。
「おはようございます!支部長。遅れて申し訳ございません」
と綺麗なお辞儀をした女性。服装からしてギルドの受付嬢であるのは明らかである。年齢は20歳前後で美人というよりは可愛い系の顔立ちでお化粧もうっすらとしかのせていない。栗色の明るい髪を左右で結んでおさげにし翡翠色の大きな瞳をしている。背丈はミリアと同じくらいか少し上であろう。所作も受付嬢のお手本となるような丁寧な動きでこのギルドの受付嬢のレベルの高さが伺える。
「おはようマリベル。時間的には問題ないから遅刻ではないよ」
「いえ、お客様より後に到着しているので時間に関係なく遅刻になります」
ハースマンは遅刻ではないと言うがマリベルからすれば遅刻の部類にはいっているのだ。マリベルはリアムたちに向き直ると再び挨拶と謝罪をした。そして隣にいる男をギロッと睨んで
「あなたのせいで遅刻したのだからあなたも謝罪してください。」
そう言うと恐る恐る前に出てきた男が綺麗な土下座をしながら謝罪を始めた。
「おはようございます!私は、しがない馭者のトーマス・ゴードンと申します!この度は、遅刻をしてしまい誠に申し訳ありませんでした!」
と、もう一度頭を地面すれすれまで下げた。リアムたちは呆気にとられて呆然とただその土下座をみていた。
「気にしないでください。時間的には予定通りですので今から出発すれば問題ありませんから」
ニッコリ笑ってそう告げたのは穏やかな性格のサリアだった。サリアは滅多なことで怒ったりしない、とても温厚な性格をしている。その性格と可愛らしい容姿もあって町の人々、老若男女から愛されているのだ。そして……
「か、可愛い……結婚してください!」
「ごめんなさい、僕男だから……」
「え?……」
そう、彼は男なのだ。サリアの可愛らしい顔立ちと銀髪のショートヘアから多くの男性はサリアを女の子だと勘違いしてしまう。
その結果サリアは、数多くの純粋無垢な男の子の初恋を奪いそして、へし折ってきたのだ。以前ミリアに一度だけ相談したことがあったが「なんですか?自慢ですか?」と地雷を踏みかけたのでそれ以来相談するのをやめた。
決してミリアがモテないわけではない。彼女もサリアに負けず劣らずの美形なのだが、サリアが異常にモテすぎるのである。
「え?なんて?…オトコ?…男って言ったんですか?」
「はいそうです。僕は男です。」
笑顔でそう告げるサリア。
男性の恋心をまた一つへし折ったのであった。
──────────
別の意味で落ち込んで泣いているトーマスを慰めるリアム、クーリア、ハースマンを尻目にマリベルとミリアそしてサリアは、プチ女子会を開催していた。
「サリアってば罪な女。今までどれくらいの男の子の初めてを奪ってきたの?」
ニヤニヤしながらサリアにつっこむマリベル。業務中だというのに素のマリベルを出しているが気にした様子はなく堂々とサリアをいじる。
それに慌てて否定するサリア。
「ち、違いますよ!色々と!まず僕は女の子ではありません!あと、は、初めてとか、そんないかがわしいこと…みたいに言わないでください!ただ告白されて、それをお断りしているだけです!」
顔を真っ赤にして女の子より女の子のような反応をするサリアに面白がってさらにいじわるをするマリベルとミリア。
「も、もう!二人して、僕にイジワルしないでください!」
「サリアが可愛いからいけないんじゃありませんか。」
「そうだ!そうだ!可愛いのが悪いんだ!」
と理由にすらなってない理由を述べるミリア。それに便乗するマリベル。と、ここでサリアが反撃に出る。
「ミ、ミリアちゃんこそどうなんです?リアムくんとの進展はあったんですか?」
思いもよらぬ反撃にミリアは驚いたが、すぐに冷静を取り戻したふりをして返事をした。
「と、特に何もありませんよ。強いていえば昨日の3時間のお説教くらいでしょうか?」
それに反応したのはマリベルだ。
「え!なにそれ!リアムくんに3時間も説教したの?なにそのおもしろな状況!説明して!」
「おーい!そろそろ行くぞ馬車に乗り込め」
女子会が盛り上がりかけたところでトーマスを慰め終わったリアムから声がかけられた。
「良いところだったのに……残念。帰ってきたら絶対説明してよね!」
好奇心強めな視線を向けられてミリアはコクコクと頷くことしかできなかった。こうなったマリベルを止められないのはよく知っている。話すまで追いかけられるのでおとなしく話した方がいいのだ。
荷物を馬車に積んで全員が乗り込むと元気を取り戻したトーマスが予定到着時間の説明をしてきた。どうやら少し出発時間が遅れたことにより帝国に着くのが21時を過ぎるとのことだ。まあ、このパーティーからしたらこのような予定のずれは日常茶飯事で大したことではないのだが、この後、予定のずれで大きなトラブルに巻き込まれるのだが当のリアムたちは知る由もない。
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