お節介冒険者パーティーの冒険記
パンぴょん
プロローグ
「おーい!みんな!依頼を受けてきたぞ!」
時刻は昼過ぎ。玄関を勢い良く開けて帰宅した青年が開口一番依頼の受注を告げてきた。
「はぁ……ねぇリアム、依頼を受ける前に私たちに相談してっていつも言ってるでしょう。それに、そんな勢いでドアを開けたらせっかく買ったお家が壊れてしまいます。」
透き通った水色の髪を三つ編みおさげにした少女がティーカップをゆっくりテーブルに置いてリアムを注意した。
「ごめんミリア!次から気を付けるから」
「何度も聞きましたその言葉は。全く直す気がありませんね……」
もう100回以上も交わしたやり取りを終えて区切りがついたところで銀髪ショートヘアの美少女と言っても謙遜ない可愛らしい顔立ちをした子が声を発した。
「それで、受けてきた依頼の内容を僕たちに教えてくれませんか?リアムくん。」
「ああ、わかったよサリア。依頼内容だが……なんとマキア帝国付近に現れるブラッドグリズリーの討伐だ。」
その言葉に大盾の手入れをしていた長身の青年は形のいい眉を潜めた。
「おかしいな……ブラッドグリズリーは帝国付近には生息していないはずだが……」
彼の言葉を補足するようにミリアが言葉を続ける。
「クーリア兄さんの言うとおり帝国付近にブラッドグリズリーがいるのはおかしいわ。ブラッドグリズリーはダンジョンの中層に生息するモンスターだから。」
魔法が得意なミリアはモンスターの生息地、弱点は熟知している。そのミリアが言うのだから間違いないだろう。ブラッドグリズリーはダンジョン中層に生息するモンスターで上層からやってくる疲労した冒険者を原型がわからなくなるまで叩き潰したり鋭い爪で切断したりする狂暴なモンスターなのだ。
そこで皆が思っていた疑問をサリアが口にした。
「じゃあ、どうしてブラッドグリズリーが帝国付近にいるんだろう?」
その言葉を待っていたかのようにリアムはニッと笑い得意気に説明を始めた。
「クー兄やミリアの言うとおりブラッドグリズリーが帝国付近にいるのは異常だ。……じゃあ、なぜいるのか?その答えは……『ダンジョンブレイク』だ!」
『ダンジョンブレイク』とは、その名のとおりダンジョンの封印が解かれて中のモンスターがダンジョンの外に放たれてしまうこと。それがブラッドグリズリーが帝国付近にいる原因である。
「なるほどね『ダンジョンブレイク』……。うん、それなら説明がつくわ」
少し思案して納得したように頷くミリア。
「リアムもう一つ質問なんだが、なぜこの依頼を受けてきたんだ?」
パーティー最年長のクーリアは、わかりきっていることを確認するかのように聞く。なぜわかるのかそれは依頼を突然受けてくるリアムの性格を理解しているからだ。彼が前触れもなく依頼を受けてくる場合必ずこの答えが返ってくる。
「そんなの人が困ってるからに決まってんじゃん!」
と、予想通りの言葉にそっと心のなかで微笑むクーリア。リアムは人が困っているのを見過ごせない性格なのだ。それは彼の良いところでもあるのだが、パーティーメンバーはこの彼の行動にいつも困らされている。「せめて受ける前に相談して欲しい」と何度言ったことか。その度に「次はするから!」と言ってはいるが一向に相談をしてくる気配がない。
だが、そんな彼のことをクーリアたちは注意はするが決して怒らないようにしている。なぜなら、リアムがクーリアたちに迷惑をかけようとして依頼を受けているわけではないと知っているからだ。
「よーし!決まったことだし、出発の準備でもするか!」
話しに区切りがついて何気なく口にしたリアムの言葉にその場にいた全員がギョッとして目をむける。
「ね、ねえリアム?まだ、聞いてないことがあったんだけど聞いても良いかな?」
恐る恐るサリアがリアムに話しかける。
「ん?なんだ?何でも聞いて良いぞ!」
皆の雰囲気が変わったことに気づいていないリアムはどんと来い!と胸を張りサリアの質問を待つ。
「え、えーと、帝国に向けて出発するのっていつ?」
「明日の早朝だ!」
「え?」
「いや、だからあし───」
「リアム?ちょっとお話があるのですが?」
抑揚のない声でリアムに告げたミリアはシミ一つない綺麗な額に青筋を浮かべて微笑みながらリアムに近づいていった。お話しする気なんてまったくない。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。それを見ていたクーリアはやれやれといった様子で自分の準備に取りかかる。
「え?、ちょっ、待ってミリア!なんで怒って────ッ」
流石に出発が明日の早朝という準備期間の短さは許容範囲を越えてしまったようだった。
ミリアのありがたいお説教の後、リアムは死にそうになりながら出発の準備を開始したのだった。
ちなみにミリアが説教をしている間にサリアは自分とミリアの支度をしていたためミリアはほとんど準備に時間がかからなかった。
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