第36話 お茶会の主催者

 ジェシーが襲撃に合ってから、十日後。無事、お茶会が開かれた。


 開催前、主催者であるミゼルに、襲撃されたことを話した。すると、


「お茶会を中止しましょう!」


 迷うことなく、そう言い放たれてしまった。


 一応、ジェシーの置かれた状況を把握してもらった方が、ホストであるミゼルにとって良いだろう、と判断したのだ。

 もしお茶会で何かあった場合のことを考えると、後々説明するよりも、遥かに対処し易いだろうと思ったからだ。


 何故なら会場が、当初予定されていたケニーズ伯爵邸ではできなくなってしまったからだ。

 最初に予定した人数よりも、招待客が定員を越えてしまったため、王城の一角を使用することになったのだ。


「王城には、ジェシー様を狙った者がいるんですよ。そんな危険な場所に、ジェシー様をお連れすることはできません!」

「大丈夫よ。向こうのテリトリー内と言っても、こっちには警備を厳重にできるロニがいるのだから。それに招待客が多い場だと、王に容姿が似ている彼には、不利な状況だと思うの」

「しかし、直接ではなくとも、やりようがあることを、ジェシー様はご存知ではないですか」


 確かにミゼルの言う通り、人目など関係なく、暗殺が遂行された事例は数多くある。しかも、招待客の中には、シモンたちランベールの側近がいた。


「そこは貴女たちの腕の見せ所じゃない?」


 まぁ、そのためにミゼルたちを差し向けたわけじゃないのだけれどね、とジェシーは内心思った。が、ミゼルは別の受け取り方をしたようだ。突然、顔を赤くした。


「わ、分かりました。シモンによく言っておきます」

「何かあったの?」


 明らかに様子が可笑しかった。


「実は、その……。来月、婚約することになりまして」

「シモンと?」


 他に誰がいるのか、といった質問だったが、ミゼルは気にしていない様子だった。そればかりか、恥ずかしそうに俯き、頷くだけで精一杯のように見えた。


「申し訳ありません。ジェシー様を差し置いて、先に婚約など」

「おめでたい話に先も後もないわ。それに私がミゼルに言ったのよ。シモンを探って欲しいって」


 なるほど、それでこんないっぱいいっぱいの様子なのね。気にしなくても良いのに。

 気にしないといけないのは、むしろミゼルではなく、ロニの方よ。あれから『大事な話』はないんだから。


「ありがとうございます。実を言うと、私一人ではシモンから情報を、なかなか引き出せなかったんです。ヘザー嬢の助けがなかったら、ジェシー様に顔向けできないくらいに。それなのに、どういうわけか、その……そういう関係になってしまいまして……」


 これは、私に責任があるわね。ヘザーへの頼み事の一つに、コリンヌとミゼルのサポートを挙げていたから。

 ただ、元々二人をくっつけたかったみたいだから、頑張ったのね、と褒めるべきなのかしら? これは。


「いいのよ。ヘザーにはそう言っておいたのだから。それと一応聞くけど、ミゼルは後悔していないのよね。婚約に承諾したということは」

「勿論です」

「それが聞けて良かったわ。だけど、事が済んでいない以上、相手がシモンであっても気をつけてね。身の安全もそうだけど、こちらの情報もあまり与えないように」


 そう、ミイラ取りがミイラになるな、ということをジェシーは言っているのである。

 コリンヌの場合は、自らの世間体の改善と立場を考えると、ジェシーへの依存度が高くなるため、可能性は低かった。


 しかしミゼルは、幼なじみが相手だ。ジェシーも人のことが言えない立場故に、心配だった。


「大丈夫です。最近、ヘザー嬢に会う度に言われていますので」

「……さすがね」


 己の欲望に直結していると思うと、頑張れるものだから。ただ、変な方に行かないと良いけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る