不審者に襲われたんよ。
生き延びるための手掛かりとなる何かが、どこかにあるのではないかと焦りつつ、どんどん闇に包まれつつある町を、盲滅法に徘徊した。レストランがあった、カフェがあった、宿屋があった、酒屋があった、でも、それらを利用するのに必要な金が、びた一文無かった。物騒な地域だからか、暗くなるにつれ、人通りはみるみる減っていった。上の空で彷徨った挙げ句、狭い通りの行き止まりに辿り着いた。そこには、様々な種類のごみが大量に、乱雑に、投棄されていた。自尊心をかなぐり捨てて、金目の品が落ちていないかと漁ってみたけれど、魚の骨、割れた壺、腐敗した肉、そういった無価値な品が無秩序に堆積しているだけだった。落胆し、振り替えると、男が二人、こちらに歩いてくるのに気づいた。一人は痩せており、一人は肥っており、二人共短刀を構えており、入念に研磨された刃が闇に白くちらちらと輝きながら、私に接近しつつあり、彼らが堅気の人間でないのは、一目瞭然だった。痩せた方は顔面に無数の切り傷があり、肥った方は坊主頭だった。私から約十メートルの距離で彼らは停止し、痩せた方が、威圧的に睨みつつ、
「お嬢ちゃん、無事に家に帰りたかったら、金目のものを全て出しな」
「生憎、家も無いし、金もないんじゃ」正直に回答しながら、私は疑念を抱いていた。短刀を得物として脅すには、この距離(約十メートル)は遠すぎる。飛び道具を隠し持っているか、或は私の〈能力〉を警戒しているのか。
「そんなに綺麗なおべべを着て、そりゃないんじゃないの」
セーラー服を見て、良家の子女と誤解したらしい。
「この服を褒められるのは本日二度目で、そりゃあ真に勿体無い御言葉なんじゃけども、ほんとに私は一文無しなんよ」脱力した左右の掌を、ぶらぶら振ってみせた。
「もし、仮に、万一、金を持っていないなら、その場で全裸になって、その服を寄越せ。それなりの値がつくだろう」
「破廉恥じゃなぁ」
「餓鬼、調子に乗るな」と、今度は肥った方が凄んだ。「参考までに、俺の〈能力〉を教えてやろうか」
「今後の参考までに、是非、聞きたいっ」
肥った方は舌打ちしてから、「俺の能力は〈分解〉。犬でも、猫でも、熊でも、動物の死体ならどんなものでも瞬時に分解し消滅させる。勿論、人間の死体でも。この意味が分かるか、お嬢ちゃん?」
能力の説明を聞きながら、同時に、衣擦れや呼吸の音に注意しつつ、私は瞼をぎゅっと瞑っていた。説明を聞き終えたあとは、「それは……つまり……えーと……」などと思案する振りをして、たっぷり時間を稼ぎ、それからぱっと目を開いた。薄暗い場所で交戦するのであれば、僅かでも眼を闇に慣らした方が有利だ。
「つまり、警察にばれないけん、おっちゃんらは殺人し放題ってこと!? 恐いなぁ! ところで、初対面の異性に〈能力〉をばらすたぁ、随分破廉恥じゃなぁ! 欲求不満なん?」
彼らは沈黙し、眼を見合せ、頷いた。それから、痩せた方が腰を落とし、私に短刀の切っ先を向けて構えた。やはり遠すぎる、と思った刹那、短刀が私の顔面目掛けて瞬間的にギュンと伸びた。まるで如意棒みたいに。
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