失言しちゃったんよ。
会話するうちにピークの時間帯を過ぎていたのだろう、フターバックスカフェ店内は、空席が目立ち始めている。
「〈能力〉は、一人一つ会得できるのですよね」
「そうだね」
「全ての人々が漏れなく〈能力〉を備えているのですか?」
「100%とは言わないけれど、大人であれば大抵は〈能力〉を有している」ドウテは人差し指で自らの鼻を差し、「無論、僕も〈能力〉を持ってる」と付言し、紅茶を飲んだ。
次の私の質問、「ドウテさんの〈能力〉はどんなのですか?」は、流れとして至極自然な筈だったのだが、これを聞いたドウテは、勢い良く紅茶を噴き出し、噎せた。
「大丈夫ですか!?」テーブルの上に紙ナプキンを探したが、この世界にそんなものはなく、私はおろおろするばかりだった。ドウテはハンカチで机を拭きながら、「大丈夫、大丈夫」と請け合い、それから、「どうやらリツホさんは、本物の箱入り娘みたいだね」と感心していた。
ドウテの説明を要約すれば、次の通りだ。
自分がどのような〈能力〉を有しているかというのは極めてデリケートな情報であり、〈能力〉を職務に活用する人間は格別、その他の人間は、家族や仲の深い恋人など余程親しく信頼した相手にしか開示しない。というのも、〈能力〉には他者を害したり犯罪に活用したりできるものも少なくなく、不用意に誇示しては無用なトラブルを招きかねないし、又、治安の悪いこの地域に於いて、〈能力〉は犯罪の抑止力になるからだ。
「簡単にいえば、どんな〈能力〉の持主か分からない相手に喧嘩を売るのは恐いだろう、だから隠しておいた方が良いよね、ってこと。因みに、公共の場での〈能力〉の使用は原則禁止されてるけど、正当防衛なら罰せられない」
「成程」
「まあ、盗賊やら極道やらの乱暴な連中は、強力な〈能力〉を持っていることが多くて、問答無用で襲ってきたりするんだけどね」
「どうやら私は、無知故にはしたない質問をしてしまったようですね……」
「気にしないで、悪気がないのは分かってるから。それにしてもどきどきしちゃったよ」ドウテは、はにかんだ。
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