ナンパするんじゃ。

 受動的な情報収集の限界を悟ったので、能動的な情報収集へと作戦を変更することにした。通行人から適当な男性、すなわち、性欲を溜めていそうで、警戒心が薄そうで、暇そうな男性を選定し(ゆったり歩いているにきび面の二十歳前後の男性を発見した)、前方に回り込み、声を掛けた。


「すみませんお兄さん、ちょっといいですか~?」


「はい……なんでしょう……?」


 先ず、警戒心を解くことから始める。胡散臭くならない程度の丁度良い笑顔と低姿勢を意識しつつ、会話を展開する。


「すみません、怪しい壺やら絵画やらブレスレットやらを売ろうとか、そういうんじゃないんですぅ、美人局でもないですぅ、ただ、ちらっと見てお兄さん格好いいな~と思ってぇ、お兄さんが良かったらで構わないんですけれど、ちょっとだけ、珈琲でもご一緒しませんか? 本当に、ちょっとだけでいいんで、お願いします!」


 男性は、戸惑いつつも嬉しげに、


「あぁ、まぁ、そういうことなら、ちょっとだけなら、喜んで」


 人生初ナンパだったが、チョロいもんだ。


「私、この町の地理に疎くてぇ、お兄さん、どこかいい喫茶店知りませんか?」


「じゃあ、近くのフターバックスカフェにでも行こうか」


 ここは多少大袈裟に喜ぶべき場面だろう。「わぁ、私、フターバックスって行ったことないんです! 行きたい!」


 私の反応に、男性は満足げに頷く。


「良かったです。ところで、名前を聞いてもいいかな? 因みに僕は、ドウテ・イマン。ドウテと呼んでくれていいよ」


「ドウテさん。素敵な名前ですね。私は剛力りつほです」


「リツホさんの名前も素敵だよ」


 かくして、私はドウテと共に、フターバックスカフェに入店した。

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