能力が意味不明なんじゃ。
女神の話は、要約すれば次の通りだった。
女神は、幾つもの世界を創造し、観察する存在である。世界間を被造物が移動することは通常あり得ないが、ほんの時折、女神が退屈した場合に限り、その退屈を紛らすべく、女神の裁量によって移動させることがある。今回は、私が選ばれた。これから私は異世界に転生され、そこで七日間生き延びなければならない。女神はその様子を観察して楽しむ。元の世界において既に私は死んでいるが、異世界で七日間生き延びた暁には、女神の裁量によって、死ぬ前の元の世界に戻ることができる。尚、当該異世界の文明は発展途上にあり、治安が極めて悪く、又、〈能力〉と呼ばれる不思議な力が存在している。〈能力〉は一人一つまで会得できるが、異世界を生き抜くのに重要であり、私にも女神から一つ授けられる。
「どうですか? 本来なら死ぬべき運命にある貴女に、蘇るチャンスを差し上げているのです。悪い話ではないでしょう?」
「……ああ」
悪い話ではない。尤も、女神の話が信用できるのであれば、という留保は付くが、信用しないにせよ実体の無い相手に私が取れる手段は無いのだから、当面は従う他ない。見透かしたように、
「大丈夫、約束は守ります」と女神は言った。「そうでないと、つまらないでしょう?」
だからこそ心配なのだ、と私は内心で思う。対等な立場での契約ではなく単に女神の好奇心に依拠するからこそ、気紛れに破棄される可能性を否定できないのだ。極端な話、「異世界で暮らさせたら想像以上に面白かったから、期間を延長し七日間ではなく七十年にします!」と突然翻すかも知れない。
……まぁ、文句を垂れても始まらない。
「それで、肝心の私の〈能力〉は?」
炎や風を自在に操ったり、鳥獣を手懐けたり、宙を自由に浮遊したり、〈能力〉といえば、そういうのを想像していたが、
「これです」
その瞬間に体験したことは、まさしく神の奇蹟の一端であり、正確な言語化は不可能だが、強いていえば、視覚と聴覚に似ており、しかし視覚でも聴覚でもない感覚によって、女神の示した次の情報が、脳内に直接入力されたのである。
──〈立法〉場の者に平等かつ可能な法を制定する。
「……意味不明なんじゃけど。もっとちゃんと説明して」
「立法者の意思により〈立法〉は発動します。法の制定、廃止、制定失敗は場の者に告知されます。平等性の判定は形式的になされます。場から離脱すれば法は失効します。失効は告知されません」
「は? 平等、制定、告知? え、何?」
困惑する私を尻目に、女神は不敵に微笑む。
「……哀れで愛しい被造物よ、異世界での七日間、良い旅を」
私の身体は透けていき、足元から消失し始め、遂に視界は闇と化した。
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