イカれた女じゃ。

 貴女は既に死んでいます、などとケンシロウのような宣告を美人から受けたので、この奇態な白い部屋に来る前の記憶を辿ってみたところ、自室のベッドに潜り込んだのが最後だった。


 最後に見たいつもの天井のしみの形(瓢箪のような、馬のような形)まで、しかと憶えている。


「眠っただけで、死んではないじゃろう?」


「いいえ、死にました。りつほさんが就寝したあと、岡山市を震源とする大地震が発生しました。倒れた本棚の角が頭にぶつかって、貴女は死にました」


 突っ張り棒をかましておくべきだったと後悔した。


「ということは、ここは天国?」


「ここは、りつほさんが生きていた世界と異世界とを繋ぐ、中間地点のような場所です」


「は……? 世界って、複数あるん?」


「無数にあります」


「それで、私はこれから、そのうちの一つの異世界に行くん……?」


 美人はにっこり頷いて、


「はい、行きます!」


 素敵な笑顔ではあるが、はい行きますじゃないでしょうがと思う。


「いや、なんで?」


「だって、面白そうだから」


 美人は、再び笑顔を作った。


 が、それは、人間である私からすれば、もはや素敵な笑顔とは言い難かった。


 残虐で、不気味で、そして純粋で、例えるなら、春の午後に公園の隅っこにしゃがみ込んで蟻を一匹一匹指で潰して遊ぶ子供を連想させた。


 美人は、くつくつ笑いながら、


「うふふ、実をいえば私、神なんです」


 神を名乗る人間は信用するな、という父の教えを思い出しながら、私は呆然としていた。

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