35 アウフヘーベン歌劇場に到着

 「綺麗で、風情ある建物ね。」

 リリは、アウフヘーベン歌劇場を見上げた。




 柱の入り口で、ネオゴシック風の巨大な建築物だ。




 エリーゼ都、旧市街に建っている。




 ミーロ星でも指折りのレベルの劇がみれる、歴史ある歌劇場である。

 



 5月4日 エリーゼ都の時刻で、午後7時2分




 「もう、閉館してるな。どうやって中に入ろうか。」

 フェールさんは、首を捻らせた。




 歌劇場の入り口に10時開始、18時閉館と書かれていた。




 「入口は閉まってるし、他の通路を探すしかなさそうね。」

 リリは、仕方ないわねと言った様子だ。




 歌劇場の周辺を3人で歩き回る。




 「1階からは入れる所はなさそうだね。」

 リリは、上をみあげた。




 「3階に行ってみるか。」

 僕は提案した。




 「いいね。」

 フェールさんは、同意した。




 アウフヘーベン歌劇場は5階建てで、地下1階と、地上1階から5階まである。




 「僕がボルタ林檎で、2階の窓まで飛ばすよ。」

 僕は、2階の窓をみた。




 「ボルタ林檎???」

 フェールさんは首を傾げた。




 「ロネの能力ですよ。林檎に乗って飛べるんです。」

 リリは、フェールさんの方をみて説明した。




 「へえ。」

 フェールさんは、興味深そうに僕をみた。




 「ま、みててくださいよ。」

 僕は、両手の指を広げて、前に向けた。




 「ボルタ林檎。」

 3人の人が乗れる程度の大きさの巨大な林檎が宙を浮いている。




 「ふーん。面白いね、君の能力。」

 フェールさんは、二ヤリと笑った。




 「乗ってください。」

 僕は、ボルタ林檎に飛び乗った。




 「よっと、おお凄い。」

 フェールさんは、ボルタ林檎に飛び乗って、呟いた。




 「えい。おお、いいわね、ボルタ林檎、乗ってみたかったのよね。」

 リリは、歓喜の声を上げた。




 「飛べボルタ林檎。」

 僕は、右手の人指し指を立てて、手の甲を外にして、下から上に振り上げた。




 ヒューン




 ボルタ林檎は、宙を浮いて、上に進んだ。




 大きなアーチ状の窓が、階ごとに、並んである。




 窓を調べて、中に入れないか、試していく。




 ガチャガチャ




 「うーん、ちゃんと鍵が掛かってるわねえ。」

 リリは、窓をガチャガチャ弄った。




 ガチャガチャ、ガッ




 ピカ




 「光?」

 僕は、建物の正面の右端のアーチ状の大きな窓から小さな光が発せられるのをみて、声を上げた。




 「ロネくんなの?ねえ、マズい事になったわ、フェールさんとリリちゃんもいるのよねえ?」

 窓から声がきこえる。




 「ミミコさん?」

 僕は、窓に向かって語り掛けた。




 「ええ。あたしよ、分身体を通して、話しかけてる。ロールが、滅死壊の悍ましい化け物に捕らえられて、磔、拷問にあってる。」

 ミミコさんは、泣き出しそうな声で、離し始めた。




 「え。それってマズいんじゃ…。」

 僕は、絶望の表情を示した。




「あたし、どうしたらいいのか―、助け出せる機会を伺っているの。」

 ミミコさんは、陰鬱な雰囲気を醸し出す。




 「フェールさん、リリ、来てください。ミミコさんの分身が…窓に映ってます。」

 僕は二人を呼んだ。




 「フェールさん、リリ!!!、ロールが今日の朝からずっと、滅死壊に捕まって、磔にされて、拷問されてるのよ。はやく助けないと…」

 ミミコさんは、涙声で訴えかける。




 「歌劇場の中には、他に誰かいるのか?」

 フェールさんは、たずねた。




 「ええ。2300人ほどが、拘束されていて、800人ほどは、滅死壊の餌食になって、食べられてしまったわ。」

 ミミコさんは、無念な様子だ。




 「ミミコさんとロールさんでも、歯が立たないなんて…。」

 リリは、衝撃を隠せない様子。




 「ロールとあたしで、雑魚の滅死壊から、一般人を助けようとしたのだけれど、S級のやつが、いて、歯が立たなかったのよ。ロールは捕らえられて、拷問に耐えて、一般人を守ってる。あたしは、姿を隠して、ロールの救出を伺っているの。」

 ミミコさんは状況を説明した。




 「神通力の時間が切れる…はやく、来てね、待ってる。」

 ミミコさんの分身の光は消えた。




 「はやく、助けにいかないと。」

 僕は、言った。



 

 ガチャ




 「窓が開いてるわ。」

 リリは、窓を開けた。




 「ミミコさんが、開けてくれたんだろうね。ほら、鍵が落ちてる。」

 フェールさんは、鍵を拾ってみせた。



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