33 エリーゼ都のリーブル住宅街にて、アリクイと、ワニの滅死壊と戦闘開始。

「わあ、綺麗な街ねえ。」

 リリは、目を輝かせた。




 エリーゼ都




 ネオゴシック建築のような建物が、街の中心を流れるラベン川を挟んで立ち並んでいる。




 石造りや、レンガ造りの建物が多く、歌劇場や、美術館、デパートメントストア、大きな時計台がある。




 巨大な英国庭園には、ビアガーデンや、緑溢れる木々に囲まれた芝生があり、くつろげる。




 旧市街と、新市街に分かれており、住宅街と商業施設で、街が区画されている。




 お洒落な、芸術の街だ。




 アルブルの時刻では、午後10時15分ごろ、エリーゼ都では、午後3時15分ごろだった、7時間の時差がある。




 エリーゼ都の季節とアルブルの季節に大きな差はなかったが、エリーゼ都の方が少し、あたたかい。




 「まずは、ミミコくんと、ロールくんを探さないとね。」

 フェールさんは、言った。




 「昨日からメールを送っているのだけれど、連絡が付かないのよね。」

 リリは心配そうに、スマホの画面をみた。




 「街の様子をみる限り、不穏な動きは、なさそうですよ。」

 僕は、周りを見渡した。




 「だね。兎に角、エリーゼ都の街を調査しよう。」

 フェールさんは、歩くスピードを少しはやめた。




 「エイレーネ団のアプリをみる限り、滅死壊の反応は、リーブン住宅街と、アウフヘーベン歌劇場に出てるわね。」

 リリは、スマホをみながら言った。




 「まずは、エリーゼ空港から一番近い、リーブン住宅街に行ってみるか。」

 フェールさんは、提案した。




 「いいわね。」

 リリは、同意した。




 「行こう。」

 僕は、言った。




 エリーゼ空港周辺の、車乗り場に行く。




 「自動運転の車に、送ってもらおう。」

 フェールさんは、車を親指で指示した。




 灰色の、ワンボックスの自動運転電気自動車だ。




 ピ。




 フェールさんは、操作画面に向けて、スマホのQL決済コードを当てた。


 


 「ご利用ありがとうございます。席にお着きください。」

 画面から、女性の声のアナウンスが流れた。




 席に座る。




 「便利ですね。」

 僕は、言った。




 「ああ、やっぱ自動運転と電気自動車の時代だよ。」

 フェールさんは、返した。




 エリーゼ空港から、リーブン住宅街へは、車で、25分ほどだ。




 目的地へ着いた。




 「お洒落な家が、立ち並んでいるわねえ。」

 リリは、車から降りると、辺りを見渡した。




 白やベージュの壁で、石造りの3階建てから5階建てほどの赤や薄い黒色の屋根の、住宅が立ち並んでいる。




 「長閑のどかな雰囲気だね、散歩がしたくなる。」

 僕は、辺りを見渡した。



 

 道路脇にある、木々や、ベンチ、街往く人々の雰囲気が、閑静で、仕事に追われていないような、健やかさを感じた。




 滅死壊の動きがあるとは思えない。




 「平和だな。」

 僕は呟いた。




 「ええ、ほんとに滅死壊がいるのかしら?、反応のある所に、行ってみよう。」

 リリは、答えた。




 「ここだね。」

 リリは、立ち止まった。




 白い、5階建てほどの住宅から、反応が出ている。


 


 ガチャ



 

 「入るか。」

 フェールさんは、入口の扉を開けた。




 


 クチャ、クチャ、クチャ、クチャ―




 グヘへ、グヘへへ、にヒヒ




 バお、バお、ガブ、ガブ、グチャ、ガブリ




 異臭が充満し、薄暗い部屋に咀嚼音が、鳴り響いている。




 「ギュギュぅ?」

 鳴き声がきこえる。




 「どうなってんだよ、酷すぎる。」

 僕は、床に崩れ落ちそうになった。




 玄関と、廊下一面、喰い散らかされた人で埋まっている。




 廊下を抜けると、ダイニングキッチンになっていた。




 「ギュギュぅ?」

 首を傾げて、衝撃を受ける僕をみつめる、生き物がいた。




 アリクイか?




 体長3mほどはある。



 

 アリクイの顔にゴリラの腕、馬の脚の悍ましい姿をした滅死壊の化け物が、人を喰らっている。




 床一面は、食い散らかされた人で、足の踏み場もない。




  ピロロロン




 「ファングリーズ ランクA アリクイのような顔で、長い舌を持っている、サメとスッポンの牙を持ち、一度噛まれると、皮膚に食い込んで、取る事は難しい。ゴリラの腕力と、馬の脚力を持つ。」




 スマホのアプリが、アリクイの化け物の説明をした。




 「Aランクですって!?」

 リリは、目を見開いた。




 「強力だね。」

 フェールさんは言った。




 「おい、声がきこえないか?」

 僕は、鳴き声を、耳にして、呼びかけた。




 「バおバおう。」

 部屋の奥から、声がきこえる。




 ワニだ。




 腹の膨れたワニがいた。




 ワニだが、様子が変だ。




 二足歩行で歩いている。




 ガッシリとした恐竜のような足を持ち、鋭い爪を持った、腕がある。




 ピロロロン




 「スラープアリゲータ ランクB 二足歩行のワニで、人を10人以上丸呑みでできるほどの胃袋を持っている。足は、強靭で、手の爪は、鉄をも切り裂く。」

 



 「うわあああ。やめてくださいいいい。」

 20代ほどの若い女が、アリクイの化け物ファングリーズに食われている。




 ムシャ、ムシャ、クチャ、クチャ




 グニャリ、ゴチャ、ボキり。




 腕をちぎり、長い舌でなめまわし、喰らっている。




 「やめろおおおおおおお!!!。」

 僕は叫んだ。




 「ギュロロ?うるさいガキだなあ。」

 ファングリーズは、女を細かく刻んで、全て食べ終わると、近くにいた子供を手に取って丸呑みにした。




 「ゲほ。はああ、食った、食ったああ。人間は美味いのお。」

 満足気な様子である。




 「次はお前だな。」

 ファングリーズは、僕をジロりと眺めた。




 「あああああああ。」

 僕は、ファングリーズに向かって走っていった。




 「バカ、よせ、御前の敵う相手じゃあねえ。」

 フェールさんは、叫んだ。




 「げへへ、バカが。」

 ファングリーズは不敵に笑った。




 「ぎゃああああああ。」

 ファングリーズは叫ぶ。




 パリン。




 叫び声の衝撃で、辺り一帯の、窓ガラスが割れ壁にひびが入った。




 ファングリーズの口の中は、ぎっしりとした牙で覆われていた。




 一度噛みつかれると皮膚まで食い込んで取れなくなる牙だ。




 思わず、僕は、グラついた。




 「雑魚が。」

 ファングリーズは僕を長い舌で、巻き付けて拘束した。




 「くっ、離せ。」

 僕は、舌から逃れようと、暴れまわった。




 「あーあっ。いわんこっちゃない。」

 フェールさんは、額に手を当てて、項垂れた。




 グルグルグル シュパーン、ドンッ




 「鉄槍 螺旋回転。」

 フェールさんは、唱える。




 2mほどの鉄の棒が、宙に現れた。




ファングリーズ目掛けて、グルグルと、異常な速さで、飛んでいく。




 「え?」

 ファングリーズは、目を見開き、驚いた。




 ファングリーズの右腕が、鉄の棒で、ぶっ飛んで消える。




 「うぎゃああああああ。」

 泣き叫ぶファングリーズの悲鳴。




 ファングリーズの僕を締め付ける舌の力も弱まる。




 今だ。




 僕は、舌から抜け出した。




 「やってくれたな。人間の分際で。」

 ファングリーズは怒り、目が真っ赤だ。




 「ごふぉおおおお、ギュウルル。」

 ファングリーズは、妙なうめき声を上げる。




 ブシュり




 ファングリーズの吹き飛んでなくなっていた右手が、再生した。




 「なッ―、再生できるのか。」

 僕は、目を見開き、驚愕した。




 「Aランクだったら、できるやつもいるさ。」

 フェールさんは冷静に分析した。




 「アリクイ野郎は、僕が仕留める。お前らは、デカ腹ワニを、やってくれ。」

 フェールさんは、僕たちをみて、指示を出した。




 僕に出来るだろうか。




 不安だな。




 「滅死壊との戦いは気持ちも大事、勝つ気で、やらないと殺られるぞ。」

 フェールさんは、不安な気持ちを読み取ったのか、僕の背中を叩いた。




 「はい。」

 僕は、はッとなって、




 「滅死壊と戦う為に来たんだろ?、覚悟を決めな。」

 フェールさんは、僕を諭すようにして言った。




 「ありがとうございます、やってやります。」

 僕は、拳を強く握って、フェールさんに向けた。




 「よし。」

 フェールさんは頷いた。

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