29 エルピス林檎

 「クラス ノーマル林檎 エクステンド ミーロ パブリックボイド ジェネレート プリントノーマル林檎。」

 エルピスは、淡々と唱えた。



 

 エルピスの目の前に、赤く美味しそうな林檎が現れた。




 林檎魔法だ。




 「やってみな。クラス ミーロで、林檎を呼び出せばいい。」

 エルピスは、赤い林檎を齧った。




 「うん。美味い。」

 エルピスは、頬を緩ませた。




 「クラス ノーマル林檎 エクステンド ミーロ パブリックボイド ジェネレート プリントノーマル林檎。」

 僕は唱えた。




 目の前に林檎が現れた。




 プログラミング言語に似ているなあと思った、クラスとメソッドの考えに似ている、オブジェクト指向みたいだ。




 「上手だね。システムエンジニアだった君の過去が技にも反映されているのかな?」

 エルピスは、悪戯な笑みを、浮かべた。




 「僕の前世まで、知っているのか。」

 僕は、目を丸くした。




 「だって、僕は君だよ。」

 エルピスは、真っすぐに、明るい声で、言った。




 「君の事だったら、何でも知ってる。」

 エルピスは、告げた。




 「エルピス、御前は、どうして、僕の知らない事を知っているんだ。」

 僕は、きいた。




 「君が、自分を理解していないだけだよ。あるいは、忘れてしまっているだけさ。」

 エルピスは、答えた。




 的を得ていない回答のように思われた。




 「よくわからないや。」

 僕は、言った。




 「今は、それでいい。」

 エルピスは、返した。




 「次に、4個のメソッドを教えるよ。」

 エルピスは、続けた。




 「メソッド?」

 僕は、首を傾げた。




 「ああ、ムーブ、ウェイト、ハードネス、サイズだ。」

 エルピスは、言った。




 「ムーブで、林檎を移動、ウェイトで、重さを、ハードネスで硬さを、サイズで、大きさを変えられる。」

 エルピスは、林檎を食べ終わった。




 「パブリックボイドの後に、メソッドを唱えれば、技が発動するよ。」

 エルピスは、そっと目を閉じた。




 「林檎 ムーブ。」

 エルピスは、唱えた。





 林檎が現れ、僕の方へ宙を進んだ。




 「頭の中で、詠唱すれば、術を省略する事も出来るんだ。」

 エルピスは、事も無げに、言った。




 「へえ。」

 僕は、目の前にある林檎をみていた。




 「あげるよ、食べな。」

 エルピスは、僕の目の前にある赤い林檎を指さしていった。




 「どうも。」

 僕は、頭を下げた。




 「最後に、能力の名前は、エルピス林檎だ。」

 




 「じゃ、教える事はもう教えた。また何かあったら、来るといい。」

 エルピスは、僕に背を向けて、言った。




 「え?」

 僕は、エルピスの方をみた。




 視界が、ぼやけてきた。




 「身体が…。」

 僕の身体の透明度が増して、存在が消えて行っているのがわかった。




 「時間だね。じゃ、ご武運を。」

 エルピスは、手を振った。




 「戻ってきたのね。」

 声がきこえる。




 目を開けると、学校の校庭の隅の桧の木の下の、赤いソファの上に倒れていた。




 あたりをみると、もう、夕暮れ時になっていた。




 キーン、コーン、カーン、コーン―




 チャイムの音がきこえる。




 時計をみると、時刻は、午後5時を回っていた。




 「ありゃりゃあ、授業、サボっちゃったあ、ははは。」

 僕は気の抜けた声を出した。




 「大丈夫だよ、ロネくん。」

 ミミコさんは、僕の顔を覗き込んだ。




 「大丈夫って?」

 僕は、ききかえした。




 「神通力で幻覚みせて、授業は出席した事にしてあるから。」

 ミミコさんは、事も無げに、言った。




 「ひええ。」

 僕は、動揺の混じった声を上げた。




 「ちょちょいのちょいよ。」

 ミミコさんは、胸を叩いた。




 神通力、おそろしや―




 「で、どうだったの?」

 ミミコさんは、僕の方をみて、きいた。




 「もう一人の僕に、能力について、教えてもらったよ。」

 僕は、エルピスの事を考えながら、答えた。




 「よかったわね。」

 ミミコさんは、言った。




 「滅死壊と戦えるくらい強くなれたでしょうか。」

 僕は、不安な気持ちで、たずねた。




 「大丈夫よ、能力は名前と使い方を知る事で、確かなものになる、前の10倍は力をつけているはずよ。」

 ミミコさんは、僕の肩を叩いて励ました。




 「だといいけれど―。」

 僕は、胸を撫でおろした。




 「あとは、実践あるのみね。」

 ミミコさんは、言った。




 時刻は午後5時30分を過ぎようとしていた。




 「そろそろ、帰ろうかな。」

 僕は、時計をみて言った。




 「そうね、もう、とっくに、生徒は下校して、家に着いてるわ。」

 ミミコさんは、少し眉を顰めた。




 学校から、歩いて家に帰る。




 ガチャ。




 「ただいまあ。」

 家の玄関のドアを開いて、家に入る。




 「おかえりい、ロネえ、少し遅かったわねえ。今日は、カレーよお。」

 母は、玄関で、僕を出迎えた。




 カレーか―、ん?待てよ。




 ミミコさんも、神通力の宿命通とかいうので、今日の晩御飯がカレーライスになるとか、言ってたよなあ。




 どうやら、ミミコさんの神通力は本物なのかも知れなかった。



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