28 もう一人の僕!?ハート・A・エルピスに会う。

「教えると、言っても、基礎の基礎さ。」

 ミミコさんは、腰に手を当てた。



 

 「基礎ですか?」

 僕は、きいた。




 「基礎だね。特殊な経験をしたことがないかい、他とは違う不可思議な事ができないかい?」

 ミミコさは、言った。




 ある。




 林檎を操れる!!!




 「林檎です。」

 僕は、ポツリと言った。




 ミミコさんは、一瞬ポカンとした表情を浮かべた。




 何言ってんの、こいつ、みたいな顔をしている。




 「出でよ林檎。」

 僕は、右手の人差し指を上に上げた。




 林檎が、指先の上の宙に現れる。




 「しょぼっ!。」

 ミミコさんは、思わず、声に出した。




 「しょぼって、酷いですよ。」

 僕は、がくりと、項垂れた。




 「だって、林檎出して、何になるの?戦闘向きの能力じゃあ、ないねえ。」

 ミミコさんは、容赦なく言った。




 「バカにして!!!自在に速度を変えて移動させる事もできるんですよ。ほら。」

 僕は、頬に空気を膨らませた。




 ビュン、ビュン。




 林檎をビュンビュン飛ばす。




 「ははは、面白いね君。」

 ミミコさんは、笑った。




 「硬さだって、変えられるんですよ。」

 僕は、言った。




 「触ってみてくださいよ。」

 僕は、林檎の硬くして、ミミコさんの方へ飛ばした。




 「どれどれ。」

 ミミコさんは、林檎を触る。




 「ほう、確かに硬い。やり方によっては、戦えるかも知れないね。」

 ミミコさんは、二ヤリと、笑った。




 「能力ってのは、名前を与える事で、より強力なものになる。」

 ミミコさんは、続けた。




 「名前?」

 僕は、首を傾げた。




 ミミコさんは、地面に落ちている石を拾った。




 「例えば…、神足通じんそくつう 幻想自在変化げんそうじざいへんか 蛙。」

 ミミコさんは、石を下から宙に投げて言った。




 ゲコ、ゲコ、ゲコ。




 蛙だ。




 石が蛙になった。




 ゲコゲコと鳴いている。




 

 「どういう原理なのですか?」

 僕は、目を丸くした。




 「幻想自在変化さ。物の姿形、音、匂いに至るまで、自在に変えて、みせる事ができる。」

 ミミコさんは、得意気に胸を張った。




 石が蛙になった事は疑いようが、ないが、どうにもピンと来ない。




 「解。」

 ミミコさんは僕の肩を右手で軽く掴んで、力を込めた。




 蛙が、石に戻った。




 「蛙にみえているだけで、外界への変化はないのよ。幻想だっていったでしょ?」

 ミミコさんは、二ヤリと笑った。




 「へえ。面白いですね。」

 僕は、言った。



 

 「神通力は奥が深いのよ。」

 ミミコさんは、腕組をして、頷いた。




 「能力や技には名前がある、さっきの、幻想自在変化のようにね。あなたの林檎の術にも、きっと名前があるはずよ。」

 ミミコさんは、言った。




 「名前ですか…。」

 僕は、呟いた。




 「ええ。あなた自身にきいてみて。」

 ミミコさんは、胸に手を当てて言った。




 「切っ掛けさえあれば、簡単よ、膝を組んで座って、目を瞑ってみて。」

 ミミコさんは、僕を、諭すようにして言った。




 座禅かな…、ま、やってみるか。




 僕は、床に座って、目を瞑った。




 「えい。」

 ミミコさんは、僕の首のあたりに触れると、力を入れた。




 身体に、エネルギーが流れ込んでくるかのような感覚を覚えた。







 傍からみれば、おかしな事だが、僕は目を瞑り、何処かに繋がっていた。




「入ったわね。」

 ミミコさんは呟いた。




 

 僕は、自分自身にきいてみた。




 能力や技についてたずねる。




「やあ、林檎使いの魔術師。よく来たね。」

 僕の声がきこえた。




 「僕なのか?」

 僕はたずねた。




 「ああ、君さ。もう一つのね。」

 もう一つの僕は答えた。




 「もう一つの?」

 僕は、ききかえす。




 「君の中に眠る、能力が僕を作ったのさ。君のドッペルゲンガーあるいは、分身とでもいえばいいかな。」

 もう一人の僕は、答えた。




 「なんて呼べばいいんだ?」

 僕は、きいた。




 「ハート・A・エルピス。エルピスとでも、呼んでくれ。」

 エルピスは、告げた。

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