26 狩衣を着た、神通力者だというミミコさんと、校庭の隅の樹の下で話す。

 ガチャン




 下駄箱の扉を開けた。




 「あ、ロネ。おはよう。」

 アルルの声がきこえる。


 右横をみると、アルルがいた。




 2031年、4月23日、水曜日、朝7時15分。




 ルネ小学校。




 アルルは1組らしい。




 サン保育園時代からの友達だ。




 「おはよう、アルル。」

 僕は、挨拶を返した。




 内履きに仕替えて、廊下を歩く。




 「最近、ロネ、リリって人と、仲いいよね。」

 アルルは、言った。




 アルルは、僕がエイレーネ団である事も、能力者である事も知らないのだ。




 「リリは、気のいい奴だよ。」

 僕は、返した。




 「へえ。」

 アルルは、相槌を打った。




 アルルは、窓際の休憩室で、足を止めた。




 「朝礼まで、休憩所で、時間潰さないか?」

 アルルは、提案した。




 「いいね。」

 僕は、頷いた。




 休憩所には、丸テーブルと、椅子が並べられていて、自販機が並んでいる。




 ランドセルを、机に置いて、椅子に座る。




 休憩所で、駄弁っていた。




 「僕、林檎大学に飛び級進学しようと思うんだ。」

 アルルは言った。




 林檎大学。



 

 ミーロ星で、五つの指に入る名門校だ。




 ミーロ星では、小学校から、飛び級で大学に通える。




 できる子は、小学、中学、高校などに、通いながら、大学にも通うのが、一般的だ。




 小学生、中学生で、飛び級で大学にも在籍する人は少ないが、高校にもなってくると、結構、飛び級大学の人も多い。




 「へえ。アルルだったら、行けるかもねえ。」

 僕は、返した。




 僕には、未だ、飛び級で大学に行くのは、難しそうだった。



 

 27年、生きていたからと言って、ミーロ星での勉強と、ネロー星とでは、いろいろと違いもある。




 それに、例え、僕が、ネロー星にいた時の状態で、もう一度大学に入れと言われても厳しかったと思う。




 「小学校の授業は退屈なんだよね、もう、大学レベルの勉強を、タブレットでしてるよ、人工知能が、選んでくるんだ。」

 アルルは、言った。




 「ははは、流石、アルルだねえ。」

 僕は、苦笑いした。




 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン―、




 「ヤバい、チャイムの音だ。急いで教室に行かなきゃ。」

 僕は、ランドセルを右手に、椅子から、立ち上がった。




 「だね。」

 アルルは、笑った。




 急いで、教室へ向かう。




 ガゴゴゴゴゴゴ。




 教室の引き戸を開けて、中に入る。




 今にも、朝礼が始まると言った雰囲気だ。




 危ない、遅刻ぎりぎり、だった。




 授業を受ける。




 授業と言っても殆ど、自習みたいなものだ、人工知能の入ったタブレットが、導いてくれる。




 昼休憩になった。




 教室を出る。




 廊下を歩く。




 「ねえ、あんた、ロネくんでしょ?災難だったわねえ。」

 女が、話しかけてきた。




 ミミコさんだ。




 僕に毒入りコーヒーを飲ませた男と一緒にいた女だ。




 毒で倒れた僕を、ももこさんのキラ星病院まで、運んでくれた。




 「―、どうも、昨日は、ありがとうございました。」

 僕は、お辞儀をした。




 「へえ、律儀だね。お昼空いてる?話があるのだけれど―。」

 ミミコさんは、言った。




 話?




 何だろう。




 「いいよ。」

 僕は、同意した。




 「じゃ、早速、行くわよ。」

 ミミコさんは、歩き出した。




 トコ、トコ、トコ




 ゴロン、ドサアアア




 「いてて。こけちゃったあ。」

 ミミコさんは、笑った。




 どこに、躓く場所があったのだろう




 人気のない、木漏れ日の校庭の隅っこの桧の樹の下に来た。




 樹の下には、誰が用意したのか、赤色のソファと、机が置いてあった。




 「いい場所でしょ?」

 ミミコさんは笑った。




 「うん。」

 いい風だ、日差しが、心地いい。




 「ここは、あたしの神通力で、周りからは、見えなくなっているのよ。」

 ミミコさんは、言った。




 神通力だって?




 そんな馬鹿な。




 ま、エイレーネ団員だったら、ありえる事か。




 「驚いた様子ね。」 

 ミミコさんは笑った。




 「あたしは、ミミコ。エイレーネ団、B級団員にて、神通力者の女よ。歳は7歳、今年で8歳になるわ。小学2年生よ。」

 ミミコさんは、自己紹介をはじめた。




 ミミコさんは、僕と一つ、歳違いだったのか。




 早熟な人だなあ。







 「へえ、僕は、ロネ。昨日、エイレーネ団の入団したばかりの新人で、自分でも何の能力を持っているのか、わからない。6歳で、小学一年。」

 僕は、返した。




 ミミコさんは、突然、姿を消した。




 「消えた―。」

 僕は、呟いた。




 「単刀直入に言うけれど、君、このままじゃ、直、滅死壊に、やられて、死ぬわよ。」

 ミミコさんは、突然僕の真正面に現れて、右耳によって、囁いた。




 「え?」

 僕は、身構えた。




 「ははは、かわいいね君。でも現実だよ。君みたいな、弱い子は、エイレーネ団に要らない。」

 ミミコさんは、冷酷に言い放った。




 「君に、毒を飲ませた男、名前はPE.ロール.J。あたしの同級生で、幼馴染よ。」

 ミミコさんは、話し出した。




 「ロールは、超能力者で、B級、もうすぐA級になるのでは、と言われているほどの天才児なのだけれど、少し性格に難があるの。毒を飲ませて殺そうとしたのは、やりすぎだと思うけれど、仕方のない事だと、思うわ。だってあなたは、脆すぎるし、あまりにも弱い。」

 ミミコさんは、続けた。




 「弱い。確かに、自分でもわかってる。」

 僕は、唇を嚙み締め、手を握った。




 「悔しいでしょ?」

 ミミコさんは、言った。




 「どうする、もう、エイレーネ団なんて、やめちゃえば、楽になれるよ。」

 ミミコさんは、優しい微笑みを僕に投げかけた。




 「厭だ。僕は、僕には守るべきものがあるんだ。」

 僕は、即答した。



 

 「知ってるよ。宿命通で、ある程度の未来は、みえてたから。」

 ミミコさんは、僕の事を見透かしたような、目で、言った。

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