16 不思議な果樹園の林檎たち。
「ロネも、もう卒園かあ。」
父は、感慨深そうにして僕の園児服姿をみた。
2031年、3月22日、土曜日。
今日は、卒園式だ。
もう、6歳になっていた。
「行くわよ。」
母は、言った。
母は、黒のジャケットに、黒のベーカリーパンツと、を履いている。
父は、彩度と明度の低めなスカーレット色のシングルスーツを着て、黒いネクタイをつけている。
キメてきているなあ。
朝7時5分ごろ家を出た。
保育園に着いた。
卒園式に来た親たちの車が、たくさん駐車場に停まっている。
「行ってらっしゃい、気をつけるのよ。」
母は、言った。
車から降りて、保育園に入る。
林檎組のクラスの部屋へ向かう。
ガチャ。
部屋に入る。
「ロネくん、おはよう。」
林檎組の担当保育士の、アカネさんは、にっこり笑った。
「アカネさん、おはようございます。」
僕は、ペコリと頭を下げた。
「来たか、ロネ。」
アルルは、僕を見つけると、歩いて近寄った。
「今日で、ロネくんも卒園かあ、寂しいねえ。」
アカネさんは、少し沈んだ声で言った。
アカネさんは3年間ずっと、担任だった。
「ロネくん、はいどうぞ。」
アカネさんは僕の左胸に、白いブートニアを付けた。
「ありがとう。」
僕は、言った。
しばらく、アルルと駄弁っていた。
8時5分を過ぎた。
アカネさんは、林檎組の園児を呼び集めた。
名前を呼んで一人一人、出席と体調を確認していた。
「よし、大丈夫そうね。」
アカネさんは、頬を緩めた。
「今から、卒園式の会場の体育館に行くわよお、付いてきてねえ。」
アカネさんは、歩き始めた。
後をついていく。
体育館は、赤の式幕に、色とりどりの折り紙で作られた花や、カラフルな風船、キラキラのモールで、飾り付けられていた。
子供っぽい飾り付けだな。
卒園式が終わった。
林檎組のクラスに戻る。
保護者の人たちも、部屋に入った。
アカネさんは、アルバムや、描いた絵、創作物を渡していた。
「はい。ロネくんのだよ。」
アカネさんは、僕の描いた絵や創作物の入った紙袋を手渡しした。
「ありがとう。」
僕は言った。
「ロネくん、元気でね。」
アカネさんは、にっこり笑った。
アカネさんとは、気があった、3年間、お世話になった、ありがとうございました。
次の日の3月23日、日曜日。
リビングで食事を摂っている。
「ロネ、大事な話がある。」
父は言った。
「大事な話?」
僕は首を傾げた。
「付いてこい。」
父は、立ち上がった。
父は、外に出た。
僕も、後を追って外に出た。
果樹園が広がっている。
林檎の樹の下に父は立って、待っていた。
「おお来たか、ロネ。」
父は、果樹園の赤い林檎を取って、僕に投げた。
僕は、林檎をキャッチした。
林檎を齧った。
「美味いか?」
父は、きいた。
「うん。」
僕は答えた。
「ロネももう、6歳、4月から小学生か。」
父は、果樹園を見渡して、最後に僕をみた。
「はい。」
僕は返した。
「今日は大事な話があってな。」
父は、林檎の樹を優しく触りつつ言った。
「大事な話?」
僕はきき返した。
「果樹園の事についてだ。ハート家は、ミーロ星でも有数の果樹園を持っていてねえ。代々、受け継がれてきたものなんだ。」
父は、言った。
「へえ。」
僕はごくり、と唾を呑んだ。
「この星の果樹が不思議な特性を持っている事は知っているか?」
父は、ゆっくりと歩きはじめた。
「知ってます。宝石のように固い林檎や粘土のように柔らかいすももを、みつけた事があります。」
僕は答えた。
「流石だね。」
父は、ピタッと立ち止まった。
宝石のように光り輝く林檎の樹の下に行き、摘み取った。
「これが、石林檎だ。」
父は、石のように硬い林檎を右手に持った。
「石林檎?」
僕は、声に出した。
「石林檎は、自在に硬さを変えられる不思議な林檎なんだ。」
父は、言った。
僕は、地面に落ちていた石林檎拾った。
硬い!!!、カチコチだ。
「硬いだろ?。石林檎は育て方にもよるが、ダイヤモンドよりすっと硬い核パスタほどの硬さにも出来ると言われている。」
父は、石林檎を触りつつ言った。
「す、すごい。」
僕は驚いた様子で言った。
「ま、父さんは、未だ、ダイヤモンドの硬さまでしか作れないけれどね。」
父は、苦笑した。
「奥が深いんですね、面白いです。」
僕は、目を輝かせた。
「ロネも分かるか。林檎よさが。」
父は、頷き、張り切った様子で、言った。
気圧されそうな勢いだ。
「よし、林檎の真の姿をみせてやろう、ついてきなさい。」
父は、溌剌として、歩き出した。
父の後をついて行く。
天井の空いた、敷地面積が、1ヘクタール程で、壁の高さ15mほどの、厚い打ちっぱなし鉄筋コンクリートの壁の巨大な四角い建物があった。
父は、建物の入り口の、スチール製の赤い内開きドアのカギを回して開けた。
林檎の芳香が、した。
林檎の樹が広がっている。
ボーボオオオオー
火が燃え盛るような、音がきこえる。
ボーボオオオオー
赤く燃え盛る林檎が、実った樹が立ち並んでいる。
目を見開いて、驚いた。
「な、なんだ、こりゃ。」
僕は、言った。
「焔林檎だよ。」
父は、答えた。
「焔林檎?」
僕は、ききかえした。
「林檎の皮の中の温度は2万度に達する、強大な熱エネルギーを秘めた林檎だよ。」
父は、焔林檎の樹を、撫でた。
父は、歩き出した。
ついていく。
ビリビリ、ビビビ
静電気がビリビリと音を立てる時のような音がきこえる。
ビリビリ、ビビビ
電磁気の音がきこえる。
黄色に輝き、バチバチと線香花火のような青白い光を帯びた林檎の実っている樹があった。
「電磁林檎だ。10億ボルト、10億アンペア、雷の電力を遥かに凌ぐエネルギーを秘めた林檎だ。ま、育て方にもよるがな。」
父は、電磁林檎を手に取って、言った。
「凄まじいエネルギーだ。」
僕は、興奮した様子で言った。
「未だ、未だ面白い林檎がある。」
父は、言った。
ザアアアア、ポチャ、ドボン。
水の音だ。
ザアアアア、ポチャ、ドボン。
透き通った青い色をした、林檎の実っている樹があった。
「水の音がきこえる。」
僕は、耳を澄ました。
「水林檎だ。」
父は、樹の枝に手を伸ばして、水林檎を摘み取った。
ポイッ。
父は水林檎を僕に向かって投げた。
僕は、キャッチした。
ポチャ。
「す、すごい、透き通ってる。」
水林檎は、液体のような質感で、水を触っているようだった。
「不思議だろ?、水林檎は、様々な形の水に変形するんだ。海、津波、高波、さざ波、川、濁流、渓流、滝、沼、湖―、水のエネルギーを秘めている。」
父は、言った。
「へえ。」
僕は、水林檎を見つめて言った。
「よし、次の林檎も、凄いぞ。」
父は、歩きはじめた。
ヒュウウウウウ
風の音がきこえる。
緑のつむじの入った林檎が実る樹がある。
ヒュウウウウウ
「風林檎だ。嵐、竜巻、暴風、あらゆる風を作り出す林檎だ。」
父は、風林檎を手に取って、触った。
デュポ、デュルル、ドロオ
コワい音がきこえる。
紫色の林檎の実る樹があった。
「毒林檎だね。」
父は、言った。
「毒林檎?」
僕は返した。
「あらゆる毒を作り出す林檎だよ。」
父は、毒林檎の樹を触って言った。
「へえ。」
僕は、毒林檎の樹を見上げた。
「どうだった、ミーロ星の林檎は、不思議が一杯で面白いだろ?」
父は、笑った。
「はい。」
僕は、笑い返した。
父は、僕をみると、歩き出した。
鉄筋コンクリートの建物から外に出た。
「もっと、凄い林檎がまだあるんだ。」
父は、歩きながら、言った。
赤く塗装された、鉄筋コンクリートの巨大な建物の前で父は止まった。
入口の、黒いステンレスのドアがある。、
父が、暗証番号と生体認証を済ませると、開いた。
ドアの更に奥には、ハッチがあった。
父は、ハッチのハンドルを回した。
建物に入る。
林檎の樹々で広がっていた。
「こ、これは―、いったい。」
僕は、不思議な林檎の実をみつけた。
奇妙な波が、林檎の表面で起こっている、銀色で、波の波形が次から次に変化している。
「核分裂林檎だよ。」
父は、言った。
「核分裂ですって?」
僕は、返した。
「ほう、6歳にして、核分裂を知っているのか。流石はロネ博識だな。」
父は、感心した様子で言った。
「はい。」
僕は答えた。
「核分裂林檎は文字通り、核分裂反応を起こせる林檎だ。原爆にすることも、原子炉にする事も可能だ。」
父は、核分裂林檎を眺めた。
「危険ですね。」
僕は、言った。
「取り扱いには注意が必要だね。」
父は、答えた。
「研究中の林檎があるんだ。」
父は、歩き始めた。
不思議な色と波の、林檎が実る樹があった。
「これは?」
僕は、きいた。
「核融合林檎だよ。」
父は答えた。
「核融合だって?凄い。」
僕は、言った。
「まだ、完成はしてないよ。研究中なんだ。」
父は、返した。
「へえ。」
僕は、核融合林檎を見上げた。
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