5 超能力者の男と、神通力者の女。

 「うわあああああ、俺らはもう、終わったんだ。うわああああ。」

 叫び狂う、若い男。




 「うちの、子がいないのおお。ねえ。うちのこがあああ、うわあああん。」

 自分の子供が見当たらず、泣き叫ぶ女。




 「食料が尽きて、俺たちは、死んでくんだ。」

 絶望に満ちた表情で、立ち尽くす、男。




 泣き出す、子供たち。




 逆に、妙に落ち着いている人。




 静かに眠っている男。




 様々な人が地下に避難し、過ごしていた。




 「暴動が起きたら、どうするんですか。」

 僕は、たずねた。



 

 「大丈夫さ。」

 魔術師の男は、答えた。




 本当に大丈夫なのであろうか。




 「この地下には、どれくらいの人が避難されてるんですか。」

 僕は、きいた。




 「100万人ほどかな。他の魔術師、超能力者、神通力者たちの管理する地下も併せて、全人類70億人が避難できるようになってるよ。」

 魔術師の男は答えた。




 「へえ。」

 


 

 「ま、全員が助かるわけではないけれどね。」

 魔術師の男は付け足して、言った。




 僕の家族は無事だろうか。




 しかし、これだけ、人で溢れていると、僕の家族が何処にいるのかも、わからないな。




 僕の心配をよそに、魔術師と、魔法少女と、勇者の3人は、歩いていく。




 「何処へ、向かっているのですか。」

 僕は、たずねた。




 「僕らの本拠地だよ。ま、ついてきなよ。」

 魔術師の男は、答えた。




 「君の家族の場所も、きっと、わかるよ。」

 魔法少女のお姉さんは、言った。




 「あの人たち、は、みている、であろうしね。」

 勇者の男は、返した。




 「あの人たち?」

 誰の事だろう。




 「ま、行ってみればわかるよ。」

 魔術師の男は、言った。




 通路をしばらく歩くと、広い場所に出た。




 広場には、木々が植えられており、花々や果実が実っていた。




 西洋風の四角く、ガラス窓で、ペンキでお洒落に塗られた木製の扉の建物。




 和風な丸い曲線の瓦屋根に、木造の建物。




 橋の架かった池がある。




 鯉が泳いでいる。




 噴水が吹き出している。




 木々に花々が、美しく、配置されている。




 砂利や岩が、さざ波のようになっている。




 「ここは、一体。」

 地下の中だとは思えないほど、人工的に作られた、美しい自然であった。




 「本拠地だよ。」

 魔術師の男は、池の鯉に、餌を投げ入れて言った。




 「本拠地って、いったい。」

 不思議な所だ、何をする所なのだろう。




 「結界を張る場所よ。地下施設の避難所だけ、滅死壊の化け物どもが襲って来ないなんて、おかしいでしょ。2人の異能力者が、結界を張ってるのよ。」

 魔法少女のお姉さんは、広場の奥をみていった。




 広場の奥へ向かう途中。




 音もなく、宙を歩く、少年がいた。




 黒色のサファリハットを被り、黒色のTシャツに、赤黒いチノスカートをお洒落に着こなしている。




 少年は、池の近くにある、巨石の上に音もなく、降り立った。




 岩の上に座る。



 

 「よっと。」

 少年は、人差し指を上に上げた。




 すると、指の上に、青色のマグカップが現れた。




 「アポート、ココア。」

 少年が、マグカップに向かって指を下げた。




 ジュルルルルル。





 どこからともなく、コーヒーと思われる茶色の液体が、宙からマグカップに注がれた。




 熱いのであろう、湯気が出ている。




 少年は、岩の上から、僕を見下ろした。




 「やあ、やあ、君が来ることはわかっていたよ。ほら、熱々のココアだよ。」

 少年は、目を細めた。




 「え。」

 すると、宙を浮いていたココア入りのマグカップが、僕の目の前に現れた。




 「す、すごい。」

 僕は目を丸くした。




 「毒は、入ってないよ、飲みな。」



 どこからともなく、コーヒーと思われる茶色の液体が、宙からマグカップに注がれた。



 少年は、岩から、消えると、僕の目の前に現れた。




 「そいつは、超能力者だよ。」

 魔術師の男は言った。




 「超能力者???」

 僕は、少年をみた。



 

 「やあ、こんにちは。出会った記念に、これから君の身に起こる事を占ってあげるよ。手を出して。」

 占ってくれるらしい。




 言われた通り、手を出した。




 少年が指パッチンを鳴らすと、手の平の上に、林檎が、現れた。




 「林檎???」

 僕は首を傾げた。




 「林檎だねえ。ははは、なんの因果かね。」

 後ろから、女の声がきこえた




 振り返ると、奇妙な格好をした若い女がいた。




 草花の柄の刺繍された狩衣を着て、錫杖を片手に持った、奇妙な格好のクセ毛で、髪の長さが、肩くらいの茶髪の若い女が、僕の背後から、頭に手をポンと置いた。




 「誰ですか?。」

 僕は、咄嗟にたずねた。




 「あたしのことかい。」

 女は背後から、地面に入っていった。




 「え。地面の中に入った。どうやって???」

 僕は、奇妙な、女の行動と、目の前で起こっている現象に困惑していた。




 「バアアア!!!」

 地面からドバッと若い茶髪の女は現れた。




 舌を出して、両手を顔の横で広げている。




 「キャアア。」

 思わず、悲鳴を上げてしまった。




 「はははは。面白い反応だな。かわいいやつよのう。かかか。」

 若い女は愉快そうに、僕の反応をみて、楽しんでいた。




 「揶揄うのは、やめてあげてよ。彼は初心なんだから。」

 魔法少女のお姉さんは、若い茶髪の女に、注意をした。




 「へへへ。君に言われると、困っちゃうなあ。」

 茶髪の若い女は、照れ臭そうに髪の毛を掻いて、舌を出して、ウィンクした。




 にしても、僕は、魔法少女のお姉さんに、初心だと思われているようだ。




 僕って、純粋な奴か?




 「さっきは、ごめんね。驚かして。神通力者だよ。地下の結界を超能力者と二人がかりで、張ってるんだ。」

 茶髪の若い女は、言った。




 神通力者か。




 よく、わからないが、特殊な能力を持っているようだ。


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