2 魔術師は、僕をケンタウロスの化け物から、助けた。

 食われちゃうのかな。




 いい人生だったと言えるのか、いいや、言えない、まだまだ、これからの人生だ。




 終わりたくない。




 気色の悪い、音で、くちゃくちゃ、人肉を咀嚼する音がきこえる。




 ケンタウロスの化け物は、次の獲物を僕に定めて、じっと、黒い目でみながら、口の中にある、誰かの腕を、右手に持ってムシャムシャと咀嚼していた。




 「じゃあ、食べちゃおーっと。ニヒっ。グヘへええ。」

 ケンタウロスの化け物は涎を垂らしつつ、僕の方へ、ヌメヌメと近づいてくる。

 



 ケンタウロスの化け物は、腕を伸ばし、僕を捕まえようとした。




 「あああああああああああああ。」

 僕は叫んだ。




 死んでたまるもんか。




 僕は、地面に落ちていた、木の枝を咄嗟に手に取って、ケンタウロスの化け物の右目に向かって、突き刺した。




「・・・、ざんねーん。僕たちに、この世界の攻撃は通用しませーんん。ブヒヒヒヒヒ。」

 背筋が凍りつくような悪寒のする、けしょくの悪い笑みだった。




 助けて、誰か僕を助けて。




 縋るような気持ちで祈ることしかできない。




 ついに、ケンタウロスの化け物に身体を捕まれて、終わったと思った、瞬間だった。




 パチン。




 指パッチンの音がきこえた。




 すると、ケンタウロスの化け物は爆発して、色とりどりの美しい花々が咲いた。




 「雑魚の癖に、人を喰らいやがって、人槍馬が。大丈夫かい、君。」

 男は、奇妙な杖を持っていた。




 杖の先には赤く輝く宝石が、埋め込まれている。



 服装も、現代社会では稀にしかみない魔法使いのコスプレのような黒いローブを身に纏っていた。




 「大丈夫です、助けてくださってありがとうございます。あなたはいったい―、」

 僕は、深々と頭を下げ、礼を言って、たずねた。


 


 「ちょっとした魔術師さ。化け物ども相手には、魔法か超能力か、神通力でしか攻撃できない。俺はこの星を、守りたいんだ。」

 男は、答えた。




「魔術師がいるだなんて、驚きです。ネロ―星は大丈夫なのでしょうか。」

 僕は、言った。




 ネロ―星、僕たちの住んでいる星の事だ。




「大丈夫にしなくてはならない。その為に、魔術師や超能力者、神通力者がいるのだから。」

 男は、コワいくらい、真剣な眼差しで、言った。




「へえ―。じゃ、どうか、ネロ―星を救ってください。」

 僕は、お願いした。


 


「おうよ。君も様子をみるに、化け物どもの姿がみえるらしいじゃないか。魔術師か超能力者か、神通力者の才能があるのかも知れないね。ま、使わないに越したことはないのだがね。」

 男は、僕の瞳をじっくり、観察して言った。




 「うん、いい目だ。澄んだ瞳をしている、君だったら、きっと―、。」




 「きっと、なんですか。」

 僕は、きき返した。




 「いいや、なんでもない。カッコつけたかっただけだ。」

 男は照れ臭そうに、頭を掻いて、言った。




 よく、わからないことをいう男だと思った。




 「僕、家族と恋人に会いたいんです。心配で、15㎞ほど離れた都市部から郊外まで森を歩いて来たんです。」

 僕は、言った。




 「ああ、なるほど。郊外は大丈夫だよ、殆どの人は、俺たちの用意した地下に、避難させてある。念のため、君の家まで送るよ。」

 男は、親切に申し出た。




家に行く途中、化け物どもに襲われたが、男は奇妙な魔術で、撃退した。




「ちなみに、化け物どもだが、あいつらは、滅死壊という生き物の成れの果てだ。詳しい事は言えないが、《滅死壊》という名前だけでも、覚えておくといいかもな。」

 男は、道中で、化け物の呼び名について、話した。




「へえ、滅死壊ですか、そりゃ物騒な名前ですねえ。」

 僕は、返した。




「あぁ、物騒な奴らだ。」

 男は額に手を付けて、憂鬱な雰囲気を出した。

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