第20話「主人公くんの選択 後半」
〈前回までのあらすじ:帰ってきた主人公くんが覇王になっていた。〉
「いや本当になにがあった!? なんで一週間で覇王みたいになるの!?」
「なにを言っているのだ作者殿。吾輩、いつもどおりなり」
「いや、絶対にそんな語尾つけてないから。なにそのあからさまなキャラ付け!!」
一体この一週間で主人公くんの身に何があった!? 世紀末でヒャッハーでもしてきましたか!?
あまりに変わり果てた姿に、厨二病くんが猫のように瞳孔を開いて威嚇している。その羽根で威嚇してどうするんだよ!
「ふむ……なぜ作者殿と厨二病殿が驚いているのか見当もつかぬでなり」
「顔とか姿ないくせに存在感がすごいんだよっ、誰だって度肝抜かすわ!!」
急にギャグ感増すなよ! 前々回のシリアス空気と今回のことでみんな風邪引いちゃうから! グッピーは繊細なんだよ!
「なに言っているのかわからないなり」
「その「なり」ってやめてもらえる? 殴りたくなるから」
「わかったなる」
「なる!?」
だめだ、私じゃこの主人公くんを止められない! 助けて厨二病くん!
「――――……モウソレデイインジャナイカナ」
ち、厨二病ーーーー!!!
死んだような目になる厨二病くん。しかもキャラを忘れてしまっている! 君のアイデンティティが!
くっそこれも主人公くんがギャグ路線に走ったせいだ! いつもはツッコミをしてくれるのに今日はそれがないし!
「もう……本当にこの一週間なにがあったの。というかなにしてたの」
なんか突っ込むのも騒ぐのも疲れた。作者は運動不足なんだぞ。
「ふむ……それを語るには少し、長い話になるがよろしいかなる?」
「いいけどその取ってつけたような語尾は今すぐ外せ」
「あれは……ハーレム系主人公が帰ったあとのこと……」
****
作者は結局、ハーレムを認めることはしなかった。正直認めない理由は人選のせいだと思うが、それは置いとき。
今の作者に置かれている状況そのものがハーレムじみているくせに、本人は頑として譲らなかった。
「どうするか……」
そうして悩みに悩んだ俺の脳に、ある一つの考えが浮かんだ。
そうだ、旅に出よう! ――と。
決めてからの俺の行動は早かった。旅に出ると言っても食べ物やらなんやらは必要ないし、作者には置き手紙を置いて置けばいいと思った。
そうして準備を整え、俺は様々なキャラに触れ、新たなジャンルを開拓するためのたびに出た。
その道中にいつも会うような奴らや、始めて見るような奴ら。そして世紀末のヒャッハーたち。
俺はまだ真っ白なキャンパスと変わらない。他のキャラに触れればそうして新しいジャンルを吸収しやすかった。本当に、濃厚な一週間だったと思う。
そうして吾輩は、作者殿の待つ場に帰ってきたのだ。
****
「吾輩は学んだ。この一週間、作者を困らすばかりだった吾輩の夢をかえるぐらいは、様々な知識を得られただろう」
「し、主人公くん」
「作者よ、だから吾輩は決めたのだ。真にしたかったことを」
主人公くんのキャラが変わったせいで、その変化に気付けなかった。今までの主人公くんと、今の主人公くんは明らかに何かが違う。
この一週間で彼がなにを見てきたのか、それを詳細に知ることはできない。
けれども彼の変化はきっと、とても喜ばしいことなんだ。彼は自分を変えられたんだ。
なんだか、子供の成長を見ているようで私も嬉しいな。
「そっか、それで主人公くんはなにを見てきたの?」
「ああ、吾輩は……そうして歩いてあるジャンルに目が止まったのだ。それは吾輩が知る限り、作者殿も知らぬであろうジャンル……それは」
ゴクリ。誰かが生唾を飲み込む音が響く。ドクドクと心臓が鳴り私は言葉の続きを待った。
「それは……」
「それは?」
「それは!!」
バンっ! と、机を叩く覇王……じゃなくて主人公くんは、私はまっすぐ見据えてこういった。
「BLジャンルだーーーー!!!」
筋肉やらなんやら、覇王要素は消え失せる。代わりに、バラでも咲き誇るような色気を持った主人公くんが現れた。
その風格、まさにスパダリ……。
「いや、なんでだよ!!!????」
一体何を見てきたらそんなふうに思いっきり変わるんだよ! うちの子になに見せやがった!? そいつら!!
「び、びーえるとは……何なのだ作者よ」
ダラダラと冷や汗をかきながら厨二病くんが聞いてくる。まるで主人公くんの言葉を理解できなかったような様子だが、諦めて。
いや本当に、なんでそこに行き着く? この旅で今まで女の子に囲まれてハーレム! なんて言ってた子が、真逆とも言えるようなジャンルに転化するんだよ!
「俺は理解した。作者の、一人だけを愛し、責任を持つということを。けど正直今までであってきた女性が女性のせいで、なんか怖くなって……。それでBLジャンルに教えてもらったんだ。――別に愛すべき性別が、異性じゃなくってもいいじゃないかと」
これってもしかして今までであってきた女の子たちのせいって? あれ? それって私のせいじゃね?
それでそっちに走ったと?
「作者……それでどうするのだ? BL書くのか?」
「い、いやまって……本当に待って……」
いやね、それ自体はハーレムより全然別にいいんだよ! BLは普通に見るし、そういうのに偏見はないけど! けどさ!
「私……BL書いたことない……」
見るだけって言っても、そんなに詳しく学んだことないし。それに私は普通に純愛のほうが好きだし! いや、BLにも純愛はあるんだろうけど!
「? ならいいではないか。学べば」
そうだね。ここまで苦悩している私はおかしいだろうね。でもね……。
「……私が一番最初に見たBLってね……死ネタの狂愛系だったんだよね」
「……」
それを見て以来、私はどんなBLを見たところでその強烈なシーンを毎度のごとく思い出してしまうのだ。
だからもし、私がBLを書いたとしたらそれは……。
「大丈夫だ作者! 俺にいい考えがある!」
沈む私と厨二病くんの空気でも吹き飛ばすかのような主人公くんの明るい声。ドンと、乗っけられた紙の束。本の山。それらすべてがBLに関するものだった。
「へぁ?」
「今日からたっぷり、勉強しような」
「え、いや……ちょっと主人公君?」
「大丈夫大丈夫。作者ならできる。そういう所はポテンシャルが高いだろ? やればできる大丈夫。あ、俺は攻めの方でよろしくな」
主人公君の圧がまた覇王に近づいている。まさかヒャッハー世界のBL とか言わないですよね主人公さん!?
「さぁ、始めるぞ作者殿」
「い、いやぁあああああああ!!!!!」
――こうして、主人公くんは選択した。新しい
そして部屋にBL本が散らばり、柊矢にドギツイ濡れ場シーンのある本を見られて避けられたことは言うまでもないだろう。
いいことと言えば、これを置いている限り黒幕さんがすぐに帰っていくようになったことぐらいか。でもすぐに慣れられた。帰れ。
主人公くんの願いは、結局私を振り回すだけだった。
主人公くんの選択。 【完】
****
次回、最終話!
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