第19話「主人公くんの選択 前半」

「おかしい。最近おかしいよ厨二病君」


「なにがおかしいのだ、作者よ」


 うーんうーんと唸る私に、羽の掃除をしていた厨二病君が顔を上げた。


「主人公くんが、おかしい!」


「だからなにがおかしいのだ、作者」


 はぁ、やれやれ。なぜ厨二病くんはわからないのだ。

 ここまで言ってなにもわからない鈍ちんな厨二病くんに、優しい私は教えるべくベットから立ち上がった。


「最近主人公くんが来ないことだよ!!」


「なんだ、それか」


 心配して損したとかなんとか言って、厨二病くんは再び掃除に戻る。めちゃくちゃ興味ないね!?


「それかってなによ! アナタは寂しくないっていうの!?」


「作者寂しかったのか」


「べ、べべべ、別にそんなわけないわよ! 嘘です寂しい!」


「どっちなのだ」


 だって毎日来る主人公くんがここ3日も来てないんだよ!? 母親としてとても寂しいんですよ! ツンデレ節とかしてる暇ないわ!

 はぁはぁ、やばい……運動不足の弊害か最近息が切れやすい……。


「運動したほうが良いぞ、作者。ふむ、そういえば最近主人公を向こうでも見かけないな。たしかになにをしているのか」


「え”……ま、さか誘拐?」


「誰が誘拐するんだ」


「だってあんなかっこかわいい子、誰だって誘拐したくなるよ!」


「作者、主人公には顔どころか姿なんてないぞ。なにを言ってる?」


 やかましい! 主人公くんがさらわれたって言えばさらわれたんだよそれでいいじゃんか!

 私はもう3日もあってなくて心配で心配でご飯おかわりできなかったんだからな!


「作者そもそも少食じゃないか」


「なんで私のご飯事情知ってるの? もしや米櫃見た?」


 なんか最近来る子が私の私生活に詳しくなっているような気がする。黒幕さんとか何故か調味料が切れていること知っていたしね。恐怖。

 家に来るたびにケーキやご飯やらなにか持ってくる柊矢を思い出す。次はいつ来てくれるのだろうか、高級ハム。


「ジュルリ……」


「作者の友人が哀れだ。しかし主人公、一体どこにいなくなったのか」


 うーん、急に来なくなった理由は間違いなくあれだ。ハーレム御一行様強襲事件。

 あれから主人公くんの様子はおかしかったし、その日から来なくなったし。確実にあの件が関係している。


 ま、まさかあまりにも頭の固い作者が嫌になって家出をならぬ作品出を……っ!? ハーレムは嫌だけど考え直してくれ〜!


「捨てられた夫みたいな言い方だな。……ふむ、そんなに作者が気にするなら探してきてやろう。暇な時でも」


 それは全力で探すと言ってほしかったなぁ……。でもありがとう。探してほしい、私の集中力のためにも。


 こうして「主人公を探し隊」が結成され、行方不明になった主人公を探す私達だった。


 ****


 それから一週間後……。


「見つからないんですがぁーーー!?」


 そう、あの厨二病くんが本気を出しても主人公くんが見つからないのだ。これにはさすがの厨二病くんも首を傾げる。


「まさかここまで見つからないとは……。作者よ、浮気でもしたか?」


「一体誰と浮気すると?? するわけ無いじゃん!」


「だがここまで見つからないとなると消滅でもしてしまったのか」


 まって、消滅ってなにそれ怖いんだけど。


「消滅ってなに? 君たちそんな事があるの!?」


「消滅は基本、自分の作者に忘れられるとなる。後は誰の記憶にも残らなかったりとかだな」


 そんなルールあるとか知らないんだけど……。とりあえず私はみんなの事記憶しておこう。いなくなると悲しいし。

 でもじゃあ消滅してないね。だって一日たりとも忘れたことないから!


「よかったぁ……じゃあなんでいないの!」


「しまった、作者の情緒が不安定だ」


 不安定にもなるよ! トイレにある紙がなくなったような気分だよ!


「……我はなにも言わんぞ。しかし本当にどこに行ったのか。主人公は言い残しただけなのか? 置き手紙とかは?」


「えー、そんな物あるわけないよ」


 といって私はパソコン周りを探す。うん、やっぱりないわ。まぁ主人公くんがそんな古風なもの置くはずがないよ。


「あっ、あった」


「うんそんな気がしてた。今普通にフラグ立てたなって思った」


 知ってたよ。私がフラグ回収一級を持っていたことぐらいさ。とりあえず見ようか。

 厨二病君思っていた紙を覗き見る。そこには『一週間後に帰るから心配するな』と書かれていた。


「……ねぇ、たしか今日で一週間だったよね?」


「う、む……そうだったな」


「今日帰ってくるの? 主人公くんが?」


「我らは、少し早とちりをしていたようだな」


 紙を丸める。ゴミ箱に華麗にシュート……できなかったのでとりあえず普通に入れた。


 ふぅ……さーて。


「口で言えよ!!!!」


 腹の底からの叫びは私の家だけではなく近所にも響いていたらしい。とりあえず謝罪しに回ったといた。


 ****


「なんだよもぉ……あの時すでに主人公君いたってことじゃん。なんで私になにも言わないのよ!!」


「まぁまぁ落ち着くが良い作者よ。とりあえずお茶でも飲め」


 厨二病くんは勝手知ったる私の家でお茶を入れる。その姿はまるで良妻だった。マフラーボロボロだけど。

 でも手紙を信じるなら今日主人公くんは帰ってくるみたいだ。良かった良かった。


「でもなんでこんなにも来なかったのかな? 反抗期?」


「反抗期って言うほどの年だろうか? それに手紙を送っているということは別に反抗しているわけではないのではないか?」


 お茶を飲みながら二人で主人公くんを待つ。なんだか一人いないだけで寂しくなるなんて、もう一人ぐらいしできなくなってしまった。


「作者もいい加減結婚の一つでも考えてみるべきではないのか?」


「まるで母親のようなことを……相手なんかいないんですけど。それに誰が私のこと好きで結婚なんかするのよ」


 そんな奇特な相手、いるものならお目にかかりたいものだ。きっとどこを探そうともいないだろうけど。


「? 主人公から聞いたのだが作者のゆう――」


「あっ、パソコンが」


 話を遮る形で悪いが、パソコンが光ったのでつい声を出してしまった。間違いない。きっと主人公くんだ!


「主人公くん! お母さん心配したんですけど! どうして置き手紙置く前に話しかけてくれなかった、の……?」


「どうした作者。なにが……あった??」


「あー、作者、厨二病わりぃ。一週間ぐらい来れなくて。後お母さんじゃねぇから。お前のこと母親って認めた覚えないから」


 なにか行っている主人公くんの話が頭に入ってこない。目の前の光景が信じられなくて、目が奪われた。

 いや、彼はいつもどおりなんだ。そう、なんかたくさんの紙とかあるけどいつもどおりなんだ。


 ただなんか気配が筋肉ムキムキになって、なんか覇王みたいな風格背負っているだけでいつもの主人公くんなんっ……。


「まぁとりあえず……吾輩、帰還したなり」


 胸筋が、ピクリと動いた。……気がした。


「いや、だれだぁああああ!?」


 なんで一人称と語尾まで変わってんの?! 一体何をしてきたぁああああ!?


 帰ってきた主人公くんが、なんか変なふうになってた。どうしてこうなった!

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