第18話「とうとう来たなハーレム御一行様 後半」

 いいだろう、この子には全てにおいてなにが重要なのか言ってやるもん!

 たとえそれが、あの黒幕さんのところのと同じ子だったとしても!


「ん?」


 キッと睨めば帰ってくるのは甘い笑み。

 そのキラキラの笑顔のうらに隠れる、腹黒い気配。更に増す別室からの殺気。


「やっぱり怖い……」


 なんかもう勝てる気がしないんですけど。勝てる気しないんですけど!!

 それに私は重大なミスを犯してしまった。こんな相手に自分の弱点とも言えることを言うなど失策! できることなら過去に行ってやり直したい!!


「ねぇ……人が信用できないなら、作者ちゃんは彼氏なんて一度もできたことないんだよね?」


 そして、こんな影しかないようなタイプが起こすことなんて一つしかないだろう。もうなにを言うのか想像できるところが怖い!


「試しに、俺と付き合ってみる?」


「絶対に嫌」


 別室からの殺気が、数段アップ。多分後もう少しで私殺される……。

 それと試しで付き合うもなにも、私は三次元で君は二次元でしょ!? できるわけ無いじゃん!!

 そんな事彼にもわかっているはずなのに、いつの間にか取られた手を指で撫でててくる。ひぃぃ……っ! 私殺される!


「なっ、おい! 作者の手を離せよ! こんなことのために呼んだんじゃないんだぞ!」


 主人公くんの焦ったような声。ただの説得のはずがこうなることは予想してなかったらしい。多分それ人選ミス。


「離していただけませんか」


「俺だったら、きっと作者ちゃんのためになれる。もし作者ちゃんがハーレムが苦手だっていうんだったら、彼女たちは近づけさせないし、危害は加えさせない」


 まるで譲歩し、私の為みたいなことを言うハーレムくん。多分彼は嘘を言ってないし、本当にそうするだろう。

 けど。


「お断りしますよ。貴方と一緒にいても、私のためになることはない」


 彼と一緒にいて私は成長なんてできるわけがない。きっと執着して、そのまま足踏みをするだけのオチになる。

 私は人が苦手で、好きになることができない。信用なんて言葉を使えない。古傷をずっと引きずるだけだった。

 それはきっと、これからも変わらない。


「だから君に憐れまれる筋合いはない。誰かを重んじることも、裏切られたときの気持ちを知ろうともしない君に、人の為だのなんだのととやかく言われたくない」


 ハーレムくんと彼女たちになにがあったかなんか知らない。きっと私が思うよりも彼は誠実なのかもしれないし、もっと優しいのかもしれない。

 けど私は今のこの子しか知らないから、この子の評価が変わることはない。


「君のことが嫌いなんじゃない。でも、私は君を認められない」


 なんで私がハーレムが嫌いなのか、なんとなくわかった。

 簡単に人を招き入れるくせに、ずっとあやふやな関係のままあるその関係が嫌いなんだ。それで不満がたまらないとは言え、納得できるような関係じゃない。

 あやふやな関係は嫌いだ。いつ壊れるかもわからない、薄氷の上に立つような信頼とも言えない執着と好意の関係。

 与えるのが肉欲だろうがなんだろうが、私はそれを認められない。


 きっと世の中には、私でも認めてしまいたくなるようなハーレムものもあるのかもしれない。でもそれは見ないとわからないんだ。


「お帰りを。私はなにを言われようが主人公くんの夢を叶えるきはないし、君とどうこうなるつもりはない」


 私だってできることなら初めて関わった、なおかつ自分のことも呼べる主人公くんの夢は叶えたい。

 けど私はハーレムを認められないし、認めたくないから。だからどんなことを言われようが、お固い作者として居続ける。

 それが、私の決めた覚悟だ。


「……」


「……」


 とまぁ、そんなかっこいいことを言ってみたものはいいものの手は離れないし、というか掴んでいる力が強まった気がするんですけど!!

 やめて! 作者は繊細だからすぐに脅されたり痛い目見ると泣くから! ガラスのハートだから!


「……うな」


「え?」


 うつむいてなにかを言っていたような気がするハーレムくん。聞こえなくてつい聞き返せば、うつむいていた顔はいつの間にか軽薄な笑みが戻っていた。


「なんでもないよ。それにしても、さっきの本気にしちゃったの? 冗談に決まってるのに、おかしい!」


 え、え、え? さっきの、冗談……? ちらっとハーレムくんを見ても面白がるような目でコッチを見ている。

 冗談なんだ。そう気づけば、私の頬に一気に熱が走った。


 いやぁああああ! 恥ずかしんですけどぉ!! じ、冗談なんて気付けるわけないのに弄ばれた!!

 それもそうですよね。私にシリアスなんてそんなもの似合うはずもないですよね! なーに勝手にシリアスぶってんだ私ぃ! お前はギャグがお似合いだろうが!


「こっ……の!!」


 黒幕さんといい、ハーレムくんといい。本当に良い性格の奴らしかいないな!!


「ということで、主人公くんだめだ。作者ちゃん相当頑固だからこれはなに言っても動かないと思うよ」


「まぁ、見ててわかる。というか、そこまで説得してなかったよな?」


 そうだそうだ! そもそも最初のあたりから趣旨ずれてたでしょ! なにしに来たんだこの子!

 主人公くんの後ろでやんややんやと騒ぐ私に、ずいっとハーレムくんが顔を近づけてくる。恐怖。


「な、なんですか……」


「きっとこれから苦労するけど頑張ってね」


「え? はぁ……」


 苦労? 苦労ってなんだ。苦労なら今してますが? 主に君の対応に。


「とにかく俺は帰るよ。もう少し話していたいけど、命の危険はないとは言えそろそろ作者ちゃんが危険だからね」


「ハッ……!」


 羞恥心で忘れていた。いま別室にいるのがどういう存在なのかを。殺気は爆発でもしそうなほど膨れ上がっている。


「し、主人公くん〜」


 これを見て本当にまだハーレムがいいって思うの? 私は断固反対だぁ!

 涙目になりそうなのを、大人の矜持でなんとか耐える私は、主人公くんのポケッとした姿を見て涙も引っ込む。


 今日の主人公くんは、やっぱりおかしい。


 ****


「おら反省!! 主人公くん、今度からああいうのやめてよね!!」


「ああ、すまんな作者。まさかあんなシリアス顔で叱るとは思わなかった」


 やめろ。それを蒸し返すのは本当に良くないよ! しかも全然反省の色が見えないんですが!?


「全く。とにかく! どんなやつが来ようとも私は絶対にハーレムなんて認めないんだからね! 絶対!」


「なんでツンデレ節? ……作者、俺ちょっと考えたいことあるから帰るな」


「え? あ、うん」


 なんか、せっかくツンデレ節したのにツッコまれなかった。知ってる? ボケって生物だから早く回収しないと腐るんだよ?

 一人残された私は、パソコンの中に入っていく主人公くんを捨てられた子犬のような目で見送った。だが血も涙もない主人公くんが振り返ることはなかった。あの冷血漢!


「……それにしても」


 私は一人になった部屋で、侍られている女の子たちが帰る直前の言葉を思い出す。


「『貴方も主様と似て、とんだ魔性ですこと』って、なんのことなのか」


 どう考えてもあの美貌とナイスボディのほうがとんだ魔性だ。きっと柊矢なら鼻の下を伸ばすこと間違いなしである。

 想像するのは、ポインに目を奪われ鼻の下を伸ばしデレデレする柊矢の姿。間抜けな表情がなんとも滑稽だ。

 ……なんか思うだけでムカついてきた。どうせ私の胸はぺったんこだよ!


 的はずれなこと思い、パソコンと向き合う。いつの間にか繋がったこの道は、きっといつの間にか閉じられるんだろう。


「その時まで、思い出を作りたいものだね」


 ――なーんて。これっきりで終わらせるわけがない。


 シリアスなんて似合わない私は、そう呟いて一人吹き出し笑った。


 とうとう来たなハーレム御一行様。 【完】

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