第17話「とうとう来たなハーレム御一行様 前半」

 私は非常に困惑していた。目の前の男女の集団に。いや、男女というのは少しおかしいだろう。

 だって、女の子5に対し、男は1である。これは……まさか。


「あの、どちら様でしょうか」


「君が作者さんって子? 可愛いね」


 えっ、人の話聞いてないし噛み合わないんだけど。なにこれ怖い。どこのホラーなの?

 しかし、今のセリフ。そして狙いすますかのような斜め40度に傾げられた首。わざとらしい甘いマスク。こんなにテンプレなやついる? って言いたくなるようなこの男は。


 違う。見ればわかるはずだ! この男の周りにいる女の子たちの恍惚とした表情に、私に対しては殺気を滲ませているこの状況。


「は、ハーレム系主人公……だとっ」


 いつか来るだろうと、きっと相対するだろうと思っていた。そして来てほしくもない日が来てしまったようだ。


 とうとう来たなハーレム御一行様。最高のおもてなしをしてやる!


 ****


 さて、どうしてこうなったのか。それを説明するには少し時を遡る必要がある。


「会って欲しい人がいる? 珍しいね、主人公くんがそこまで言うなんて」


 必死に言い募る主人公くんの気迫に押されながら、私はそう口にする。


「これはこれからの俺たちのために必要なんだ。作者には絶対にあって欲しい」


 なんだか誤解されるような発言だ。未来を誓い合う恋人同士の会話に聞こえる。一体どうしてこの子はこんなふうに育ってしまったのか。

 そんな目で見ていることも知らず、主人公くんはそう言うなりさっさとパソコンな中に入っていってしまった。


 このときから、私は主人公くんの様子がおかしいことに気づくべきだったんだ。

 あの決意した表情(顔ないけれど)。迷いなく、覚悟を決めた足取りがいつもの主人公くんらしくないことを。

 それに気づいていたら、きっとこんな面倒ごとに関わらなくて済んだのにっ!


「えーっと、とりあえずゆっくり話をしたいと思うので、何名かお帰りいただいてもよろしいでしょうか?」


 そもそもこんな寝るためだけの部屋になんで侍らしている女の子たち連れてるんだ。一人で来いや!

 と、そういう思いで言ったセリフだったけど、どうやら私は失敗してしまったらしい。女の子たちの目が、数段鋭くなった。


「はぁ? オバサンなに主に色目使ってんのよ。鏡見ろブスが!」


「その貧相……いえ、慎ましやかな体でよく主様に近づこうとしますね? 少しわきまえたらどうです?」


 とまぁ、こんな事を言いながら前に出てきたのは背の低いながらもすっごいかわいい美少女と、見たこともないようなナイスボディの色気あふれる美女だった。


 なんでいきなり私罵倒されてるの? 私なにか変なこと言いました? やばい、人間不信がさらに進行しそう。助けて柊矢さまぁ!!

 地味に傷つくオバサン呼びに涙目になる私。そんな私にハンカチを差し出したのは他でもない。元凶たるハーレムくんだった。


「泣かないで」


 いや泣いてないんですけど。しかも君がハンカチ渡してきたせいで女の子たちの目がアサシン顔負けの目になってるんですが?

 え、本物のアサシンがいるって? はははは、まじで帰れや。


「大丈夫です。後そこのお嬢さん方、私は健全な話をしたいだけであって色目とかそんな馬鹿なことするわけ無いですよ。心配ならここにいる主人公くんも同席するので」


 全ての元凶はこのハーレムくんだが、最もな原因は主人公くんであることに間違いない。

 とうとう彼は禁じ手に手を出した。そう、実際にハーレムの良さを教えるためにハーレム御一行様を連れてくるという禁じ手を!

 しかしこの島地里奈。これ程度のプレッシャーに負けやしない!


「……まぁ、いいんじゃないかにゃ? ご主人さまがに引っかかるわけでもないし、何かあればヤればいいだからにゃあ」


 猫の獣人の子が大変恐ろしいことを言っている。そもそも君たちの主さんにはなにもしないしするわけないっていうのに!

 そうして渋々、本当に渋々納得した女の子たちが「別室でなら」ということで別室に移動した。

 色々心が傷ついたけど、とりあえずこの刺すような視線はなくなったので良しとしよう。もう疲れた。


「えーっと、とりあえずうちの主人公くんがご迷惑をおかけしまして」


「いやいや、俺も興味あったんだよねぇ。二次元あっち現実こっちの住民の相談に乗っているっていう、不思議な君に」


「ソウデスカ」


 ハーレム系にしては随分軽い男のように思える。最近のハーレム系の物語を見ていないからわからないけど、主人公はもっと苦労しているものではなかった?

 後は重い過去があったり、とにかく何かしらの物を抱えているはずだけど、なんか変な子だな。


 ハーレムくんはとても若い男の子だ。多分高校生とかそこら辺であることに間違いない。

 転生系のハーレムものなのか、日本人にはありえない色彩と整った顔立ち。しかしそこから漂うなにかが、普段ない警戒心を私に抱かせる。


「それでさ、主人公くんに聞いたんだけど作者ちゃんってハーレムが嫌いって、本当?」


「むしろ好きな人なんていないと思いますよ。だってそれ、不誠実を周りに公言しているようなものですよね?」


 自分の思ったよりも低くなった声に驚く。どうやら自分は思った以上にこの状況が嫌いらしい。

 この子の、周りがどう思っているのか。なにを思っているのかわからない、なんてすけて見える疑問にイラッとした。

 本当って、本当に嫌いに決まってる。ナァナァで人の気持ちを弄び、関係が完結してないのに他に行くなんて最低だ。


「手を出したのなら、彼女たちが悲しもうがなんだろうが最後まで責任を持って関係を完結させなくてはいけません。貴方にその覚悟がお有りで?」


 この言葉は、先程から静観している主人公くんにも言っていることだった。

 君に責任が取れるか。人の人生を、しかも何人も背負うという重責を。逃げることなんてできない。有耶無耶なんて許されない。


 答えを待つ私に、ハーレムくんは嗤った。なんとも嫌な笑いで、思わず眉を顰める。


「彼女たちが悲しむ? 責任? あるわけ無いでしょ。最初にそう望んだのは彼女たちなんだから」


「……それが君の答え?」


「作者ちゃんって固いんだね。そんなこと言っていると恋人なんてできないよ?」


「大きなお世話ですよ。それに、人を信用しようとしない女のことなんて誰も好きになりません」


 始めたの彼女たちだとしても、それを受け入れたのは他でもないハーレムくんだ。どちらにも責任があるのに。

 ただ、責任と言ってもただ好きであるだけなら問題はない。片思いで、思っているだけなら。

 けど彼らの距離はとても近かった。それはどちらも受け入れわかっているからにすぎない。というより距離が近すぎである。どことは言わないけどナイスボディのお嬢さんのとある部分がすごい変形するぐらいには近かったよ。


 そして彼の一瞬見えた鼻の伸ばしよう。なんていうか、ハーレムが人気とかどうでもいいから殴りたくなってきた。熊殺しさんでも呼んで来ようかな。


 だが私はそんな思いに駆られたせいで、言わなくてもいい余計なことまでもを口走ってしまった。


「作者ちゃんは人を信用できないのか?」


「あっ」


 やばい、ミスった。絶対に言ってはいけない相手に、自分の弱みを握られてしまったぁ!!

 こんなプレッシャー、黒幕さん以来だ!


「……と、もし私がそういう人間だったらというもしもの話ですよ。もしかして信じてしまいましたか?」


「……ふーん?」


 ダラダラと流れる冷や汗。な、なんかこの子黒幕さんに似ているような気が済んですが、まさかとおもいますけど兄弟ですか?

 いやいやもちつけ私よ。黒幕さんはサスペンスで、ハーレムくんは異世界転生ハーレム系。全く違うジャンルじゃないか。


「あ、作者にいい忘れてたけど。この人、黒幕とやらと同じ作者から生まれたんだってよ。だから若干似てるらしい」


「それを先に言うべきではなくって??」


 どうやら私は、とんでもない男と対峙しているらしい。遅すぎる主人公くんの情報により、私の胃が死ぬ瞬間であった。

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