閑話「作者のことどう思ってる?」
・主人公くんの場合。
俺は偶然の産物として生まれた存在だ。本来、俺のような存在は一つの個性を持つことなんてない。まさに透明人間というものだ。
そんな透明人間が普通でいられるのはまさに、作者がまだなにも考えてないからだ。けど多分本人はそれを知らない。だからこその今があると言ってもいい。
そんな作者だが、アイツはなんとまぁ……いろいろ大変なやつだと思う。
俺は昔の作者を知っている。というより、記憶の中に作者の記憶が紛れてて、それを見たから……のほうが正しい。
そんな大変で壮絶すぎて人間不信な作者が、どうして俺たちと普通に会話できるのかはしらない。が、楽しそうなので突っ込むことは俺はしないけど。
最近は俺のいない間にも他のキャラたちが来ることがあるらしい。本当に作者の命に関わる、みたいなやつは今のところないみたいだが、黒幕とか呼ばれているやつはだめだ。
その黒幕とやら、どうやら作者にちょっかいを掛けているらしい。しかも、作者が嫌いな色の方向で。
なぜそのことを知っているのか? それは俺と作者が親子じみた絆があるからだ。
俺としては作者を母親なんて呼びたくないが、絆があるせいで少しだけ記憶が流れ込んでくる。
その流れた記憶の中に、多分作者が一番見られたくない場面があった。
作者が前に変なこと言って泣いていたのはあれが理由だろう。作者は初なのだ。そして俺はそんなこと知りたくもなかった。
というか黒幕というあの男、一体何を考えているんだ? 悪意をぶつけるもなにも、それは本当に「イケメンだから許される」というものだぞ?
……もしこのことをあの過保護な彼氏面こと柊矢が知ったらなにをするか……うん、考えたくない。
それに、黒幕はただ悪意をぶつけるためだけに作者のところに来ているわけではない気がする。なんとなくだが。
……なんというか、もし仮にそうだとしたら面倒くさい関係になってないか?
「つーか、それこそハーレム……逆ハーでは? ナチュラルにすごいな」
「どうした主人公くん。あ、親発売のポテチ食べる?」
「食べる」
とにかく作者には頑張ってもらいところである。後ハーレムの良さを知ってもらいたいところでもある俺だった。
・厨二病くんの場合。
我の名前は厨二病。ではないのだがここでは厨二病と呼ばれている。
さて、作者のことについてどう思うかだったな。我はあの女と関わってそこまで時間が経っているわけではないが、作者はいいやつだと思うぞ。
なにせなんやかんや言っておいて面倒見が良い。それにいつもお菓子を用意してくれるところも加点だろうな。
悪いところと言えば突然鬼になって我をパシるところか。あのときの「もう遅い」系? とやらのときも大変だった。
だがやはり、我がたとえこういうキャラでなくとも心地良い関係のままでいてくれる。そんな作者が、まぁ……す、すすす、好きだと……思ってはいる。うん。
ゆ、友情としての話だからな! 作者と同じぐらい、主人公も友人として! 好きなのだからな! 勘違いするでないぞ!
って、まあそんなのはどうでもいい! そんなことよりも、その作者が今大変なのだ!
最近特に気を詰めているのか、「黒幕さん」とやらが恐ろしいようだ。
どうやら口に言うのも憚るようなことをされたらしい。まさか、恐喝なのか?
我が一度だけ黒幕系キャラで登場したときの作者のあの表情……苦虫をこれでもかと噛み潰したような顔をしていた。なんというか、あまり可愛くない顔だ。
一体どういうことをされたのかはしらないが、作者は黒幕さんとやらのことはあまりなにも言わないのに、顔がものすごい語っている。
一度だけ、その黒幕さんとやらをどう思っているのか興味本位で聞いたことがある。
その時、
「え、黒幕さんをどう思ってるって? うーん、そうだなぁ。迷惑な人かな。二度と来ないでほしいぐらいには」
と、爽やかな笑みで言っていた。まさか作者からこんな言葉を聞くとは思わなかった、黒幕とやら一体何をしたんだ。
作者はわかりやすいようで、本質がよく見えない女だと我は思う。単純でいるようで複雑……のように見せかけて単純。みたいな感じだ。
多分だが、真の意味で作者という女を理解しているのは主人公であるような気がする。なんやかんや、主人公は作者をとても気にかけているからな。
「仲がいいな、お前たち」
「ほら聞いたかね主人公くん! 私達仲良しだぞ!」
「厨二病。一度眼科行くことをおすすめしておくぜ。あと脳の医者にもな」
「それは一体どういう意味だ!!」
「私にも失礼だぞそれ!!」
作者は優しく、面白い。主人公は少しドライだが、いい友人だ。
だから我は少しでも長く、この日常が続くことを願っているのだ。
・黒幕さんの場合。
何もかもが自分の手の平の上。僕は物語の中で、そういう役回りだった。
そしてそれは僕の一個性として固定し、誰もが信用できないほど僕の性根は捻じ曲がっていると思う。
そんなつまらない、刺激のない退屈な僕の予定調和は、作者、里奈という摩訶不思議な存在によって破壊された。
里奈は僕にあうたびに遠慮がなくなってきている。たしかに僕は里奈を殺せないけど、悪意をぶつけれるって言ったのに綺麗サッパリわすれているのだ。
里奈は本当に意味で僕を警戒していない。興味がないとも取れるけど、異常なほど近くなったら猫のように威嚇してくるんだ、彼女は。
それが面白くって、僕は暇つぶしとして彼女につきまとった。多分、それが失敗だったんだろうけど。
「ねぇ、里奈。僕が本気で君をほしいって言ったらどうする?」
「とうとう命まで狙ってきやがりましたね。よろしい、ならば戦争だ」
「君って本当に鈍感なのか天然なのか、それ本気で言ってるのかい?」
「じゃあ一体どういう意味と?! はっ! まさかとうとう神の地位を手に入れるための準備が整って……っ」
「もう一回体に教えてあげないとだめみたいだね。こっちにおいでよ里奈」
「絶対に断る! それ以上近づいたら蹴りますからね! 黒幕さんの黒幕さんに!」
本気の顔で蹴りの構えをする彼女に、僕は本当の笑みを浮かべる。
神の地位とかなんとか。そんな物僕にはいらない。だっていつでも手に入るようなもの、本気でほしいなんて思うわけないじゃないか。
もしこれが運命だとしたのなら、きっと僕は君に執着するんだろうね。
「君にできるの? この僕に」
「クッ! ならばここで自決をっっ!」
「やめてね」
どこかずれている里奈は、きっと人からの好意に気づくことができない。彼女は人を信用できないから。
でも、それで諦めるようなら僕は端から里奈に興味なんて持たないだろう。諦めるには、遅すぎた。
先に僕を僕じゃなくさせたのは君の無防備さなんだから。
「責任、取ってくれるよね?」
君を手に入れるのは、僕だ。
・作者の友人、柊矢の場合。
正直に言えば、一目惚れだった。
高校の時、クラスで始めて一緒になった里奈に俺は惚れてしまった。どこが好きと言われるとわからないけど、感覚的に好きだと思ったんだ。
それから頑張って、血も涙もにじみ様な努力でなんとか友人の地位にまで登れた。ここまで来るのに一年も掛るなんて思いもしなかったけれど。
それでも諦めなかったのは、彼女が時々浮かべる笑顔のせいだ。ふとした瞬間に出てくるあの笑顔が俺を離そうとしなかった。
惚れたほうが負けとは、本当のことだったんだ。離れるには遅すぎたし、諦めることなんて今でもできない。
だから里奈が今、変なことに巻き込まれて困っているのなら俺は本気で助けよう。誰よりも一番に助けに行く。
好きな女のためなら、どこにだって行く。
「だからといってこれはない」
「え!? なにか言った柊矢! あっ、今なんか黒いの見えた! 黒いの見えちゃいましたよ柊矢さん! 後はお願いします!」
そう言って部屋から出ていく里奈に、俺はため息しか出ない。どこにだって助けにいくとは思っていたけれど、まさか虫ごときでヘルプを使われるとは思わなかった。
便利屋みたいな、というより本当に便利屋なのだろう。こんなにも悲しくなってくるなんて思いもよらなかったけれど。
「はぁー、負けちまったんだから仕方ねぇよな」
惚れ込んだほうが負けなのだ、いつだって。だからこそ俺は、黒い虫を退治しにその思いに蓋をした。
里奈が好きだ。その言葉は何度も何度も出かかって、そして何度も何度も何度も飲み込んできた。
関係が壊れるのが嫌だと、いつも逃げている俺のせいだがそれでも気づかれないのは辛いものだ。
だけど、
「やっぱり信用できるのは柊矢だけだね。いつもありがとう」
たったこれだけの言葉で俺を元気にさせる里奈。俺の単純さを笑う。
今はこれでいい。けど、もし時が来たらそのときはなにも隠さずに自分の気持ちを言おう。
「そうか。……俺も、ありがとうな」
俺は絶対に、里奈を幸せにするから。だから、早く俺の気持ちに気づいて里奈。
****
おまけ、雪くん。
「雪くんは作者のこと大好きですか?」
「キャン!」
「私も愛してまーす! もうビックラブよ雪くん!」
「キューン! キャンキャン!」
「「……」」
「俺、鈍感なやつ落とすのだけは嫌だわ」
「? なにを言っているのだ主人公」
「いや、男はつらいって話だ」
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