第6話「厨二病男子はこじらせ中!」
「これ、作者の中学校のアルバムか?」
なんてことを呑気な声で言うのはいつの間にか来た主人公くんだ。
主人公くんはどっから出したのか、私の中学生のときのアルバムを開こうとしていた。
そう、中学校のアルバムを。
待て待て待て。それは開かないで待ってーー!
「うわっ、作者病気にかかってたのかよ」
私の抵抗をひらりと躱し主人公くんは引いたような声を出した。開いたページにあった写真は、包帯を巻いてカッコつけた私の姿だった。
うわぁぁ!! だから見られたくなかったのに!
「いやまぁ、この時期ならしょうがねぇよ。その……どんまい」
「やめて! そんな目で私を見ないで!」
憐れむような目が痛い! やめて私を見ないで!
永遠の黒歴史事中学校のアルバム。いつか処分しようと思っていたのに忘れてそのままなんて、私のバカ!
中学校の私は正直言えば、主人公くんの言う通り病気にかかっていた。
なんていうか、自分が最強になることを夢見たりそう口走ったり、後は多重人格だということを言いふらしたり。
あ、思い出しただけでも古傷が……っ!
「主人公くん。私今日はもう休む」
「え、ゲームしないのかよ。せっかく来たのに」
「今そんな事するほどメンタル強くない。それにこうなったの主人公くんのせいだからね?」
なんで他人事みたいなことを言っているのこの子は。私の心は繊細だってこの間言ったばかりだというのに。まだ説明書読んでないんだね。
とりあえずもう今日はブルーなのでおふとんに入って寝てからあのアルバムを消去してしまおう。
そうしてベットに潜り込む私に主人公くんがぶーたれ、そして仕方ないなと言いながらパソコンの方に向かっていった。
「ん? あっ」
主人公くんが足を止めて驚くような声を出す。その瞬間パソコンが眩い光を発して私も主人公くんも目を瞑った。トンという軽い足音が一つ聞こえ、私はなんとか目を開ける。
映ったのは黒。真っ黒い羽が部屋を舞い、赤くところどころボロボロになったマフラーが、黒の中に映える。
「ククク、貴様か。我の世界の住民と交流を交わし、そして鮮やかな手腕で問題すべてを解決するという、作者というのは」
光が収まり見えたのは、なんとも中学校の頃の私を思い出させるような痛々しい格好をした、違和感あるオッドアイの少年だった。
ああ、なるほど? 黒歴史から私の方に来た訳と……。泣いていいかな?
ふて寝まであと五秒。
****
「世の中どうして過去ばかりが私を追ってくるんだ。今日はブルーだ寝よう」
本日の営業は終了しました。またのお越しをお待ちしておりません。
「って、寝るな貴様ァァアア!!」
「ヌ!?」
おふとんを取り上げられ、私はムッとしながら厨二病くんに視線を向ける。けどすぐに視線を戻した。
見なければよかった。なにあれ恐ぁい。
「貴様ぁ! せっかくこの我が来たというのにどういう了見だ! それに知らぬ男がいて寝ようとするな危機管理ゼロか!」
なんだろう、すごく真面目なこと言われてる。お母さんかな?
イヤダイヤダ私もう起きたくない。だってさっきなんか嫌なこと聞いたんもん。なんか便利屋みたいなこと聞いたもん。
なにさ? 鮮やかな手腕で問題を解決するって。ただ向こうが勝手に揉めて解決していくだけだよ。ストーカーにストーカーを押し付けただけだよなにもしてないよ。
「フン、そんな誤魔化しこの我に通用するとでも? 我は領界の番人ソ」
「あ、そういうのいいんで。長くなるでしょ? 私は作者だからよろしく」
「……」
シュンと悲しげな顔でこっちを見てくる厨二病くん。哀愁漂う姿は見ていられなかった。ココロイタイ。
「作者、無理やりぶった切ったせいであからさまに落ち込んでいるぞ。どうすんだ」
「いや、だってさ。私多分自己紹介とか聞いたら心傷ついてなくと思うんだ。今でさえ古傷が痛むんだから」
お願いだからそんなボロボロのマフラーとかしないで。無駄な包帯使わないで。羽とか撒き散らさないで、後で掃除しろよお前!
主人公くんの責めてくるような視線を無視して私はベットに顔を埋める。もうなんでも屋でもいいからさ、とりあえず今日は帰って欲しいんだ。今日はなにもやる気が起きないんです。
「こいつ本当にめんどくさいな。……そうだ、おい厨二病。これを見ろ」
「誰が厨二病などというものに罹って……ん?」
なんか、静かになったな。聞こえてきたものといえば、ペラペラとなにかをめくる音と、厨二病くんの小さな声だ。
……嫌な予感がする。赤ん坊とか小さい子供が静かにしているときって、大抵ろくでもないことしてるよね。
ちらっと、後ろでコソコソしている男? 共を見る。そして私はベットから起き上がった。
「オィいいいいい!! なに見せてんだそれー!?」
「なにって、作者の中学校のアルバムだが?」
「なるほど……貴様、いや貴殿も同じこちらを生きるものか……我には及ばぬようだがな」
うるせぇよこの厨二病! というかやっぱり自分も厨二病だって認めてるじゃんそれ!
「もうわかった! わかりましたから話聞くから、とりあえずそれしまってくんない!?」
今日は本当に厄日だ!
****
「それでなんの相談できたの厨二病くん。厨二病卒業したいとか? でも君それが売りならせめて仕事のときはそのまんまに」
「誰がそんな事を相談するといった! それにこれは厨二病ではない! 我が宿命であり、アイデンティティだ!」
イタタタ、痛い。痛いよこの子。私の古傷にしみるよう。しかもアイデンティティって言っちゃったよこの子!
しかしどうやら厨二病くんは厨二病をやめたいとかではないようだ。てっきり私はあまりにも厨二病をやりすぎて辞める機会を失ったとばかり。
辞め時を失うと、きついよね……。
「その憐れむような目をやめろ……。はぁ、貴様と話していると疲れがたまる。それで、相談というか話なのだが」
といって目頭を揉む彼から苦労人の匂いがプンプンと。なるほど、多分根は真面目なこのなのだろう。そういう子ほどこういう道に走ったりするよね、知ってる。
「経験談か?」
「そうなんだよね、私もあのとき……ってちっがーう!」
「貴様ら我の話を聞くきあるのか!?」
ゴンと殴られて黙る私と主人公くん。やっぱりこの人お母さんだお母さん。よく見れば整っているけど優しい顔立ちだし。お母さんに間違いない。
そんなやつが話しねぇ……。そんなのは大抵一つだけ。厨二病をやっている者にとって一番大きな障害。それは。
「友だちができないってところかな? 違う?」
ビクぅ! と厨二病くんの肩が揺れる。ダラダラと汗をかきながら違うと言ってたが、誰の目で見てもそれは明らかだ。
「まじかよ。そのためだけにここに来たのか? 言っておくけど作者だって友達は一人だけだぞ? むしろ友達の作り方なんて作者の方が知りたモガモガ」
「なーんで知っているのとかそういうのはどうでもいいとして黙ってろや!!」
あと私は友達をつくりたいわけじゃないから。作らなくても平気だから。唯一の友達ができて親と一緒に三日三晩パーティーしたとかないから!!!
私の話を聞いて主人公くんが「やっぱり友達欲しいんじゃねぇか」というが、別にそういうわけじゃないし! 話聞かないなぁこの子は!
そうギャアギャア騒ぐバカ丸出しの私達を見て、厨二病くんが言う。
「そうか、貴殿も同じような思いを……」
ぐっと、なにかをこらえるような顔をしてうつむく厨二病くん。その顔はどこか泣きそうな幼い子供のようで、我慢している顔だった。
「我……僕も、ずっと友だちができなくって。だから友達をあの世界で作ろうって思ったけど、生まれたときからこの厨二病設定で……本当は、普通にして生きたかったけど、みんなの前で変えることができなかった」
やっぱり、彼は自分を変えたかったみたい。けどさっきも言ったとおり変えることは今更できなくって、でもこのままじゃ友だちができない。
そうして溜め込んで溜め込んで、ここに来てしまった。少しでもすがりつく相手が欲しかった。
……わかるなぁ、その気持ち。私も、そうしてアイツと友だちになったんだから。
人間不信だった私を、面倒くさい性格で色んな人からも見捨てられて、唯一信じられる家族以外に素顔を見せなくなった私を、アイツはずっと諦めずにいてくれた。
「少しでも、本音で話せる相手がほしい。それって、ないものねだりだろうか?」
涙目になって歪に笑う厨二病くん。カラコンは取れて元の黒い瞳が見える。
優しい黒だ。私はさっきのカラコンよりも、そっちの色のほうが好きだ。そう思ってみていれば、主人公くんが立ち上がる。
「ないものねだりかもしれんし、そうでもないかもしれない。人の願いっていうのはいつだってないものねだりだし、いつだってすぐそばにあるものに気づきやしないんだよ」
「え?」
主人公くんが、多分真面目な顔で語っている。顔見えないのにイケメンに見えてきた。これがホントの内面美人。
「お前もだ、厨二病。さっき自分で言ってたじゃねぇか。同類だって。なら、元同類と友だちになるってそんなに難しいことか?」
トンと、肩に手をおいた主人公くんが、多分笑って言った気がした。にやりと、あくどい笑みとか意地悪な笑みじゃなくて、太陽のような笑顔で。
「良かったな。初友二人、できたじゃねぇか。俺と作者。ふたりもよ」
「!」
目を見開き、顔のない主人公くんと、なにも聞いてないんだけどなんとか笑ってごまかす私をみる厨二病くん。
いやいいんだよ? 友だちになるのはさ。ただ誰だろう。この子をこんなイケメンに育てたのは。私か。
子の成長を間近で見た親の気持ちってこんな感じかな? 寂しいような、嬉しいようななんとも言えない気持ちだ。
ただ、悪くはないかな。へへ。
「気持ち悪い笑みうかべんなよ作者。後誰が子供だ」
「痛っ?! 叩かないでよ!」
「馬鹿な頭も叩けば治るかと思ったけどやっぱりだめだわ。治らんわこの頭。残念がすぎる」
「最近思うんだけど遠慮がなくなってきていると思わないか我が子よ! 怒るよ? 作者まじで怒ったら君のビジュアルがハダカネズミになるからね!!」
「やったらまじで噛みつきに行くからなアホ作者!」
上等だかかってこいや! この私の65もある必殺技をすべて叩きつけてやろう!
「――アッハハハハ! ほんと、変なやつだな!」
取っ組み合いをしている私達を、厨二病くんが子供のような顔で笑う。付き物が取れでもしたのか、とても晴れやかな顔だ。
「ふぅ……いいだろう! お前らだけでは不安だからな。僕も一緒にいてやろう。今日からその、と、と、友達だからな!」
「上から目線だわこの子。しかも厨二病もしっかり入っているじゃないのこの子。恥ずかしそうよこの子」
「作者マジ気持ちわりぃ。……ま、じゃあよろしくな厨二病」
「うむ!」
「気持ち悪いって言ったの謝れ。作者の心はガラス細工のようにせんさ――」
この日から、こじらせ厨二病男子がよく部屋に来るようになった。ついでに私のお菓子のストックの減りが早くなった。
いい加減お金取ってやろうかと思う、今日このごろだ。
厨二病男子はこじらせ中! 【完】
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