第4話「悪役令嬢は熱血をお望み 後編」

 な、何故ここに悪役令嬢ちゃんのお相手(仮)がココに……っ?! そしてきっと何か勘違いされている!


「ねぇ、聞いてる? 彼女を泣かしたのは君だって聞いてんだけど?」


 や、ヤバい。この子色々ヤバい。

 なにがやばいとかそういうのは詳しく言えないけどヤバい。特に顔は笑っているのに目が完全にイッているところがヤバい。

 そして怯えている私にしびれでも切らしたのか肩におかれた手に力が入ってきている。


やばい。


「ねぇ、聞いてるの?」


「ヒェ……」


 ガタガタガタガタ。ヤバいです助けて。


「お、おい。ちょっと待てよ。お前何か勘違いしてないか?」


 まともに喋れない私を助けてくれたのは息子、もとい主人公くんだった。息子〜〜〜〜!!


「へぇ、君ってまだ未完成のキャラでしょ? 一体何が勘違いだって?」


「そいつが泣いている理由は作者のせいじゃないっていうところだ」


「簡単には信じられないな。じゃあなんで彼女が泣いているのかな?」


 おっと、これは本当のことを言うべきなのかなガタガタ。でも言ったらなんか傷つきそうな顔しているような気がするガタガタ。

 駄目。体が震えて死んじゃう。肩痛い。


 主人公くん。取り敢えずなんかいい感じに誤魔化しといて! そして置かれている手をどかして!


「お前のせいだ」


「は?」


 は?


「お前のせいで泣いているんだよ。そこの子は」


「……私の、せい?」


 な、ななな、何言っちゃってんのこの子はーー!? なんで本当のこと言っちゃうの!?

 あ、待って。肩に力を入れないでくださイダダダ! ヤバい、肩もがれる!!

 見上げれば推定お相手さんの表情がログアウトしていた。戻ってきて〜! そして肩の手どかして下さーい!!


 どうやら彼は自分が彼女を泣かしている理由と自覚がないようだ。何だか子供のような幼い表情で驚き目を泳がしている。

 そして私の肩からミシって嫌な音が聞こえた。いやー! 誰か助けてー!!


「私が、私が彼女を……? どうして?」


「ちゃんと自分の気持ち伝えてないからだろ? 遠回しに言ったって、こんなジャジャ馬姫みたいなやつに伝わるわけ無いだろ」


「だ、誰がジャジャ馬姫ですって!?」


「お前だよ」


 君だよ。誰が何と言おうとも君だよ。


「……彼女は、ジャジャ馬姫なんかじゃない。しっかりと自分の意志で行動できる子なんだ。それがちょっと、暴走気味になるだけで……」


「それがジャジャ馬だろ」


 そうだね、それがジャジャ馬だ。しかも褒めてないね。微妙に馬鹿にしているね。


「とにかくさ、お前ら話したほうがいいって。それと作者が死にそうだから肩から離してやれ」


 そう言って主人公くんが私の肩に置かれた手をどかしてくれる。ありがとう主人公くん。でもできればもう少し早く言ってほしかった。

 肩から先が動かない。


「……そうだね。ねぇ、私と話をしてくれませんか?」


 手を差し伸べ、まるで物語の王子様のように片膝つくキラキラした青年。

 しかし悪役ちゃんはそれを見ているだけで手を伸ばすこと無く、拳を握って震えていた。


「…………話し合うことなんて、今更ありませんわよ。だって、いつもいつもワタクシには何も言わずに、何でもかんでも貴方は……!」


「……」


「ワタクシが嫌いなら、そう言えばいいじゃないですか!! ワタクシと少し仲良くなった殿方に手を回してまで、ワタクシの幸せを邪魔するぐらいなら!」


 なるほど、彼女はそう解釈していたのね。まぁ、気持ちも伝えられてないのに邪魔されたらそういう解釈にもなるのかも知れないね。


 ところで水を差すようだけどなんでここで話すの?


「そう言ってくれれば、物語の場以外で貴方とは顔を合わせませんわ。……嫌いな女の顔なんて、貴方は」


「違う! 私は君が、君が好きなんだ! 君が好きだから、私は君の寵愛を受ける男に嫉妬してしまったんだ! 私は、いつだって君のそばにいたい!!!」


「っ……!」


「君に何度もこの想いをいいたかった。それでも、君が笑うだけで恥ずかしくて……言えなかった。物語だけじゃ、それだけじゃ私は満足できない。私は君を、愛しているから!!」


 愛している。その言葉を聞いた悪役ちゃんは目を見開いて首を振った。その目には、透明なしずくが見えていた。


「そんなっ、嘘……! だって、いつもワタクシを……」


「嘘じゃない。君に私の思いを否定されるのだけは……嫌だ。……この想いだけは、私たちの作者が決めた想いじゃない! 私の想いだ!!」


「! ……ワタクシは、本当は貴方のことが好きだった。でも、嫌われるのが怖くって」


 悪役ちゃんの手を引くお相手さんは、そのまますっぽりと隠すように抱きしめている。離れないように、誰よりも近くに。


「愛している。だから、私のそばにいてくれませんか? 私に、貴女に触れる許可をくださいませんか?」


「うっ、ううぅぅぅ………………はい」


 そして二人は花が咲くように笑い、そして口づけをした。


 ……あの、もう帰ってもらっていいですか。そして私の部屋でイチャつくんじゃねぇ!!!


 ****


「あの、ご迷惑をおかけしましたわ」


「彼女が世話になったね。本当にありがとう」


「もういいから帰ってもらっていいですか? それと人の部屋でイチャつくな」


 息子と一緒に恋愛ドラマを見るような気まずさが出たじゃないか。一体どうしてくれる? 後べったべったくっ付くなコロコロしちゃうぞ。


 まさにエンダーイヤーと叫びたくなるような終わり方だ。巻き込まれた私は殴りたくなる。


 取り敢えずこれでハッピーエンド。正直肩動かないし色々思うところがあるけどこれで良しとしよう心広いので。お幸せに。


 そうして2人はパソコンに吸い込まれるように消えていった。最後まで、ありがとうをいいながら。うん、もう来ないで。


「はぁぁぁ……。疲れた……」


「お疲れ作者」


「いやほんと。もう二度だってゴメンだね。こんな事」


 殺されかけたし、もう二度も三度も起きてほしくない。私は平和が好きなんだ。


「でも良かったじゃないか。作者のおかげで2人のわか溜まりは消えたんだから」


「やったのは主人公くんだよ。よくやったじゃないか」


「でも、あの悪役令嬢の子が熱血が好きな理由がちょっと分かった気がする。単純に、素直に好きって言ってもらいたかったんだな」


「ほー。ま、これにて一件落着!」


「そうだな。……ところで作者は、ああいう男はどう思う?」


 うん? 珍しいね主人公くんがそんな事聞くなんて。けど聞かれたなら考えてみるか。


 ……腹黒で、裏で人を始末して、そしてなんか人を二三人やってそうな影のあるイケメン。ふむ。


「ぜっっったいにゴメンだね。怖いし、手に負えないから」


「だよな。ああいうタイプのいるハーレム俺はヤダ」


「安心して。そもそも書かないから」


 ニヤッと笑って私はまたパソコンに文字を書き始める。後ろでブーブーと主人公くんが騒いでいた。

 ああ、ホント、疲れたなぁ。



悪役令嬢は熱血をお望み【完】

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