後編

 声を掛けられた2人は大層驚いたみたいだ。

 パーティーに入れて欲しいと言われたのは初めてのことだという。

 しかも魔法士にだ。


 2人はいつも迷宮の1階層で安全重視で活動していたのだが、私が加入したことで下の階層に潜ることになった。

 盾役は剣士の男性が担い、私が火魔法で魔物を倒し、弓士の彼女が両者のフォローをする形だ。

 盾を持った男性は本職と遜色のない動きを見せていた。

 魔物を上手く捌き、的確に攻撃を指示する姿は有能なリーダー足り得る資質が伺える。


 彼女のほうは弓の腕は普通だが、状況に応じて弓を捨て剣を手に近接戦をこなしている。

 男性が複数に囲まれた時には前衛で盾代わりに剣で攻撃を受けていた。

 さすがに危ないので男性が注意するが、女性は嬉しそうに注意を受けていた。


 女性が男性のことを好きなのはすぐにわかった。

 私へのフォローもちゃんとしてるのだけど、とにかくずっと男性のことを気にしているのだ。

 食事休憩の時も甲斐甲斐しく男性の世話をする。

 こんなにわかり易いアピールもないと思うが、男性の反応は今ひとつだ。

 別に煙たがってる訳ではないし女性に感謝もしてるのだが、恋愛感情はなさそうに思える。


 探索終了後にこれからもパーティーを組まないかと2人に提案してみた。

 期待通り居心地が良かったのだ。

 彼女の恋の行方も気になるし。

 2人からは歓迎を受けた。

 普段の何倍も稼げたので逆に提案したいぐらいだったという。

 彼女が嫌がることを心配したのだがそんなことはなさそうな感じだ。

 普通好きな男性の傍に女性が増えるのは嫌に思うはずなんだけど……


 剣士の男性が正式なパーティーリーダーに就任した。


 私は2人が泊っている宿に移り、男性とは一定の距離を保ちつつ女性と仲良くなっていった。

 ある時、女性が増えたことが気にならないのか聞いてみたところ、今は男性リーダーの傍にいられるだけで幸せなのだと言われた。

 弓士である自分はいずれこのパーティーから出て行かないといけないから、とも。

 冒険者としては傍にいられなくとも女性として男性リーダーに寄り添うことはできるのではないかと言ってみたのだが、曖昧な表情をされるだけだった。




 3人で探索するようになって3週間が経過した頃、リーダーが盾職の男性をスカウトしてきた。

 盾を扱う技術はリーダーに劣るものの、さすが本職だけあって基本的な防御力が高くパーティーの安定性が増した。

 リーダーが盾職をフォローしつつも火力を担えるようになったのも大きかった。


 後は回復士さえ入れば完璧なパーティー構成になるのだが、現在このギトの街ではパーティーに誘えるフリーの回復士はいないとのことだ。

 そこでリーダーから中級中位の迷宮がある北東のラザの街に行かないかと提案された。

 中級下位の迷宮に物足りなさを感じていたのは私だけではなかったようで、誰からも異論がなく街を移ることになった。




 ラザの街の迷宮を探索するようになって10日ほど経った頃、リーダーが回復士の女性を連れてきた。

 パーティーメンバーが揃ったことで中級上位の迷宮に移ることになった。

 ラザの街から東にあるコムドの街に移動する。

 この頃から弓士の彼女の表情に陰りが見え始めた。




 中級上位の迷宮では3ヶ月ほど経験を積んだ。

 そしていよいよ上級下位の迷宮を擁する東のケイドラの街への移動が決まった。

 ケイドラの街は王都からすぐ西のとこにある湖が近くにある大都市だ。


 上級下位の迷宮はそれまでの中級迷宮とは難易度が全然違った。

 魔物の強さが違うのだ。

 1階層から苦戦の連続だった。

 慣れれば経験を積めばなんとかなるというレベルではない。

 誰もが胸の中で感じていた。

 このパーティーでは上級下位の迷宮の低層階が限界だと。


 いくら上級迷宮でも下位の低層階では実績にはならない。

 下位迷宮であればせめて深く潜らなければ評価されないのだ。


 上級下位に挑戦するようになってあからさまに盾職の男が弓士の彼女に悪態をつき始めた。

 ひょっとしたら私の知らないところで以前からそうだったのかもしれない。

 盾職の男と付き合い始めた回復士の女性も男に同調するようになった。


「お荷物さえいなければもっと深く潜れるんじゃないか?」


「寄生してるだけで少しは役に立とうと思わないのかよ」


 彼女は俯いて耐えるだけだ。

 私もどう助け舟を出していいかわからなかった。


 彼女が必死に頑張っているのは確かだ。

 弓の効かない魔物には積極的に前に出て剣を振るうのは最初の頃から変わらない。

 格段に強くなった魔物相手に弓士が近接戦を仕掛けるのがどれだけ危険で恐ろしいことか。

 事実このパーティーで最も傷を負うのは彼女だ。

 回復魔法でも消えない傷跡がいくつもその体に刻まれている。


 戦力的な問題はどうにもならないことだし、彼女の安全も考慮して中級に戻る提案を宿でリーダーにしに行った時だ。

 部屋のドアのところでリーダーと彼女は何やら口論していた。

 やがて彼女は泣き出して自分の部屋に戻って行った。

 リーダーも溜息をして部屋に入った。


 まさか彼女をパーティーから追放したんじゃ……

 確かに彼女の代わりに腕の良い近接攻撃系を入れれば簡単にパーティーの戦力はアップする。

 魔法士でもスカウトできるなら更なる飛躍が可能だろう。

 しかしそれでも……


 結局リーダーのとこには行けずに、逆にリーダーからメンバー全員に朝一番で部屋に来るよう通達があった。


 そろそろ潮時なのかもしれない。

 私は懐にしまった手紙を触りながらパーティーを辞める決意をする。

 手紙の送り主は妹からだ。

 近く魔法学院を卒業するので故郷に戻り冒険者になると書かれていた。

 『私の幼馴染みのルスト』とパーティーを組み色々教えてもらいたいとも書いてあった。

 妹は年下らしく可愛らしさをアピールするタイプだが存外強かだ。

 ルストの魅力に気付いて速攻で手を出しかねない。


 そう。先ほどリーダーが彼女を追放する様子が半年前にルストから解散を告げられた私の姿と重なって急にわかってしまったのだ。

 私が求めていた居心地の良さはルストと組んでいた時に感じていたことだと。

 そしてリーダーの男性の雰囲気やパーティー内における役割・配慮の仕方などルストと似てるのだと。



 翌朝部屋に集合した私達にリーダーが宣言した。


「この時を持ってこのパーティーを解散する!!」


「「「は?」」」


「!?」


「これで俺が如何に本気かわかってくれたと思う。改めて俺と結婚して欲しい」


「でも……私なんて……」


「思えば2人でペアを組んでいた時が1番楽しかった。変な言い方だけどこれからも君に俺の世話を焼いて欲しいんだ」


「はい……はい……」


 泣いてる彼女をリーダー……いえ元リーダーが優しく抱き締めている。

 彼女のほうが大きいので絵面としては微妙だがすごく幸せそうだ。

 私が2人に拍手したら、盾職の男も渋々な感じで拍手し始めた。

 回復士の女性はノー天気に拍手している。




 3人で部屋を出たあと(お邪魔しちゃ悪いしね)盾職の男が高らかに宣言した。


「俺が新たなパーティーリーダーになる!! 残りのメンバーも優秀なのを揃えるから期待してくれ」


「そう。頑張ってね。私はこのまま抜けるけど」


「「え?」」


「なんでだよ!! せっかくお荷物共が抜けてこれからだろうに」


「このパーティーの中心はあの2人だったわ。私達は戦力を増やす為の駒でしかなかったの。その程度の観察眼でリーダーをやるつもりならよほど慎重に行動しないと早死にするわよ」


 私にとってはもうどうでもいい存在とはいえ、同じ釜の飯を食べた仲間である。

 精一杯の忠告をして宿を引き払った。


 私にはもう1度共に戦わなければならない男性がいるのだ。








 数年後、国中に名を馳せる氷炎の姉妹を侍らせた冴えない男性が中級上位迷宮で活動していた。

 上級迷宮に挑戦しているパーティーがどんな好条件を出しても氷炎の姉妹は冴えない男性の傍を離れることはなく、男性を巡って絶えず姉妹で言い争っていた。

 そんな中でも炎の姉は幸せそうに微笑んでいたと伝えられている……



                              完

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女魔法士が幼馴染みに組んでいたペアを解消すると告げられて 常盤今 @tokiwakon

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