女魔法士が幼馴染みに組んでいたペアを解消すると告げられて
常盤今
前編
「僕とのコンビは解消しよう」
「!?」
私の名前はミリオラ。魔法士で18歳。
たった今幼馴染みのルストからパーティー解散を告げられたところだ。
「どうしてなのよ!!」
「今日だって私たくさん活躍したじゃない!!」
そう。さっきまでこの街の迷宮に潜っていたのだ。
四方を山に囲まれている小さなこの街には初級の中位ランクの迷宮がある。
10階層の迷宮でボスモンスターはいない。
ちなみに、初級の下位は5階層で上位は15階層である。
初級では上位の15階層にだけボスモンスターが出現する。
今日も私は得意の火魔法で10階層の魔物を倒しまくった。
攻撃するのは私。
その他のフォロー全般が彼ときっちり役割分担してきた。
初級の迷宮の魔物は私の魔法の敵ではない。
彼は剣士だ。
色々な役割をこなせる器用さはあるものの剣の腕自体は普通だ。
私がいなければパーティーに入るのにも苦労するはずなのだが……
「君とは実力差があり過ぎるんだ。現状だと僕は君の足を引っ張ってる重荷にしかなっていない」
「その分雑事は全部やってもらっているじゃない。お互い様よ!!」
「君なら中級の迷宮で腕を磨けば上級にだって挑戦できる。僕なんかに付き合ってないで上を目指して欲しい」
上級の迷宮に挑戦できるような冒険者になれば出身地であるこの街やギルドの実績となる。
大変名誉なことではあるのだけど……
その後彼と口論するような形になって結局パーティーを解散して私は街を出ることになった。
向かったのは東にあるギトの街で中級下位の迷宮がある。
今までいた街の3倍ぐらいの規模の街だ。
ギトの街はこのクレスト王国の西半分の丁度中間に位置する。
どういう理由なのかはわからないが、私の出身地の街を含めてギトの街から西は初級迷宮しかない。
そしてギトの街から東は中央部にある王都まで中級と上級迷宮だけだ。
王国西部に住む者が冒険者を志す場合はまず西の街に行く。
初級迷宮を卒業し中級を目指す者は東のギトの街へ行くのが既定路線となっていた。
ギトの街に着いた私は毎日違うパーティーに入って迷宮に潜った。
自分に合うパーティーがなかったからだ。
魔法士は人気職なのでパーティーを自由に選べる。
魔力は誰にでもあるものなのだが、実戦レベルで使える程の魔力があるのは極一部の者だけだ。
中級以上の迷宮に潜るには魔法士と回復士は必須なので募集が絶えることはない。
次に人気なのは盾職だ。
前衛として敵の攻撃を受ける役割である盾職は経験と技術が何より求められる。
盾職次第でパーティーの強弱が決まるとまで言われている職業だ。
高い技術を持つ者は魔法士や回復士よりもパーティーに入れるのが難しい。
人気職に分類される最後の職は斥候職だ。
トラップの多いタイプの迷宮には必須だし索敵に警戒と役に立つ機会が多い。
剣・槍・斧・棍棒といった近接攻撃系の職業は不人気だ。
これらの職業はただでさえ人数が多い上に迷宮探索に必須な何かを持ち合わせてはいない。
迷宮探索のパーティーは5人が定員なのだが(迷宮の各階層と入り口を行き来できる転移門を1度に利用できるのが最大5名なので)、盾職・魔法士・回復士の3名は確定で斥候職を入れるかどうかで残り1~2名の枠となる。
全てのパーティーに近接攻撃系の枠がある訳ではなく、盾職2人とか魔法士2人といった特殊な編成をするパーティーも少なくない。
彼らの中には少しでもパーティーに入りやすいように盾を持つ者も多い。
本職には及ばないものの、予備として盾の役割を担える者が控えているかどうかはパーティーの防御力や安全性を考える上では結構大きい。
さらに、パーティーに入れなかった者同士で臨時に組む即席パーティーにおいては盾持ち近接攻撃系は人気職として扱われることになる。
最後に最も不遇な目に遭ってるのが弓士だ。
上級下位までのほとんどの迷宮は洞窟タイプか部屋と広場とそれらを繋ぐ通路で各階層が構成されているので、弓の射線が通らないことが非常に多いのだ。
それに加えて迷宮の魔物は弓矢による攻撃が効かない種が多い。
代表的なのがスケルトン系だ。
あぶれ者で組む即席パーティーにすら入るのが難しい厳しい職業だ。
私がそのパーティーに入ったのは本当に偶然でしかなかった。
宿屋を出たところで見かけた迷宮に向かう剣士と弓士の男女ペアに偶々パーティーに入れてもらえないか声を掛けたのだ。
どうしてそんなことをしたのかは今でもわからない。
わざわざギルドまで行ってパーティーを探すのが面倒な気分だったというのもあるだろう。
女性がいたというのも大きい。しかも不遇職の弓士である。
剣士の男性より背の高い弓士である彼女が楽しそうな表情をしていたのにも引っ掛かった。
弓士はパーティーに入れてもらうと男女問わず全力で仲間の役に立とうとする。
パーティーから追い出されたくなくて、あるいは自分を入れてくれたパーティーへの恩を返す為に常に必死だ。
そんな弓士の彼女を明るくさせる男性が作るパーティーならば私も居心地がいいのではないか?
そのような期待を込めて声を掛けたのかもしれない。
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