1日目③
リアとローラの到着を待っている間に、俺とアマリアは友人と呼べるくらいに仲良くなっていた。
なんせリアという共通の好きなものがある。
アマリアは俺が天界にやってきた経緯を聞いてとても興奮していた。
「天使が見えるとは不思議な人間だと思ったら、そういうことなのですね。大悪魔級の呪いを2つ同時に受け、家族が死に、進さんも死ぬはずだった。イレギュラーもイレギュラー、世界が悪魔や天使と勘違いしたんでしょう」
アマリアはあっさりと俺が天使たちを視認できるという謎を解いてみせた。10000年生きてるローラよりも、発想が柔軟なのだろうか。
「それにしても、昨日リア様が打った恋の矢に当たったのが進さんで、その進さんが一目惚れした相手がリア様とは、これこそ天使も扱うことが出来ない運命の力なのですね!」
アマリアは好きなものの話題になると信じられないくらい饒舌になる。運命の力とはいったものだが、俺に残された時間はあと3日、リアと両想いになりたいのにー。
「なあ、アマリアの力でリアの恋心を俺に向けさせることって出来ないのか?」
「本気で言ってるとしたら見損ないましたよ、進さん」
「じょ、冗談だよ冗談。でも考えてみてくれ、俺はあと3日しか生きれないんだぞ?ちょっとした愚痴くらい言わせてくれ」
アマリアは少しの間、考え込む。考えてみてくれているみたいだ。
「アマリアは……アマリアなら、いいですよ」
かなり悩んだ様子だったが、その口から出たのは了解の言葉だった。
愚痴混じりの冗談とはいえ、こんな最低なお願いを聞いてくれるのか。
「アマリアの天使としての能力は、人の頭に話しかけて、恋愛をサポートする、というものです」
「ローラがそんなこと言ってたな」
数が少ない貴重な能力だとか。
要するに恋のキューピット役、ローラの射ぬいたら恋に落ちる弓矢や、その人の運命を操る能力と違って、本人の勇気や決断が必要不可欠である。
「この能力は他の天使からのサポートが必須でして、未だに1人で恋を成就させたことがないのです。そういう意味でもアマチュアなのです……」
「返事に困るな。だが俺も恋愛アマチュアなんでな、アマリアの能力あってギリだ」
一目惚れどころか、誰かのことをこんなに好きになったのがはじめてなのだ。サポートされるくらいじゃないと、何も進展がないまま死んでしまう。
そういう意味では、アマリアの能力は今の状況にぴったりだ。
「ここにリア様が来られるんですよね?一応聞いとくんですがどういうプランで行くつもりなのですか?」
「明日の朝から俺とデートしてくれませんかっていうつもりだけど」
「え?そんな悠長な」
「俺は今日誘ったところで何にもできない。時間がないからこそ、中途半端なことはしたくないんだ」
『いやいや、そのためにアマリアがいるのですよ』
突然頭のなかに声が響く、驚いてアマリアの方を見ると、どや顔でこちらを見ている。
これがアマリアの能力か、分かっていたことだが、すさまじく効率が悪いな。
『そんな酷いこと言わないで下さい……』
あっごめん。考えてることわかるんだな。
アマリアは見るからにしょんぼりしてしまった。希少な能力なだけこれまでも苦労したことだろう。
「とまあこんな感じで、進さんをサポートしますので、遠慮なく誘って下さい」
アマリアは何故か自信たっぷりな様子だが、俺は限りなく、限りなく不安だった。アマリアの実力を疑うわけではなく、なんの準備もしてないのに大丈夫なのかという気持ちでいっぱいだった。
「そんな不安そうな顔をしてはいけません。前向きに生きると決めたのでしょう?」
アマリアは天使のように微笑みながらそう言った。
ああ、アマリアはやっぱりいい天使になるよ。
「ごめんなさい!待たせちゃったわね」
アマリアとの打ち合わせを終えてから数分後、ローラが急いだ様子でやってきた。後方には、黒い翼をはためかすリアの姿もある。
想い人が近づいてくるにつれて、心臓の音が大きくなる。
「いえ!とても有意義な時間でした」
「あら、やっぱり相性がよかったみたいね。仲良さそうにしてて嬉しいわ」
相変わらず天使というより女神様の方が似合うローラの笑顔に、思わず見惚れてしまう。
想定通りといった口ぶりからも、ローラの優秀さが分かる。
「さて、じゃあアマリア、私たちは退散するとしましょう」
「あ、はい!」
ローラは空気を読んでアマリアを連れて立ち去る。アマリアは飛び立つ直前に、俺の方を向いて、頑張ってください!と応援のジェスチャーをした。
1時間ぶりにリアと2人きりになった。1時間前は知らなかったリアの地雷は想像以上に重いものだった。
リア様は20万年もの間、自身がもつ呪いの力に苦しめられています。アマリアはそう語った。
俺は1つ尋ねた。自分の呪いで人を殺したくないなら、何故リアは打ち続けるんだ?
アマリアは答える。人間にはない感覚だと思いますが、天使や悪魔は生まれつき使命を与えられているのです。悪魔は人間を減らすこと、天使は人の繁殖を促進させること。
アマリアは語った。リアは天使の使命をもちながら、どの大悪魔よりも強い呪いを与えられたのだと、リアが天使の使命を全うしたことは20万年で1度もないのだと。
「リア」
俺はリアの抱える闇をあまく見ていたように思う。使命を果たせず、生きる理由もわからず、自分の存在価値を見失っている。
人と人を繋ぐために生まれながら、20万年もの間、命を奪い続けた天使。
俺はなにか気を使った言葉を言うべきかと悩んだ。リアが救われるなにかをしてあげるべきなのかと、しかし俺は、よく知りもせずに慰めの言葉をかけるような男になりたくはなかった。
「俺とデートしてくれませんか?」
20万年生きてきて、聞き飽きたであろう慰めの言葉より、デートの誘いの方が良いと判断した。
「あ……は、はい」
リアは頬を赤らめたりすることはなかったが、すぐに了承してくれた。
ローラが先に話を通してくれているのかもしれない。
『さあ行きますよ!気張って下さい!』
心なしか楽しそうなアマリアの声が頭に響く。
デートが始まる。
現在は正午、死の呪い発動まで残り51時間
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