12. 葛藤

「チッ…」

『好きだよ…』

 そう言えば、また志井しいさんから消えてく気がして。

 だから、言えない。

須貝すかい、言いたいことがあるなら言えよ」

 黒電話が鳴り響く。

「ないです…」

 表示は「夏音かのん」。

 大画面で、スリットが際どい戦闘服が映る。

「はい。救助はしません武器屋です」

 救助依頼なのはわかってるから、最初に釘を刺したつもりなんだが。

『救助依頼、場所はメールで送ります』

「だから、救助依頼は…」

 切れた。

「夏音ちゃん、か…」

 志井さんの下心が聞こえ過ぎて、

「志井さん、夏音はヒトリで大丈夫ですっ!」

 レベルは高くて、ヒトリで平気な筈。

 夏音は、術士の特性があるのでいざという時は戻れる。護れる。

「須貝…?」

 しまった…。

 ちょっと声を荒げ過ぎた。

「仕事だから、な…」

 やらないと。って、言って準備をし始める志井さんに、

「でも…」

 行って欲しくない。

「ん…?」

 そういう気持ちが志井さんの体にぶつかっていた。

「どうした…?」

「すみません…」

 でも、志井さんは拒否しない。

「らしくねぇぞ…」

 志井さんはそう呟いて休憩室に入る。

「らしくない…か…」

 ボクらしいって、何だろう…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る