第7話
空荷と佐呂間の帆立
キュカッカッカッ
ドルンッ
ボッボッボッボッ
薫がFZのセルボタンを押すと、程なくエンジンが始動し小気味良い排気音を響かせた。FZのエンジンを始動し暖気の間にゆっくりとジャケットを着てヘルメットを被る。いつものバイクで出かける時のルーティーン。考えてみれば買い物や風呂など近場には行ったが、北海道を空荷でツーリングするのは初めてかもしれない。
薫はワクワクしながらFZ発進させた。
「少し暑いな〜」
キャンプ場の入り口で一時停止した時に薫は腕を捲るか迷ったが、走り出せば涼しくなるだろうと鷹を括り走り出すと左へ。
すぐに大きな通りに突き当たる。
能取岬に向け一路左へ曲がる。
網走湖を左手に木々の中を進む、車は1、2台いるものの真っ青な青空の下、日差しと爽やかな風が少し涼しく気持ちよく走れる。腕を捲らないで正解だった。二車線の広い道の横にはどこからあったのか自転車用のサイクリングロードが並走する。
網走湖から離れ坂を登ると一転、一面の畑が姿を表す。北海道では見慣れた風景だが、何度見ても素晴らしい。
「気〜持ち良い〜」
右に左、上がって下っての滑らかなワインディングを、薫はFZを走らせる。
ふと、気がつけば右手に湖が見えて来た。
「あっ‥?!」
薫が思わず声を出したのは、道を通り過ぎてしまったからだ。薫が向かっていた岬は能取湖の東側で、右手に湖が見えるのはおかしいのだ。少し前の脇道に入らなければならなかった様で道路標識を見落としたらしい。
引き返そうかと思ったが、行き当たりばったりも良いだろうとそのまま走る事にする。このまま走れば能取湖を抜けサロマ湖に。サロマと言えばホタテ。
連想ゲームの様に行き合ったった大好物に心が躍る。
確か直売所があったはずだ。今晩の夕食はホタテ尽くしも良いかもしれない。
そんな事を考えながら走っていると、キムアネップキャンプ場の看板を見つけた。ここは以前から気になっていたキャンプ場だ。休憩がてら寄ってみる事にする。
道道から外れてくねくねした細い道に入ると、葦の葉の向こうにキャンプ場が見えて来た。そこには漁師の東屋が数軒と広い駐車場、その奥に管理棟にトイレに炊事場、後は広いサロマ湖が望める。まるで湖に浮かんでいる様なキャンプ場が姿を現した。
ひっそりとしたキャンプ場は雰囲気が良い。湖畔ということもあって薫も気に入りそうではあるものの、ここからでは買い出しやお風呂には困りそうではある。連泊初心者ではあるがすっかり連泊脳で考え始めている事に薫は気づいているのだろうか。
キャンプ場の周囲を歩きながら、近くでホタテが安ければ此処に泊まるのも良いなどと一頻り思いを巡らせ手からキャンプ場を後にする。
薫は道道に戻り、道が再び湖際になった辺りで大きな水産物の直売所を見付けFZを止めた。直売所、帆立ののぼりが風にゆらめいている。ここならホタテも安く手に入るだろう。
店に入ると貝やら魚の加工食品が所狭しと並んでおり奥には事務所が有る。左手には沢山のテーブルが並びその奥に水の流れ落ちるブルーの水槽が見える。
店の中には結構な人数の客が買い物や食事を楽しんでいた。そう言えば大きな駐車場には観光バスが1台停まっていたので、どうやらツアーのお客も立ち寄る店らしい。
薫は店内を物色してみたが、土産物が多く並び薫の食種には引っ掛からなかった。土産よりも今晩のオカズ。薫は生簀であろう水槽の方に向かった。
畳3畳はありそうな大きな水槽には、薫にはわからない沢山の生きの良さそうな魚が泳いでいたが、その隣の水槽にはそれ以上に大量の帆立が水槽に犇めいている。水の中なので正確ではないが貝の大きさもかなりの大物に見えた。きっと中身も大きいに違いない。帆立の甘い味を想像しながらカウンターに向かう。
カウンターにはホタテ1個¥70の値札が!10個買っても¥700
(やっ安い!のか?)
見るとテーブルで食事をしている家族やカップルの前に並べられた貝に乗った焼きホタテは、かなりの大きさ。それを見ると安いとしか思えない!
薫はホタテを15個購入した。
食べきれるのかしら?
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