第6話
キャンプ場の昼と距離
「そう言えばこの前、開陽台のダート登ってたのって薫ちゃんだよね。」
そう言ったのはノブ。
「あの時いたんですか?恥ずかしいな。」
どうやら満載FZでダーティーな坂を爆走する薫を見ていたらしい。思い出せばあの時、キャンプ場の脇に停まったバイクの中に刀が有った気がする。
「あそこ行ったんだ。」
と、ザキさん
「あの階段を荷物持って上がるのが嫌で、思い切って行っちゃいました。」
「あそこを満車で登る女の子って、見た事なかったから周りの人もビビってたし!」
そう言うノブに恐縮しながら、あまり人っていなかったと思ってたのにと、当時を思い出す。
「それより夜の強風は大丈夫だったんですか?周りは全滅でしたけど。」
あの夜の強風をノブはどう過ごしたのか、単純に気になった事を尋ねてみた。
「あぁ、あの時?最初の突風でフレームが逝っちゃってさ〜テントと荷物まとめて展望台の軒下で寝たんよ!」
「そうなの。災難でしたね。」
薫が朝見かけた避難民の中に、ノブも混じっていたらしい。そんな失礼な事を考えてたとは間違っても言えない。
ノブはその後、テントのフレームを応急処置で修理して使っているらしい。北海道の片田舎では、テントのパーツを扱っている店があるはずも無く、逞しいかぎりではある。
そうこうしているうちに、お昼になり各々食事のためにテントや炊事場にバラけて行く。
思わず連泊を決めた薫だったが、午後から行ける所だと余り遠くまでは行けない。近場で景色の良い場所だと何処だろう?
食事の用意をしながら、脳内地図を検索‥能取岬にでもツーリングと洒落込むかな〜などと考える。
能取岬は網走湖の北にある能取湖の東にある。オホーツク海に突き出た岬だ。確か展望台の様なものがあった様な気がする。ついでに能取湖も眺めるのも良いかもしれない。時季的にはサンゴ草が咲く時期ではないので眺めると言っても湖なのだが。
時間も時間なので昼飯は簡単にインスタントの袋麺に魚肉ソーセージをぶっ込んでみた。卵や野菜なんかを入れたい所だが、ツーリングライダーが卵を持ち運ぶのはいろいろと問題があるのである。
バラけた他の3人は知り合いだからと言って、一緒に食事をするでもなく個人個人での昼食で、ノブに関しては早速バイクで何処かへ走って行ってしまった。
響子は洗濯も終わりベンチで何やら本を読んでいるし、ザキさんは食事後程なく湖畔に赤い石段に寝転がり昼寝中である。
これがソロ同士の付き合い方なのかな。薫は勝手に思い付き自分も自由にしていようと考えた。
思えば薫が初めて北海道にロングツーリングに来た時は、幼稚園からの幼馴染の女の子と二人旅だった。ロングとは言っても高校三年の夏休みにいろいろあっての延べ6日の短い期間で行ったのだ。
いろいろと言うのも、猛暑と豪雨に参ってしまった連れが行きの東北道で「もう帰らない?」と半日も経たずにギブアップしてしまい、4日後の苫小牧発の帰りのフェリー予約をして、期間とゴールを決めて、帰ろう帰ろうと連呼する連れを苫小牧まではと騙し騙しツーリングを続けたりしてと。薫が次の年には一人で行こうと心に誓った出来事なのだが、なぜか幼馴染の彼女もまたついて来る事になるのだが、また別の話。
極親しい間柄であっても年中一緒にいるのは問題がある事は経験談である。ましてやソロで来た者同士、必要以上に距離を詰める事は余り良くない。これが彼等なりの上手くやって行く距離感なのだろう。
薫は一人納得し早速出掛ける事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます