第5話

仲間?と連泊


忍者の彼女と話をした後。薫は少し考えていた。

(確かに女の人の大型バイクソロキャンパーはお初ね)

確かにお盆休みに女性のソロライダーやチャリダーに出会う事はあっても、7月の半ばにコアな女性ライダーを見かけたのは初めてで、少し嬉しくもある。

薫は撤収するか迷いながらも、昨日の網走湖の看板の前でFZと共に写真を撮ろうかとバイクを押しながらそこへ向かう。

看板の前にデンッとFZを停め少し離れてアングルを決める。

(なかなかに様になっちょる)

来年の年賀状の写真にでもしようかとデジカメのシャッターを切るが、年賀状なら自分も入りたいとも思う。

「撮りましょか?」

三脚を持って来ようかと歩き掛けた時に、不意に後ろから声をかけられた。

「!?」

振り向くと40代後半位の男性がニコニコしながら立っている。

「良かったら撮るよ。」

そう言う彼は、今も正にニコニコ顔だ。

「良いんですか?じゃあお願いします。」

薫はお言葉に甘える事にする。カメラを渡すとFZと看板の間に入り、腰に手を当てて仁王立ちだ。

「2枚くらい撮るね。」

そう言いながらシャッタを切る。

「どう?」

撮った写真を確認すると、寄ったものと引きのものと良い感じだ。

「大丈夫です。ありがとうございます。」

「いやー若い人が改造ったFZに乗っとったから嬉しいやんな。」

と彼は言う。

「いやいや。そんな大した事ないですよ。」

大阪弁の彼もどうやらライダーの様だ。

背は薫よりも低く少し薄くなった髪には白いものが見え隠れしている。サンダルに短パン、Tシャツといった装いでこれから出発する感じでは無い。

「連泊ですか?」

「そうそ。この辺は見る所が多いやん。走りやすい峠も有りよるし、ここって色々と連泊するんに良い場所なんよ。今から出発するん?」

訪ねた薫にそう答え、訪ね返す。

「どうしようかと迷ってるんですよね。」

薫は先ほどから考えていた思いを言葉にした。

「この周りってそんなに見る所があります?確かに道は走りやすかったですけど。」

「こっからやと上がれば宗谷、西にゃ〜旭川、東だと羅臼、南側だと根室、釧路、帯広も行ってこれるやん。まぁ人にもよるけど。それにここって景色も居心地もええ感じなんや。」

彼はそう答えるとまたもやニッコリ。憎めない笑顔を見せる。

「確かにそうですね。」

薫は彼の言葉に頷いた。

「でも、結構改造ったFZやね。タイヤも端まで使っとるし、かなりイケル人?」

そう言いながらFZをぐるりと一周。

「そんな大した事無いですけど、‥っえっと何に乗ってらっしゃるんですか?」

彼を何と呼べば良いか気にしながら尋ねると、それを察したのか。

「ああっ、川崎言います。乗っとるんはあれ、GSX。油冷の。」

そう言いながら薫のテントの手前の白地にブルーラインのいかにもなGSXを指差す。その横にはグリーンのダンロップテントが一張り。するとキャンプ場の一本道の遥か向こうから、1台のバイクが走って来る。

バイクは刀で、乗っているノーヘルの男性は昨日キャンプ場の入り口で会った彼だった。

「ザキさん〜ナンパ?だめだよ。犯罪だよ。お年を考えなきゃ!あっはっはっはっ!」

茶髪で丸顔の彼は薫達の手前でバイクを止めると大きい声で笑った。

「んな訳ね〜やろ!連泊の良さを語っとったんや!」

「まぁ解ってますけど、でも犯罪ですけど。」

二人は知り合いなのか、テンポ良くボケとツッコミを

繰り返している。

「そんなんより。見てみいこんFZ、かなりやで。」

「確かに。」

そんなこんなでFZの周りを今度は二人で一周。

ああでも無い、こうでも無いと人様のバイクを肴に盛り上がっている。

「二人とも犯罪だからね!」

どうしようかと考え始めた頃に、後ろから近づいてチョット前に聞いたセリフを発したのはさっきの洗濯の彼女。

「だいたい彼女。私が先約なんです〜!どう?気変わった?」

「そうですね〜今からだと何だし。連泊も良いかなと。」

薫は単純に変わった気持ちを告げる。

「御三方は知り合いなんですか?」

「えっ‥あぁここで知り合ったのよ。たまたまね。私は関根響子、忍者のね。」

薫の疑問に答えたのは響子と名乗ると、隣の川崎という男性を促す。

「んで‥うんっ。」

「自分はさっき教えたで。な!」

「はい。」

「じゃあ、俺はノブ。よろしくね。バイクはこれ!」

最後は彼は跨った刀のタンクをポンポンと叩きながら答えた。


三者三様、様々な場所からふらり、たまたまこの呼人で出会った。色の濃そうなソロキャンパーが揃っているものの、自分が一番マトモだなと思いながら。

「小西薫です。どうも」

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