第4話
湖畔のキャンプ場と同類
「このキャンプ場ってバイクで入って行って良いんですか?」
車止めのポールの間から、ノーヘル、バイクで出て来た男性に薫は尋ねた。
「ああ。テントの横に停めて大丈夫だよ。管理人もいないし、ご自由に!」
かなりカスタムされている様に見えるスズキの刀に乗った男性はそう答えると、キャンプ場入り口のトイレらしい小綺麗な建物の脇にバイクを止め駆け込んで行った。
(自由か〜いいね〜)
ヘルメットを外しミラーに引っ掛けFZを進める。
今日、薫はキャンプ場に到着するのが遅れてしまった。
それと言うのも、来る途中通った津別峠と美幌峠が思いの外素晴らしく、たまたまなのか車の通行量も少なくて気持ち良く走れたせいもあり、久しぶりに走り屋魂に火がついたと言うか。
何の事はない。
気持ち良く峠を一往復、梯子してしまっただけなのだが。
日が傾きかけて、慌ててキャンプ場に向かい、途中の美幌の街で温泉と買い出しをすませる。
夕暮れ近くに到着した網走湖畔の呼人キャンプ場は湖面をオレンジ色に染めていた。木で出来た網走湖の立て看板がオレンジの中暗くシルエットになり、周囲の木々と相まって美しい。
湖際の赤い石造りの段もその近くのベンチと一体になったプランターも湖畔の景色にベストマッチだ。薫は一目でこのキャンプ場を気に入ってしまった。
夕焼けの中FZを進め、入り口から少し離れた湖際にバイクを止めた。
荷物を解くとテントを張る。
一息ついた薫は、湖際に腰を下ろして湖を眺めた。正面の湖もそうだが、振り向くとオレンジ色から赤に染まった自分のテントとその向こうに同じく赤いFZ。その絵になるシチュエーションにご満悦だ。
薫は食事の用意も忘れて眺め続けた。
翌朝、遅めに目覚めた薫は、今日は何処へ向かうか考えながら買っておいた惣菜パンとインスタントコーヒーで朝食を摂っていた。
網走湖は陽の光を受けて、青く白くキラキラと輝いている。
薫の周りにはテントを片づけ撤収の準備や荷物を積み終え出発する者も少なくない。そんな中、洗濯物を干している女性や工具を拡げてバイクの整備をする男性もチラホラ見受けられた。
天気も良いと思う。暑くも寒くもないツーリング日和。そんな時に洗濯やバイク整備って?
まぁある意味正解なのではあるのだが、勿体無いとも思ってしまう薫。そんな事を考えながらパンを頬張っていると、その横を荷物満載のバイクがまた走り出して行く。
10時を回る頃には2、30張り有ったカラフルなテントとバイクたちはものの見事に数を減らし、薫のも含めて4張りだけになってしまった。
(さぁて、今からだと何処まで行けるかしら?)
残りのコーヒーを飲み干すと食器を洗うためスポンジと洗剤片手にトイレの横の流しへ向かう。
六つのステンレスの流しが向かい合わせで並んだその流しでは、起きた時に洗濯物を干していた女性がバケツの中の洗濯物を手で揉み洗いしている。
白いTシャツに黒のジャージ、黒い髪は背中の中ばまで伸ばしたストレートで小さくはない薫よりも頭半分背が高い。175cmはありそうだ。
(さっき干してたんじゃ?)
ジャブジャブと洗う女性を見てから振り向けば、テントのポールのから小さな植木にロープが繋いであり、沢山の衣類がぶら下がっている。どうやら洗濯2発目らしい。
「おはようございます。洗濯ですか?」
「あーぁ。そうなのバケツが小さくてさ〜一回じゃ無理だったわ!」
そう言うと、あら奥さん!みたいな仕草で手をパタパタしながらケタケタと笑った。
「特にGパンなんか洗うもんじゃ無いね〜」
見ると、青い四角いビニール製のバケツの中には紺色であろう黒く見えるGパンが泡だった水に沈んでいる。
「これ便利ですね。」
薫は洗濯物の入ったそのバケツが気になった。
「あぁ、これ?使わない時はペシャンコになるから、場所取らなくて良いのよ!欲しければ釣具店とかで売ってるわよ。魚を入れとくやつだから。」
「へぇ〜‥あっ。邪魔してすいませんでした。」
カップを洗い終えた薫が謝ってからテントへ戻ろうとすると、
「いいのいいの!とうせ暇だから洗濯してるんだし。連泊なら後でちょっと話そうよ!いないのよね〜女のソロでしかも大型に乗ってるのなんてレアだもの!」
その女性は本当に嬉しそうに言う。
「あっそろそろ出ようとは思ってたんですけど‥」
「そうなの?残念!まぁ気が変わったら声掛けて。あの忍者、私のだから。」
「はい。それじゃ。」
申し訳無さそうにする薫に、彼女はあっけらかんと答えた。
洗濯を続ける彼女をおいて戻りしなその忍者を見ると、結構マニアックな感じでカスタムされている。
(むむむっご同類!?話は合うかもしれないな〜)
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