第3話
夜の嵐と避難民
テントの設営に手間取ったものの、暗くなる前に薫は食事の用意を済ませた。今日の食事は玉葱とベーコンのポトフにスパゲッティを入れたスープパスタだ。
標高と風のせいでかなり寒いが、暖かいものを胃に入れたおかげで身体も温まった。
辺りのテントから薄ぼんやりとした明かりがチラホラ。
風のせいで皆テントの中で過ごしているのだろう。空を見上げると、物凄いスピードで雲が流れて行く。その黒い影の周りには満天の星が所狭しと広がる。
髪をかき乱す強風とシミの様な雲はマイナスだが、月も出ていない星明かりだけで辺りの揺れる木々や、周囲の山々の輪郭がぼんやりと見える。
まるで精密なジオラマを見ている様だ。
展望台に登って中標津の町の夜景でも見ようかと思ったが身体が冷え切りそうなのでやめておこう。まだ早いが寝ることにする。
テントに入る間際の強風がこれでもかと髪を撫で、ボサボサになったがそのまま寝袋に入る。
明日のする事を考えたが、決める前に微睡に落ちてた。
ゴウッゴーウ
ピトッ
朝!では無かった。
腕時計を見ると12時少し前、すごい音とおでこに張り付く冷たい感触で目覚めてしまった。
「何!何!なんなん?」
目の前には白いビニール?がワサワサと揺れて眼前に迫っている。暗いなりに良く見ればテントのインナーである。
(このテントこんな小さかったっけか?)
いや、違う。風でテントが変形しちょるのだ。
絶え間ない強風が風下へテントを押して、寝ている薫の顔に触るほど潰れている様子。幸いにも薫のテントは¥3980の安物で、フレームはグラスファイバー製だ。アルミやジェラルミン製ならとっくに折れて潰れていただろう。
試しに風に逆らってテントを押してみるが、すぐに風に押し戻され戻ってくる。
(アリャリャ〜コリャ駄目だね)
「試しに出てみるかしら」
外の様子が気になったので、表に出てみる事にする。寝袋から出て着替えると、出入り口のチャックをゆっくり開く。
ゴウッ!
とテントの中に風が吹き込む。薫は素早く外に出るとチャックを閉めた。開け放しておけば風が入り込んで中からテントの布地を破いてしまうだろう。
外に出た薫は乱れる髪を抑えながら周りのキャンパーのテントを確認する。寝ているのか暗いテントもあれば、明かりを灯している者や外でテントの補強をする者も居るが、その中すでに潰れてしまっているテントも2つ3つ見受けられる。
まぁキャンプ場内がてんやわんやな感じ!
薫のテントは風対策のおかげか、変形してはいるもののしっかり張れている。タープやペグも大丈夫そうだ。
気になったのでFZの様子を見るがこれも概ね大丈夫そう、倒れた時に道連れにしたりされたりしない様に隣のバイクと大きく開けて停め直しスタンドの下に大きめの石を挟んだ。
「今更しょうがないよね〜フゥワ〜ッ」
まさにその通り!
眠気に逆らえず薫は大きな欠伸をするとそそくさとテントに入ると寝袋に入り寝直す事にした。
自然にも眠気にも逆らえない、諦めも肝心なのである。
バタバタとうるさい風の音も、外で騒ぐ周りのキャンパーの声も聞こえたが、もういいや!
早朝、自然と目覚めた薫はゆっくりと寝袋から出ると、中から見るテントを確認してから表に出た。
昨日の嵐が嘘の様な長閑で爽やかな青空の開陽台のキャンプ場。薫の周りのテントは大半が倒壊しペシャンコになっているのが、あの強風が本当だった事を物語っている。
「こいつは皆んな災難だったね〜私の運が良かったのかな?」
FZも倒れていないのをみて薫はつぶやいた。
(潰れたテントの人達はどうしたのかな?)
朝食の前に展望台に登ってみようと足を運ぶと、階段の下に寄り添う10人ほどを見つけた。寝袋やジャケット、レインコートを被って強風から身を守っていた様だ。まるで
(避難民みたい)
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