第2話
開陽台と上り坂
薫はバイクを止め少し考えていた。
荷物満載と少女を乗せたFZ750は少々シャコタン気味だ。そして彼女の目の前には大きく削れた轍が一本。
場所は開陽台。
ここは北海道ツーリングライダーお馴染みの人気キャンプ場、昼も夜も360°大パノラマで景色や満天の星を拝めてしまうのだ。
そんなキャンプ場は駐車場から階段を数十段登らねば辿り着けない丘の天辺に存在する。
駐車場にFZを停めキャンプ場の様子を見がてら階段を登る。頂上の大きな展望台のその向こうに、木の柵で区切られた可愛らしい大きさの芝のキャンプサイトが現れた。
小さな流しが有り、中央に段差があるもののテントは張りやすそうだ。
展望台の上まで行くと、傾きかけた太陽と凸凹とした草原に小さく牛の姿。その向こうに中標津の小さな街と遥か遠くには薄い雲間から青い海が見える。後ろには大きな山々。
んで足元に目を向けると長く見える階段が。
「ふぅ〜ぃ‥」
その階段を、荷物を抱え何往復もする。そんな自分を想像するとゾッとするが、後ろのサイトにはチラホラカラフルなテントが立ち始め、太陽は山の向こうに隠れ始めている。
テントを張ったり食事の用意をしたり、ツーリングライダーの夕方は多忙だ。今日の食料は購入済みで買い出しは必要無くても、マゴマゴしていると食事の用意をする頃には暗くなってしまう。
「しゃーない。運ぶか〜」
呟き、薫は諦めて階段を下る。と。
ダッダッダッダッバラッバラッバラッ
薫の視界の右側、階段の手摺りと小山のその向こうを、大きな音を立てながらオフロードヘルメットが通り過ぎた。
「!?」
正確には坂を登って行くオフロードバイクのライダーのヘルメットだけが見えたのだ。
慌てて踵を返すと、テントサイトの柵の外側にはバイクが数台止まっていた。今まさに登って行ったライダーもそこにバイクを停車する。
見ればバイクはオフ車だけで無くゼファーや刀、果てはカウルを纏ったレーサーレプリカまでもが!
(あれが行けるなら、私のも行けんじゃね?!)
薫は妙な自信を胸にFZに戻るとエンジンをかける。坂の長さは30メートル程だろうか。真ん中には一本グニャグニャと歪な土が丸見えの轍が出来ている。
バイクが登っては降り出来た10〜20センチ程の深さの小さな谷だ。
暫く考えた後、薫は少し勢いを付けて走り出した。途中で止まってしまうのは断固拒否したい。ツルツルのタイヤと車重を考えると再スタートは出来ないかもしれない。
前輪に体重を掛けて、半クラは使わずにFZのトルクに任せて一気に登る。北海道ツーリングに合わせてハンドルをバータイプにしたのも良かった様で、右に左に取られるハンドルを力ずくで前に向ける。
薫とFZは、ほんの数秒でサイトのある頂上にたどり着いた。
ほっと一息バイクを止める。
「ヒィ〜行けて良かった〜」
これで明るいうちに食事を取れそうだ。薫は早速荷解きを始める。テントを引っ張り出し広げると強くなった風に飛ばされそうになった。
(コリャ〜夜は風が強くなりそうだね)
吹きっさらしの丘の上である事を思い出し、薫はサイトの中央にある段差の影にテントを張ることにした。風が直接当たらない様、テントの風上に小さなタープを地面から斜めに張る。これでテントの影で夕食の調理が出来るだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます