北海道のどこが好き?
@kon_s
第1話
押しがけと少女
「はぁ‥はぁ‥ぜっ‥はぁ‥」
鬱蒼とした林と真っ直ぐ続く道、青い空の所々に白い雲。斜めから照りつける太陽は木々の影をアスファルトに落とす。
涼しげな風が僅かに吹くものの、焼けたアスファルトからの熱がグニャリと風景を歪め、すぐにでも木陰へ隠れたくなる陽気だ。
「はぁはぁはぁはぁ‥‥」
ズズズッガチャガチャッ
車の姿もないそんな長閑な田舎道を、重そうなバイクを押しながら駆け出す少女が一人。
息も絶え絶え、さっきからバイクの後輪をロックさせては、走るを繰り返している。
「ぢぎしょう!かかれ〜」
女の子らしくないな〜
FZ750
古い大型バイクは重く、少女の割に大柄な彼女にはとても押せる様には見えないが、何度目かの押しがけでFZは大きな排気音を奏でた。
ブッフォーン!ボッボッボッ!
「やった!やっとかかったよ!」
少女はギアをニュートラルに入れサイドスタンドを立てるとFZを停めて、喜びの声と共にその場にへたり込んだ。
黒のGパンに青いTシャツ、肩に掛らない程の黒髪の少女は、汗で張り付いたシャツや髪を気にする様子もなく路肩の木陰まで這って進むとゴロリ、仰向けに大の字になった。その遥か遠くには小さくヘルメットやジャケットのシルエットが。
二、三十メートル後方のそこから押しがけを始めたであろう事がうかがえる。
一回でかからなかったのね〜
小気味良い排気音を奏でるFZの傍で、上半身を木陰に沈めながらまだまだ息は整わない。精魂尽き果てた様子。
ゼイハァしていた呼吸が大きくゆっくりとしたものに変わる頃、少女は微睡の中に落ちていた。
ここは北海道の道東、中標津に程近い畑と林に囲まれた道道だ。
通行人も車も姿が見えないが、それはいつもの事で、右も左も防風林だけ、その木々の隙間からかろうじて放牧場や畑が僅かに姿を見せている。
そんな人はいるであろう筈の無人の道道に一人、少女が重いバイクを推しがける理由は色々とあったが、まずはバイクの始動!おめでとう。
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