第51話 一回戦 中堅

 ギルの戦闘スタイルは、持ち前の筋力を活かしたものだ。現在では身体強化を手に入れ、その力は計り知れない。大抵の奴は受け止めきれないだろう。


 相手を見ると、どうやら槍を得物としているようだ。


 槍は、どれだけ相手を間合いに入らせないかが勝負であるため、ギルはそこから自分が攻撃できる間合いに詰める必要がある。


 ギルならば大丈夫だろうと思ってはいるが、始まってみなければ分からない。



「始めっ!!」


 試合が開始された。


 ライと同様、ギルは速攻を仕掛ける。ギルの初撃は、受けたことがない者にとっては衝撃的なものだ。


 ギルは、足の部分身体強化によって驚異的な速度で接近し、腕の部分身体強化で相手を吹き飛ばす。相手も構えていたが、ギルがここまで早く来るとは思っていなかったようで、受け止めきれず、吹き飛ばされた。


 しかし、直前で後ろに飛んだようで、衝撃を軽減させていた。それでもギルの一撃は防ぎきれなかったようで、痛がる素振りを見せた。


 相手に攻撃を与えることはできたが、初撃に対応されたのは少し痛かった。これで相手はギルの速度に慣れたことになる。


 相手の持つ槍は短槍だ。ギルと距離が離れたことから、ギルに槍を向け、鋭い突きを繰り出す。だが、そのキレはミゲルと比べて甘い。普段からミゲルと模擬戦をしているギルには、この突きは甘い。突き出される槍を剣でいなし、相手の猛攻を防ぐ。


 徐々にステージの端へと追いやり、剣の間合いに持ち込む。この模擬戦はステージ上で行うため、ステージを出れば負けというルールになっている。ギルはそのルールを利用したということだ。


 相手も自分の置かれている状況に気が付き、苦い表情を浮かべる。もうこの試合は決まったも同然だ。


 ギルが地面を踏み込み、突き出された槍を半身で躱して接近する。


 そして、初撃と同様に一文字に剣を振るう。


 対応できるはずもなく、相手はステージ外へと飛ばされた。


 うおーーーー!!!! という野太い声に始まり、大歓声が起こる。


 3戦中2勝したことでAクラスの決勝進出が決まったからだ。今回の試合はギルの戦略勝ちだ。ギルは多くの模擬戦を積んだことで、模擬戦中に思考を回せるようになった。


 試合中に思考を回すことは、想像以上に難しい。並行思考のようなものだと言えばその難しさが分かるだろう。戦闘は作業のようにこなしつつ、頭の中で勝利パターンを考えるのだ。この技術は将にとって欠かせないものだ。ギルは将国出身ということもあり、並行思考への適性が段違いだった。もしかすれば、どこかの将軍の息子かもしれないと思ったほどだ。


 決勝進出は決まったが、大将戦は実施される。剣闘大会はあくまで今までの成果を見せるものだ。従って、3戦すべて行うことになっているのだ。


 相手が棄権すれば試合はなくなるが、相手はその気がないようだ。しかも、目がおかしい。どこか思い詰めているようにも見て取れる。


 俺としては決勝に備えたかったが、相手がその気ならしょうがない。


 完膚なきまでに叩き潰そう。それが礼儀だ。


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