第50話 一回戦 先鋒

 控室は1クラスに1つ割り当てられている。全部で3学年出るため、計12室の控室が用意されている。基本防音構造になっていて、扉を閉じれば、外に声が漏れないようになっている。戦術が敵チームに伝わらないようにという配慮らしい。


 1年の対戦カードは、1回戦は、Aクラスvs Cクラス、Bクラスvs Dクラスだ。ここ1週間でCクラスの情報を得ようとしたが満足な情報は得られなかった。唯一得られた情報は平民で構成されていて、実力順で構成されているということだけだった。具体的な得物などは特定できなかったが、実戦ではどんな得物であっても対応しなければならないため、得物が分からなかったとしても勝てるようにしておかなければならない。それに、俺たちは剣と槍はアレクとミゲルとの模擬戦を経て慣れている。特段気にすることではないだろう。


 今回の大会は、俺たちが勝つ可能性も大いにある。ライもギルも大幅強化を経て、対人戦は他の学生に比べて模擬戦を積んでいることから優位に立てると思う。最悪どちらかが負けても大将の俺が勝てば決勝に進出できるから、よっぽどのことがない限り大丈夫だろう。


 今は各々身体の確認を行っている。俺はすっかり日課となった素振りを行っている。士気は上々だ。この大会、勝てるぞ。


コンコンッ


「そろそろ開会式なので、準備をお願いします」


そろそろ開会式のようだ。


「よし、いくぞ!」

「おう!」「うん」


楽しみだ!!



 模擬戦が行われるのは中央のステージだ。ステージには多くの生徒が集まっていた。全員が今回の模擬戦に出る人だ。


 上級生の姿も多く見えた。3年生にもなると、俺たちとは体格が大きく異なる。3年生の戦いは見るのが楽しみだ。


 Bクラスの整列場所にはラザロがいた。事前にラザロが大将であるという情報は掴んでいた。どこか余裕ぶっているのが怖い。ライにとっては因縁の相手だが、恐らくは俺が戦うことになるだろう。もし当たればコテンパンにする。


 Aクラスの待機場所に行くと、俺の隣にラザロが立つ構図となった。ラザロが蔑んだ目でこちらを見てきているから、一度殺気を込めた睨みを利かせる。


 すると、一瞬ビクッとなったが、すぐに何事もなかったかのように黙り込んだ。


「来場者の皆様、今日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。まもなく開会式が始まります」


司会役の先生からアナウンスが流れた。徐々に話し声が止み、闘技場全体が静寂に包まれた。


「剣闘大会開会式を行います」


「まずは、生徒による宣誓です」


 3年生の先輩がステージ中央のマイクの前に立つ。


「宣誓! 私たち学園生徒一同は、日ごろの鍛錬の成果を発揮し、全力で戦うことを誓いますっ!」


 会場が熱気に包まれた。会場には盛大な拍手と指笛が鳴りやまない。


「では! 学園長より開会宣言です!」


 再び静寂に包まれた。


「今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。我々三カ国同盟は現在も帝国の脅威に晒されています。この学園は次世代の英雄を養成するための学校であり、剣闘大会はその成果を発揮する場でもあります。生徒諸君、精一杯頑張ってくれ。ここに開会を宣言するっ!!」


 うぉーーーーーーーーーー!!!!!!


 会場が再び熱気で包まれた。野太い声が飛交う。


 噂では、賭け事も行われているらしく、そのせいかもしれない。ミゲルなんかはちゃっかり賭け事に参戦してそうではある。もし賭けていれば、俺たちのクラスに賭けているだろうから、しっかりと優勝しないとな。ミゲルに小言を言われないためにも。



 最初の試合は俺たち1年からだ。そして、その初戦がA対C。俺たちの試合だ。そのためにウォーミングアップをしていた。


 熱気が冷めやらぬ中、俺たちとCクラスはステージの中央で向かい合う。


「今日はお互いに頑張ろうな」


「あぁ」


 握手を交わす。しかし、相手は心ここに在らずと言った様子だ。少し気にはなるが、俺は俺で集中だ。


 俺とギルはステージから降り、ライと相手の先鋒の2人だけがステージに残る形となる。


「なぁ、ギル。何か違和感なかったか?」


「あぁ。相手は集中できていない様子だったな」


 ギルも同様のことを感じていたようだ。気を引き締めよう。


「今は目の前の試合に集中だな」


「あぁ、剣を交えればなんか分かるだろう」



 両者共、剣を正眼に構えて合図を待つ。


「では、Aクラス対Cクラス、先鋒戦を開始する。始めっ!!」


 合図と共にライが仕掛ける。


 ライは、体力トレーニングを積んだが、それでもまだ長期戦は難しい。フェイクも織り交ぜるため、短期で決着をつけなければ、やられてしまう可能性がある。そこで考えたのが、短期決戦だった。


 右から左に振り下ろすと見せかけ、剣が当たる直前に半身になり、そのまま回転、その遠心力を利用して、相手の背中に剣を打つ。


 実践ならこれで終わっているが、これは模擬戦であり、得物は木剣だ。


 相手もすぐに持ち直し、ライの攻撃に備える。


 ライはすぐに次の攻撃に移るが、相手の剣に遮られ、剣と剣がぶつかり合った状態、鍔迫り合いになる。


 相手の方が力が強く、ライの剣をはねのけ、態勢を崩している間に、足に攻撃を加える。


 足への攻撃はライにとっては致命打になり得る。ライのフェイクはステップと手首のスナップによって成り立っている。攻撃のフェイクはそれだけ、足に負担をかけるものであるため、足への攻撃は避けたいところだった。


 しかし、攻撃を加えた後、すぐに守りの態勢へと移る相手。


 今のは絶好の追撃ポイントだった。足に攻撃を加えられ一時的に攻撃に移れないライを攻撃すれば、大きなリードになったはずだ。


 ライ自身もびっくりしたのか、何とも言えない顔をしていた。


 その後も、ライが攻撃を浴びせ、相手はライの足を集中的に狙う展開が続いた。最後にはライが渾身の一撃を叩き込み、相手を気絶させた。


 その瞬間、会場が沸いた。


 相手は勝つ気がなく、まるで、ライを痛めつけるためだけに戦っていたかのように見えた。


「ライ、お疲れ様」


「お疲れ、ライ」


「ありがとう」


「相手の動きおかしくなかったか?」


「あまり攻撃に出てこなかったのは気になったかな。相手が真面目に戦ってたら正直どうなってたかは分からなかったと思う」


 なぜあのような行動をとったのかは分からない。しかし、初戦はAクラスの勝利に終わった。


 次はギルだ。

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