第49話 剣闘大会

 一週間の調整を経て、剣闘大会を迎えた。


 ライのフェイクの熟練度は、ミゲルと限りなく近い。フェイクだけとはいえ、ミゲルと同じ段階にまで持っていけたのは、ライの才能と努力のおかげだろう。


 だが、ライの剣術はBのままだ。まだ、経験としては不十分だったということだろう。


 ギルはこの一週間で身体強化を身につけた。ギル以外は全員身体強化が使えるため、強制的に魔力を感知させるスパルタトレーニングを行った。ギル自身はとても辛そうだったが、俺たちは有無を言わさず、トレーニングを続けた。俺たちからしてもきついトレーニングを耐えきったのは流石といった所だ。


 その結果ギルは、部分強化まで使えるようになり、ギルの一振りは大岩も割れるほどだ。まるで超人だな。


 そして、俺も徐々に模擬戦を増やし調整を行った。具体的には、瞑想も兼ねた魔力操作、いつもの素振り、型、模擬戦を行った。


 毎日の基本動作の積み重ねが一瞬の勝負を決めると思っている。だからこそ基本動作を完ぺきにすることを意識している。初心忘るべからず、といった所だ。



 剣闘大会は学園内の闘技場にて行われる。闘技場は剣闘大会用に作られたらしい。他にも使用用途があるみたいだが、まだ見たことがない。


 アレクやフィーネたちは観覧席で見ることになっている。俺の家族もアレクの近くで見ることになるだろう。従って、フィーネは俺の関係者に囲まれて見ることになる。社交場で父上はフィーネに挨拶したことがあるだろうから、いい具合に場を和ませてほしいものだ。アレク達もいるし上手くやるだろう。


 俺たちの集合場所は闘技場の前。


 俺の前に聳え立っているのは、前世のコロッセオが思い出される大きな建造物だ。土から作られた質素な造りに見えて、細部には装飾が為されており、古代の遺物かのような風格を備えている。 


 入口付近には、エデルバルク王国を建国した英雄、エリツィオの石像が建っている。剣を地面に刺し、両手を柄に置いて、立っているその姿は英雄そのものだ。しかし、エリツィオの顔には皺が見て取れ、なかなかの年齢であったことが分かる。逸話では、一振りで1000人を吹き飛ばした、や、酒場の酒をすべて飲み干すほど豪胆な人物であったと言われている。誇張された形で伝わっているとは思うが、帝国との戦に勝っていたエリツィオは、それほどの実力を兼ね備えた人物であったということだけは確かだ。


 それが、現在では貴族至上主義になってしまって、昔の王国など見る影もない。悲しいことだが、現実だ。『昔はよかった』と言っても何も現状は変わらない。ライのような良き心の持ち主がまだ存在しているうちに王国を立て直さなければならない。帝国が大人しくしているわけがないのだからな。今も何か策が打たれているはずだ。手遅れにならないうちに対策を講じねば王国の存続が危ぶまれる。まずはライを王に据え、良き政治を取り戻そう。


 そんなことを考えていると、ギルとライ、そしてフィーネがこちらに近づいているのが見えた。


「皆! おはよう!」


「おはよう! カイル!」


「おはよう。今日は頑張ろうね」


「おはよう。今日は頑張って!」


 ギルは俺たちの前では素を見せるようになってきており、当初の硬い怖い顔は見なくなった。ただ、クラスにいる時はムスッとしていることもたまにあるけど。


 ライはいつも通りだな。今日は剣闘大会だってのに、案外芯の強い奴だ。


 フィーネはライの付き添いってとこか。今は前と比べて発言の角が取れてきつつある。今まで気を張っていた分、今のフィーネは愛らしく見える。でも、そう伝えると『ムキ――――ッ』って怒るから、フィーネの前では禁句だ。


「フィーネはライの付き添いか?」


「そうよ。べ、別に皆を応援しようだなんて、お、思ってないからね! つ、付き添いなんだから!」


 フィーネのツンデレは未だ健在だ。ボロが出ているのには気づいてない。こういう時は素直にお礼を伝えるのが一番だ


「ありがとな! フィーネ」


「なっ//// そ、そそ、そんなんじゃないって!!!」


「カイル、そんないじめてあげないで」


「ライ、良かったな。フィーネが婚約者で」


「ああ、フィーネは僕にとってかけがえのない人だよ」


「ふぇ!?」


 フィーネが頬を赤らめる。ライはナチュラルにカッコイイことを言うから、被害に遭う女子も少なくない。マリアとかマリアとかマリアとか…


「フィーネはこの後どうするんだ? 俺は試合の準備とかがあるんだが」


「あ、ああ、私はこの後、アレクさん達と合流して出店を巡る約束をしているのよ。だから遠慮せず準備してちょうだい!」


「アレク達といるなら安心だな。なら、遠慮せず俺たちは控室に向かうぞ?」


「ええ、じゃあここでお別れね」


「ああ。皆いこう! フィーネ、ありがとな」


「だからそんなんじゃないってーーーー!」


 フィーネはもっと素直になったらいいのに、とは思うが、簡単には性格は治らないだろうな。


 仕方がない、徐々に矯正していこう。


 俺は少し緊張しながら、闘技場内の控室へ向かった。

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