第21話 敗北と勝利

 先程まで話していた男の指示で2人が僕の方を値踏みするように視線を向けながら近付いてきた。


 僕は今武器を所持していない。従ってこの2人に対抗するために有効な手段は、格闘と魔法しかない。魔法は実戦訓練を積んでいないから変に使えばその隙を突かれてしまうかもしれない。


 勝機があるとすれば、相手が僕のことを油断しているところだ。まずは2対1の状況を崩すために、隙を突いて1人を気絶させるか。剣を奪えれば上々だ。


 初戦闘をどのように進めるかをイメージした後、僕は行動に移した。


(身体強化)と相手に聞こえない程度に詠唱すると

足に魔力を集中させ一気に足を踏み込む。


 手に魔力を集め、踏み込んだ速度を手に集約し、右手にいた男の鳩尾に一撃を叩き込む。


 前のめりになった男の横に回り込み、頚椎に手刀を振り落とす。


 これで一人は仕留めた。


 男が握っていた剣を取り、もう一人の男と正眼の構えを取って相対する。


 最後には、あの男が待っているから、この男で体力を消耗するのは良くないだろう。

 ここは相手の技量を見極めるべく受けの姿勢を取るべきか。


 相手が、雄叫びをあげながら、こちらへと走り出す。


 相手が間合いに入ると剣を振り下ろしてきた。こんなもの、父上に比べると速度も正確性にも欠けている。


 相手の力を見極める必要すらないな。


 振り下ろして剣を左に避け、振り下ろした反動で前のめりになっている相手に対して、柄で頸椎を打つ。


「ハハハッ。そいつら雑魚2人では相手にならなかったか。やるな、お前。

 ――何者だ?」


 男の纏う雰囲気が変化した。先程まではごろつきの眼だったが、今はその比ではない。


「その質問そっくりそのまま返そう。なぜ、少女を攫おうとしている!」


「ただ金になるからだ。それだけの理由じゃダメか?」


「まぁ、いい。クズには死んでもらう」


「ハハッ。言うじゃねーか。ガキが。雑魚2人れないガキが俺を殺せるのか? あぁ!?」


「抜かせ!」


 お互い睨みあったまま、会話を続ける。


 男がこちらに向けて走り出す。振り下ろされる剣を躱すと同時に後ろへ飛ぶ。男は、それを予測していたかのように追撃を放ってくる。


 それに呼応するように剣を交える。

雑魚敵とは違い、才能を補うほどの経験を感じる。こいつは危ない。


 幾度となく剣を交えていたが、その時は突然終わりを迎えた。僕の持っている剣が折れたからだ。


 しかし、このごろつきの剣が俺に届くことはなかった。


―キンッ


 これまでで一際大きな剣戟音が響く。


「だから言ったじゃないですか......」


 その声はカイルを安心させるものであった。


「何者だ?」


 ごろつきが低い声で問いかける。


「お前が名乗らない限り、俺が名乗ることはない。死にたくなければここから立ち去れ」


「2対1じゃあ、分が悪い。今回は退くことにする」


 そのごろつきは煙玉を使い去っていった。


「すまない。アレク。ありがとう」


「礼ならミゲルに言ってやってください。俺に残るよう指示したのはミゲルなので。怪我がないようなら良かったです!」


 ミゲルの指示か。ミゲルは納得がいってなさそうだったからな。結果的には助けられてしまったかな。


「もう少しすれば、ご当主様も来ると思います。そちらはカイル様に言われた通りミゲルが伝えに来ましたから」


あぁ、怒られるな。これは......


「カイル様っ!?」


 父上が来るのを待つことなく、僕は意識を失った。

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