第4章 ⑦

「ボクを捨てないで、コウキ」


 クローン人間は弘毅の腕を掴んで引く。その胸に抱きついてくる。


「うあ…っ」


 クローン人間の腕の力は異常な程に強く、弘毅は身動きが取れなかった。


「…峻…」


 背骨が折れそうだった。絞り出される呻き声。


 その目の端で、小さな影が横切るのが見えた。途端に弘毅は弾かれたように尻餅をつく。


 見やるとクローン人間の腕が落とされていた。弘毅は深呼吸を深くついて、すぐ顔を上げる。


 その時には真雪は既に駆け出し、そのままクローン人間の懐に飛び込んだ。


「行こう、一緒に」


 パチパチと花火のようなものが弾け、クローン人間は動きを止める。


「な…に…?」


「あの暗い淵へ帰ろう」


 真雪はクローン人間の胸に手をつく。その手がその中に沈んでいくように見える。


「おいっ、真雪ッ」


 弘毅を振り返る真雪。


「手間をかけさせてごめんね。この子は僕が連れて行くから」


「イヤ…だ…」


 クローン人間は何とか真雪から逃れようともがくが、身動きが取れなかった。


 真雪はその隙にさらにクローン人間の身体に身を沈める。それはあたかも融合しているかのようにも見えた。が、実際はクローン人間の身体が溶けているのだった。


 白い蒸気が立ち込める。


「ごめんね、君には何の罪もないのに。君を生み出したのは僕達の罪。ごめんね」


 真雪の身体も白く変化していく。


 はっとして、弘毅は駆け寄る。


「やめろっ」


 真雪の身体を掴んで、クローン人間から無理やり引きはがした。


「「うわああああ――っ!」」


 クローン人間と真雪の悲鳴が重なる。まるでひとつの物を二つに裂かれたように。


 真雪はポトリと、弘毅の腕の中に落ちる。クローン人間はふらつきながら、後ずさる。身体のあちこちが溶け落ちていた。


「おいっ、しっかりしろっ」


 頬を軽く叩くと、真雪はうっすらと目を開けた。


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