第4章 ⑧

「邪魔、しないで…」


「ばかやろーっ」


 弘毅は真雪を抱き締める。


「お前を死なせるわけにはいかねぇんだ、今度こそ」


 傍らでクローン人間の気配がした。見やると、身体の再生がされないまま近づいてきていた。その姿にゾッと背筋を走るものがあった。


「ダメ、逃げなきゃ…」


 真雪が弘毅の袖を掴む。その手をそっとはがして、真雪を地面に降ろす。


「弘毅っ」


「あれは俺達の罪だ。そうだろ?」


 視線だけ真雪に返して、すぐにクローン人間に向かう。


「さっき、お前、俺に聞いたよな。本当に俺にお前を殺せるかって」


 弘毅はゆっくりクローン人間に近づく。クローン人間は笑う。


「無理だよね。だってボクはコウキの大切な人だもの」


「そうだな。俺の大切な恋人、峻」


 弘毅は、両手を前にかざして、クローン人間の繰り出した炎を壁を作ってさえぎる。そのバリアから素早く飛び出して、もう一度両手でクローン人間の身体を捕まえる。


「だけどな、俺は峻を守る為なら、峻自身すら殺せる」


 光があふれた。


 一瞬、炎かと見まがうような赤い光だった。その光の中でクローン人間の身体が滲んでいった。


「ごめんな、ごめんな…」


 小さく呟く。


 光が消えるまで、何度も、何度も繰り返した。


 やがて消えゆく光は、小さく小さくなって、手を差し伸べる弘毅の手のひらで、静かに、細胞のひとつまでも消滅していった。


「…ごめん…」


 そっと、手のひらを握り締める。


「松田さん…」


 小さく声をかけられて、振り返る。心配そうに見上げてくる小さな顔があった。弘毅はゆっくり歩み寄って、膝をつき、その頬に触れる。


「大丈夫か?」


 わずかに目を細め、穏やかな声で聞く。真雪が思わず赤くなるのを、弘毅は抱き締める。


「…!」


 驚いた表情の真雪の顔。しかしすぐに目を閉じて、弘毅の胸に身体を預けてきた。


 暖かな温もりがそこにあった。






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