第2章 ⑦
「峻ッ」
再び近づこうとする弘毅の腕を掴んで止めたのは、真雪だった。
「大丈夫だよ。すぐに再生するから」
「お前がやったのかっ」
弘毅は真雪の襟首を掴み上げる。真雪は弘毅をまっすぐに見返しながら、自分を掴む手を解くと、クローン人間に向き直る。
「見ていたくないんでしょ? 下がっててよ。僕がやるから」
言って真雪は一歩、クローン人間に近づく。クローン人間は両手を下に下ろしたままで血を滴らせながら後ずさる。そうしながら、両手首から小さな火花のようなものが散り、次第にその手首から先が再生していった。
「何故ジャマばかりする、君は?」
しかし真雪は答えず、再生しきる前にクローン人間に向かって駆け出した。
右手を繰り出し、続けて右足で回し蹴りを送り込む。クローン人間は両手の再生に半分気を取られていたらしく、蹴られるままに横に吹き飛んだ。
「峻ッ」
飛び出して行こうとする弘毅をチラリと見やって、真雪は両手を素早く地面につく。途端に弘毅の足元の瓦礫から彼を取り囲むようにいくつもの柱が伸びて檻のようなものが形成された。簡単にその中に閉じ込められる弘毅。
「少しおとなしくしててよ」
言い放つ真雪に弘毅は喚き散らす。が、蹴ろうとも殴ろうとも檻はビクともせず、弘毅は思わず念を込めようとして、ビクリとその手が止まった。
自分の超能力。それは峻を不幸にしたもの、そのものだった。助けるどころか、幸せにするどころか、苦しめ続けた。何も、与えてやれなかった。
あれから一度として使っていなかった。
動けずにいる弘毅の目の前、真雪が地面から生成するのは一本の槍だった。武器として使用するつもりなのだろうか。
その槍を手に真雪はクローン人間に突っ込む。両手を再生しきったばかりのクローン人間に正面から槍を突き立てる。
「峻―――ッ!」
その寸前、弘毅は念を込めた。無意識だった。
途端、真雪の足元が柔らかく波打ち、彼は足元をすくわれ、バランスを崩す。前のめりに倒れかけて、何とか膝をついて踏みとどまった。
その正面にクローン人間が立つ。
はっとして顔を上げる真雪。足元に転がった槍を真雪の手の届かないようにけり飛ばして、クローン人間は素早く片手を伸ばしてきた。
逃げようとする真雪の左腕を捕らえる。
「捕まえた」
真雪はクローン人間から逃れようとして、超能力を使おうと意識を集中させる。が、それをさせまいと、クローン人間は真雪の腕を背後に捻り上げた。
「う…あ―――っ」
変な形に捻り上げられ、真雪の腕が鈍い音をたてた。
クローン人間が手を離すと、真雪はその場にうずくまる。だらりと垂れ下がった左腕を押さえて。
それを無表情に見下ろすクローン人間。
「もう、ボクのジャマ、させない」
言って真雪の髪を掴み上げ、上を向かせる。そしてその細い首を手で握る。
「待て、峻。やめろっ!」
檻の中で弘毅が怒鳴る。その彼を振り返って。
「コウキとボクとの仲を裂こうとするのに、こんな子、かばうの?」
「そうじゃないっ。お前はそんなこと、しちゃ、ならねぇんだ」
弘毅は夢中で檻を砕く。外に飛び出し、クローン人間の方へ歩み寄る。
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