第2章 ⑥

「コウキ…?」


 呼びかけに、弘毅は僅かに顔を綻ばせる。


「峻…」


 ゆっくり歩みを進め、やがて小走りに駆け寄ると、峻の姿のクローン人間を抱き締めた。


「峻、峻…」


 生成した時は、峻の当時の年齢を鑑みて16歳の身体で成長を止めた。その後、成長しなかったのだろう。クローン人間は昔のままだった。二つだけ年下だった彼は、当時は弘毅と背丈に殆ど差がなかったのに、20歳近くになって一気に背が伸びた弘毅とはすっかり体格に差ができていた。今では、クローン人間の身体はすっぽり弘毅の腕の中に収まってしまった。


「コウキ…」


 繰り返す言葉。


 峻の声で、峻の顔で、峻の身体で。


「ごめんな、峻…ひとりぼっちにして、ごめんな…」


「コウキ…」


 ゆっくりと弘毅の背に回される腕。


「ダイスキ、コウキ」


 コトリと、頭を弘毅の胸に預けてくる。と、いきなり。


「弘毅っ!」


 怒鳴る声にビクリとする。真雪の声だった。はっとして見下ろすクローン人間の顔は、血糊がべっとりと付着していた。大きく口を開けると、鋭い牙のような歯が覗く。


「う…」


 思わず逃げようとするが、背に回された手は振りほどけない強さだった。


「ボクを一人にしないで…」


 ギリッと、背骨の鳴る音が聞こえた。締め付けられて、胸が苦しくなる。


「う…峻…」


 背骨が折れるかのような力だった。弘毅はクローン人間の腕に捕らえられ、すっかり身動きがとれなくなっていた。


 その時、間近でビリビリと空気の帯電するのを感じた。


「うわああっ」


 途端、クローン人間は悲鳴を上げて弘毅から離れた。身体が自由になると同時に弘毅は一歩下がって目の前のクローン人間を見やる。彼はその両手首から先を失って、ポタポタと血を滴らせていた。


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