第2章 ⑤
「東堂さんっ」
弘毅の隣から制止の声が上がる。見ると真っすぐな目があった。ひどく悲しそうに見えた。
「僕がやりますから」
真雪が穏やかなままの口調で言う。しかしその語調ははっきりとしたものだった。
「罪は僕が償います」
その言葉に見返す弘毅。それに気づいて真雪も振り向くが、そのまま黙って目を背ける。
――何だ、こいつは…。
その横顔に何か大切なことが思い出せそうで、じっと見やる。
その時。
ノックの音もなくドアが開かれた。
「失礼しますっ」
慌てた様子の職員が姿を現した。
「西C七地区に実験体S-01が出現しました」
その言葉に、その場の空気が一気に緊張した。
* * *
街は逃げ惑う人でごった返していた。その人込みを泳ぐようにかき分け、弘毅は前へ進む。
そしてたどり着いた先、商店街の一角にクローン人間はいた。
「峻ッ」
弘毅の声にクローン人間が振り向いた。
全身に血を浴び、滴らせていた。特に顔が血で赤黒く汚れていた。それは彼のものではなく、その手に握られている人間――半分に食い千切られてしまっている人間の身体から流れ出たものだと分かった。その姿に、弘毅は思わず立ち止まる。
これは、この峻は人ではないと、その形相から伝わる。
「人の命を食べないと生きていけないんだよ、あのクローン人間は」
全速力で駆けてきたつもりなのに、あっと言う間に真雪は弘毅に追いついてきた。軽く息を切らせてはいるものの、平常のような顔をしていた。しかし、クローン人間に向ける目は厳しいものだった。
「松田さんは下がってて。僕が…」
言って前へ出ようとする真雪。その腕を捕まえる。
「俺が話をつける」
「話をって…?」
そのまま弘毅は真雪を後方へ突き飛ばして、ゆっくりクローン人間に向かった。
「話なんて通じる相手じゃないよっ」
「うるさい。引っ込んでろっ」
真雪に怒鳴ってから、クローン人間に向き直る。クローン人間は手にしていた人間を手放し、自分に向かってくる弘毅に一歩近づく。
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